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年間100本の取材も受ける!「葬送・終活ソーシャルワーカー」がどういう仕事なのかを本人に聞いた

All Aboutの専門家のお仕事について聞くコーナー、今回は葬送・終活ソーシャルワーカーの肩書を持つ、「葬儀・葬式・お墓」ガイドの吉川 美津子さんのお仕事を聞いてきました。

こんにちは! All Aboutの専門家のお仕事について聞くコーナー「ガイドのお仕事聞いてみた」のレポーター、砂流(スナガレって読みます)です。

総合情報サイト「All About」で活躍している約900人のガイドの皆さんは、家事やファッション、グルメ、お金、ゲーム、家電などの様々なジャンルの専門家です。各領域で専門性を活かしたお仕事をしていらっしゃるのですが、中には聞きなれない肩書もチラホラ。
というわけで、今回取材するのは、葬送・終活ソーシャルワーカーの肩書を持つ、「葬儀・葬式・お墓」ガイドの吉川 美津子さん。
All About「葬儀・葬式・お墓」ガイド 吉川 美津子

葬送・終活ソーシャルワーカー/社会福祉士。大手葬儀社、墓石・仏具店で実務を積み、専門学校の葬祭ビジネス学科を運営。その後、葬儀ビジネスに関するコンサルティング業務を開始。弔事グッズの企画・開発なども行っている。

■異業種とエンディング産業を結びつけるコンサルタント

さっそくですが、吉川さんの職業を教えてください。
私が主に生業としているのは、企業向けのコンサルティングです。例えば葬儀社さんとかお墓、石材店といった葬送関連の企業からビジネス戦略に関する相談ももちろんあるのですが、どちらかというと供養業界とは全く関連がないIT関係、流通関係、広告関係、旅行会社、家電メーカーといった異業種からの相談が多いですね。
流通関係に家電メーカー……イメージがわかないのですが、どういう相談なんですか?
あまり詳しくは言えませんが、自社でもっている技術や土地などのアセットを活用して、供養・エンディング業界に参入する際の相談が多いです。例えば家電メーカーさんの場合だと、彼らが持っているIT技術を見守りサービスや介護システム、ケアプランの構築に活かすとか。あと、カラオケメーカーの場合は、各地域にあるカラオケボックスの活用方法として、最近利用者も増えている民間による遺体安置所ビジネス、通称「遺体ホテル」への参入だとか、あるいはデイサービスといった介護施設にしたいとか。

そういった与件に対し、私はビジネスフォーマットの提案をして、成立した場合は関連会社を紹介するということをしています。 企業案件は新規事業部からの依頼が多いのですが、新規事業って形がない段階では予算が下りないケースが多い。だから初期段階で私のような個人にお話が来るんですよね。なので、私が関わる部分は最初の取っ掛かり部分が中心です。
見守りサービスに介護システムって、エンディングビジネスは死後の供養に関するものだけじゃなく、介護に関する事も多いんですね。
そう。実は私、社会福祉士でもあるんです。国家試験を取って社会福祉士になったのは2017年なのですが、勉強をはじめたのは3年前で、それと同時に介護職もはじめました。 ご指摘のとおり、葬儀と葬送って福祉と近い領域ですが、制度も含めて業界が完全に分断されているんですね。

例えば、医療保険も介護保険も死をもって使えなくなってしまうため、エンゼルケア(死後の処置)は保険外サービスになってしまう。生前、任意後見契約等を専門家にお願いしていた方でも、死をもってその契約は終了してしまうので、死後に発生する手続きをお願いしたい場合は別に契約を結ばなくてはいけないんです。

私は元々、葬儀社の現場や、お墓・仏壇の業界で働いていましたが、常々分断されている各業界の制度をどうやって橋渡ししたらいいのかと行ったことを考えていました。それで福祉の専門職を取得しました。今は、福祉の専門職、葬送の専門職として二つの業界間を繋いでいくのが課題です。 そんな事もあって、今は特別養護老人ホームで、介護のパートもしつつ、企業コンサルなどをしています。
え!? 老人ホームでパートですか? これまたどうして……
パートをしているのは、現場を重視しているからです。終末期を迎える人たちとか、認知症の人たちの現状をダイレクトに肌で感じるためには、福祉の現場に実際に立たないとわからないことが多いですから。社会が抱える課題も課題解決の糸口も現場にあると考えています。

■年間100本の取材に講師と本の執筆も!

吉川さんはコンサルと介護以外にもまだお仕事があるんですよね?
はい。駿台トラベル&ホテル専門学校と、上智社会福祉専門学校の介護福祉科で講師もやっています。駿台トラベル&ホテル専門学校では、ホスピタリティは冠婚葬祭すべて共通しているという思いから葬祭マネージメント学科が約20年前にできたのですが、その頃から立ち上げメンバーの一人であり、講師として携わっています。

私が教えているのは葬送概論という、葬儀とかお墓とか供養産業の全体観です。もう1つの上智社会福祉専門学校ではまた切り口が違っていて、介護職の方に対して終末期から、亡くなった後のことをきちんとお伝えする授業を今やっています。
冠婚葬祭は全てホスピタリティって、考えてみると確かにそうですよね
そうですね。供養業界はホスピタリティ産業の経験者にハマるんです。私の周りも旅行会社、ホテル業界出身の人が多いですね。冠婚葬祭の中でも、ウェディングってどちらかというと若い人たちの憧れの職業だけど、ある程度の年齢になるとそんなに魅力を感じなくなってくるのか、供養業界に来る人も多いですよ。メディアで取材を受けることの多い某葬儀社の代表も、ウエディング業界から参入した一人。そんな感じで、ホスピタリティ産業とはすごく相性が良いんですよね。
専門学校での講師に、企業コンサル、介護施設でのパートってめちゃくちゃ多忙な生活ですね。
ベースは企業コンサルですが、1カ月30日だとしたら、講師をやっている日が5日ぐらい、丸一日介護をしている日が6日ぐらいあると思います。あとは講演とか、本の執筆をしつつ、合間に取材を年間100本くらい受けたりします。 葬儀とかお墓を取り上げる情報番組とか雑誌って意外と多くて、ここ数年の間に500本くらいは取材を受けている印象です。

介護・福祉関係では、昨年10月から、コミュニティFMの番組「くらサポラジオ」(レインボータウンFM)の放送が始まりまして、毎週ラジオパーソナリティーとして、ここで介護や福祉の情報を発信しています。
年間100本の取材!どういう質問が多いんですか?
「葬儀・お墓・終活」という3つのキーワードでいくとしたら、圧倒的に多いのはお墓です。切り口はいろいろありますが、どちらかというと、「今あるお墓の悩みをどうやって解決したらいいのか?」という取材が多いですね。例えば、「遠方にあるお墓はどうしたらいいの?」とか、「実家と旦那の実家と両方の墓守が大変でどうにかしたい」とか、そういう具体的なお墓の悩みに対する解説を求められたりします。

葬儀って結婚式と同じでイベントですが、お墓は後に残るもの。しかも先祖代々受け継いでいくので抱える問題も大きい。また最近は、お墓に関する選択肢が多様化する上、宗教的な背景や風習も手伝って選択するのが難しいんですよね。例えば今注目されている樹木葬一つとってもいろいろあって、木の下に骨壺を納めるタイプや、コンクリートで出来たマンホール状のところに骨を納める場合もある。私たちでさえも、新しい商品やサービスを追うのが難しいくらいですから、一般の方の知識ではとてもじゃないけど選ぶのが難しいと思います。


多様化する手元供養品。インテリアになじむデザインも多い。
あとは、前例が少ないので、気をつけるポイントなども知らない方が多いです。取材を受けた際や「All About」の記事では、供養の選択肢や、決断する上で多くの人が悩むポイントなどを、専門家の立場から整理して伝えています。
かなり現代的な発想のお墓も多く出ていますが、抵抗を感じる人も多いのではないでしょうか?
地域による差もありますが、人によりますね。でも実は、先祖代々受け継ぐ個人墓の形は、日本の古来のものではなく、たかだか明治以降の、家督制度が成立したときからの制度なんです。それまでは村単位の共同墓地や個々で供養されていました。お墓のスタイルは時間を経て昔から変わっているわけで、今また変わろうとしている、ちょうどその狭間にいるのかなと感じますね。

■葬儀とお墓はそんなに重要じゃない!?吉川さんが考える「終活」

年間100本の取材や講演で「終活」に関して解説されている吉川さんですが、ご自身ではどのような「終活」を考えていますか?
最近は、自分の葬儀とかお墓についてすべて決めてしまうことはそんなに重要じゃないなと思っています。葬儀ってもちろん大切なセレモニーで、亡くなった人をどう見送るか、葬儀を考えるのはすごく大事です。ですが、自分のお葬式を自分で決められちゃうと、残された人が困ってしまうというケースが多くて。

例えば、地方に住んでいる父親が亡くなったケースで、生前に「葬儀しなくていい」と言われたので火葬だけにしたとします。この場合、母親が一人で地方に残されている状態ですが、ひっきりなしにお悔やみの電話が来たり、お香典が送られてきたりとかして、亡くなった後も、残されたお母さまが一人で全部やらなきゃいけなくなるとか。

「お墓いらないから散骨にして」と言われた場合も、後から「そういえば、お父さん海なんか縁もゆかりもなくて好きでもなかったのに、これで本当に良かったのかな」と悩んだり。 そのときは勢いでなんとかなったとしても、人間は浮き沈みがあるので、どこかに手を合わせたいなと思ったときに、「そういえば、お父さんのお墓なかった」と。そういう事例をけっこう見てきたので、終活をするうえで、葬儀やお墓のことを考えなくていいというのではなくて、葬儀の形とお墓の形は、家族と一緒に考えることが大切なのではないかなと思いました。

そのほか終活でぜひやっていただきたいのは、財産などの身辺整理ですね。あとは、親子がお互いの交友関係を知らないケースも多いので、誰をお葬式に呼んだらいいか、といったお付き合いリストをつくっておくのも大事です。 後は、Quality of dying(クオリティ・オブ・ダイニング、以下QOD)を考えるのも重要だと思います。
QODって何ですか?
QODというのは欧米で出来た言葉で、いかに満足して死を迎えるか、という終末期の質を表していて、身辺整理とあわせてどのように死を迎えるか、つまり「死に場所」「死に方」を考えることでその質が高まると言われています。 本人がどういう死を迎えたいか、終末期の医療、緩和ケアについても元気なうちに考えておきたいものです。

■専門家にしか発信できない情報を書くのが役割

吉川さんは、All Aboutで、「葬儀・葬式・お墓」などの情報も発信されていますが、そのきっかけは?
2006年から書きはじめたのですが、当時、独立するときにセルフブランディングの一つとして、大きな媒体の力を借りたいと思っていて。それで見つけたのが「All About」でした。初期の頃は私が書きたい内容を掲載していたんですが、なかなかアクセスが上がらなかったんです。ところが年末年始の喪中に関する記事を書いたら一気にアクセスがあがって。一般ユーザーが知りたい情報は、誰に聞いたらいいかわからないことなんだなという事を徐々に実感しました。
最近は、いろいろなところでこういった情報を摂取できるようになりましたが、間違っている情報といいますか、いただけないな、と思うような情報ってあったりしますか?
マナー系はけっこうボロボロですね。例えば、「このたびはご愁傷様でございます」というのを受付で言うときに、あるマナーの先生は「このたびはご愁傷……」って、語尾を濁していくって書かれています。

でも、そんなに器用にできる人なんて世の中そんなにいなくて。だったら、言うか言わないかのほうがよっぽどすっきりスマートにできるし、大事なところはもっと違うところにあるじゃないかと。これだけ情報が多い時代だからこそ、専門家に教えてもらいたい情報、専門家しか発信できない情報を書くのが私の役割だなと思っています。

■まとめ

吉川さんのお仕事の内容から、終活についてなど、いろいろな話が飛び出したインタビューとなりました。福祉と、葬儀、葬送などの業界が完全に分断されているので、その橋渡しになりたい、という思いから社会福祉士の国家資格を取ってパートとして現場に出られている吉川さんのお話がとくに印象に残っています。

吉川さん、ありがとうございました。

取材・文:砂流恵介
元エイサーの宣伝・広報。宣伝会議のWeb広報講座の講師。Engadgetやネタりかなど、いろんな媒体で記事を書いています。
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