ITエンジニアを悩ます「元号」問題…「官製デスマーチ」に戦々恐々
平成に代わる新しい「元号」の発表時期が議論を呼んでいる。政府内では、発表時期は年末以降とする案などが浮上しているが、ネット上では批判の声も。というのも、発表時期が遅くなれば、ITエンジニアが「デスマーチ」(過酷な労働)を強いられる可能性があるからだ。元号をめぐる法律はどうなっているのか。(弁護士ドットコムニュース・山下真史)
●「祭りのためじゃねえぞ」の声も
皇太子さまの即位(2019年5月1日)にともなって、新しい元号に改元される。その公表時期については、政府内で「2018年の年末以降」とする案や「2019年の年明け」とする案が浮上しているという。その時期が遅めになる理由は、「二重権力」が生じる懸念(時事通信)のほか、政府内に「あまり早いと盛り上がらなくなる」(日テレNEWS24)という意見もあるようだ。
こうした状況について、ネット上では「元号変わったらITエンジニアは軒並みデスマーチ入る」「IT土方が画面とか帳票とか修正すんのは、祭りのためじゃねえぞ」などと、批判的な声が多数あがっている。内閣府は、弁護士ドットコムニュースの取材に対して「発表時期は決まっていない」「エンジニアへの影響なども踏まえ総合的に考えている」と回答した。
●デスマーチが起きるかどうかは会社次第だが・・・
ITサービスにどんな影響があるのだろうか。おおざっぱにいうと、インターネット上には、和暦(元号)を使っているサービスと、西暦を使っているサービスがある。元号を使っているサービスでは、新しい元号ができるたびに、システム修正の必要が出てくるのだ。具体的には、どんな作業が発生するのだろうか。あるITエンジニアは次のように話す。
「たとえば、ウェブページに『生年月日』を入力するフォームがあるとします。昭和や平成など和暦(元号)を選択する項目があったとしても、たいていのシステムは『西暦』に置き換えて、年齢計算するように作られています。しかし、そう作っていないシステムでは、新元号で計算する仕組みを新しく作らないといけません。そのフォームが複数あるなら、すべて洗い出して手作業で修正していく必要があります」(同上)
かつて起きた「2000年問題」ほど、大きな影響はないだろうという。「デスマーチ」は起きないのだろうか。
「会社によると思います。今はどこもITエンジニア不足。そのため、どちらかというと、そういう作業ができる人が社内にいなかったり、社内にいたとしてもスケジュールを入れられないくらい忙しかったりします。作業工数は、決して『一大プロジェクト』というほどでありませんが、それなりに時間はかかります。だから、早く発表されることに越したことはありません」(同上)
●「元号法」はとても短い法律
少なくとも、一部のITエンジニアたちを悩ますことが予想されるというわけだ。そんな元号は、そもそもどう決められるルールになっているのか。IT問題にくわしい水町雅子弁護士は「『元号法』という大変短い法律で規定されています。『条』はなく、『項』だけで構成されているという大変稀な法律です」と説明する。
元号法の本則は次のようになっている。
(1)元号は、政令で定める
(2)元号は、皇位の継承があつた場合に限り改める。
「つまり、具体的な元号は『政令』によって規定されています。平成については、『昭和六十四年政令第一号(元号を改める政令)』で、『元号を平成に改める』とされています。新元号についても、『平成三十年政令第〇号』または『平成三十一年政令第〇号』という政令が定められて、その中で新しく規定されることになります。なお、発表時期は決められていません。政府の判断ということになるでしょう」(水町弁護士)