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【暮らし】

<守りたい 発達障害女児の支援> (下)体動かし世界広げる

バレエを取り入れたプログラムを受ける女児たち。楽しみながら体を鍛え、きれいな姿勢を身に付けている=名古屋市昭和区で(ルーチェ提供)

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 ピンと両手を広げ、脚を前に高く振り上げながら歩く。横向きに歩いたり鏡の前でつま先立ちをしたり。これはバレエ教室ではなく、名古屋市昭和区の発達障害児向け放課後等デイサービス「Luce(ルーチェ)」が実施する発達障害の療育プログラムの一コマ。女児たちは皆、バレリーナ気分で澄まし顔だ。

 一般に人は自分の体の向きや体勢を意識しなくても把握できる。だから、目をつむっていても頭をかいたり足を触ったりできる。しかし、この感覚が発達しきっておらず、誰かに触れられても、どこを触られているのか分からない子もいる。その感覚を養うためバレエやヒップホップダンスを療育に取り入れている。

 動きを分解した写真をカードにし、曲に合わせてどのポーズをどんな順番でするのか繰り返し見せる。周りの空間を把握するのも苦手で、踊りながら全員で円を描いたり、向きを変えたりすることが難しい子も多い。しかし、時間をかけるとイメージがつかめ「どうすれば踊れるようになるか」を考えるようになったり、仲間を意識して動いたりできるようになっていく。

 発達障害があると、自分からは運動せず閉じこもりがちになる子も多い。幼いうちから体を動かすことを習慣付け「障害をもつ子どもたちの世界を広げてあげたい」との思いも、プログラムには込められている。愛知県心身障害者コロニー中央病院(同県春日井市)の作業療法士でルーチェを支援している小松則登(のりと)さん(50)は「自分の体がどのように動くか分かるようになると、心も元気になる。バレエやダンスは、コミュニケーションなどを学ぶ上でも役に立つ」と、効果を説明する。

 愛知県内の小学四年の女児(10)は一年生からルーチェに通う。物事に対するエネルギー配分が苦手で、何事も全力でやるため疲れやすい。疲れてくると気持ちの切り替えができずイライラしてしまう。

 「レッスンを休憩したいときは自分で言う」。それができるようになるまでに何年もかかった。かんしゃくを起こすと、人をたたいたり物を投げたり。それでも根気よく「言葉で伝えなさい」と教えてきた。

 一年ほど前から、「休憩したい」と自分で言えるようになってきた。一人になれる部屋にタイマーを持って入り、落ち着くのに何分必要か、自分で決めてセットする。タイマーが鳴ったら気持ちを切り替え、レッスンに戻る。切り替わらなかったらタイマーを延長する。それを繰り返すことで自分を落ち着かせるすべを身に付けつつある。イライラの原因を自分から話し、「すぐキレる私はいやだ」と言うようにもなってきた。

 変化は、小学校でも見られる。普通学級に通うが、低学年のころは気に入らないことがあると教室を飛び出した。気持ちの表現の仕方が分からないもどかしさゆえの行動だが、叱られるばかりでどうしたら良いのか分からず、パニックになった。

 今は学校でも「五分だけ」などと申告し、静かなところで気持ちを落ち着かせることができている。周囲も「怠けているのではなく、そういうことが必要な子」と理解し始めた。ルーチェの施設長藤原美保さん(48)は「発達障害児は、特性を社会に“困り感があって、はみ出した子”と評価された子どもたち。何を困っているのか、社会全体で目を向けてほしい」と話す。

 ルーチェとは、イタリア語で光の意味。「目が悪い子が眼鏡をかけるのと同じで、発達障害の子も、療育のやり方と周りの環境次第で輝ける」 (花井康子)

 

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