加工食品に大きく記された「無添加」「不使用」の表示。日本食品添加物協会は事実に反する表示などへの自粛を求めている

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 保存料や着色料などの食品添加物を「使わない方が安全」と考える人もいるのでは? しかし、例えば保存料は、食中毒のリスクを下げるなど重要な役割を果たしている。

 こうした事実が理解されない一因になっているとして、一般社団法人日本食品添加物協会(JAFA)が添加物の「無添加」「不使用」に関する見解を表明、食品関連業界に表示の自粛を求めた。(平沢裕子)

 消費者に誤解

 JAFAは今年1月、食品添加物の「無添加」「不使用」表示が、「食品添加物の使用の意義や有用性、安全性に対する誤解を広め、添加物を使った加工食品に対する信頼性を低下させる」との見解を表明した。

 その上で食品関連業界に、次のような表示を自粛するよう求めている。(1)「無添加だから安心」など消費者の不安感を利用(2)実際は添加物が使われているのに事実に反する表示(3)一般に同種の食品に添加物が使用されないのに「無添加」「不使用」と表示-などだ。

 JAFAの広報担当者は「15年前にも同様の見解を出したが、状況は変わっていない」と語る。背景にあるのは、JAFAが昨年11月に実施した一般消費者へのアンケートだ。「無添加」「不使用」と表示された商品の方が、表示されていない商品より安全だ、と答えた人が半数を占めた。

 「むしろ近年、『無添加』『不使用』表示は増えている印象。これらの表示はメーカーのイメージ戦略の一環とはいえ、消費者に添加物に対する誤った認識を広めていることは見過ごせない」としている。

 摂取ごくわずか

 食品添加物は、日常的に食べる加工食品に必ずといっていいほど含まれている。このため、知らないうちに多く摂取していると思う人がいる。では、どれくらい摂取しているのか。厚生労働省が調べている。

 スーパーなどで食品を購入し、添加物の量を測定、その結果に国民栄養調査に基づく食品の喫食量を乗じて摂取量を求める「マーケットバスケット方式」という方法で、平成28年度は保存料と着色料を調べた。

 これを、1日摂取許容量(ADI=人が一生毎日食べ続けても健康への悪影響がないと推定される1日当たりの摂取量)と比較。対ADI比は、ソルビン酸(保存料)0・3%▽安息香酸(同)0・4%▽食用赤色3号(着色料)0・03%-などだった。いずれもADIの100分の1以下で、取り過ぎが心配されるレベルではない。

 「危ない」払拭できず

 それでも、パッケージに「無添加」「不使用」をうたった商品が店頭に並んでいる。ある添加物を不使用としたサンドイッチを販売する流通業者は「健康面から添加物を気にするお客さまに対応した」と説明。また、「無添加」をうたうみそのメーカーは、ホームページで「だし調味料を添加した商品も多くある」と他社商品について触れ、「(自社のみそは)本来のおいしさと安全な食品を求めてつくりあげた」と、他社との差別化を理由に挙げる。

 添加物は昭和30~40年代にかけ、死亡事故の発生や発がん性が大きな問題になり、「危ない」との印象が広まった。「『無添加食品』が世の中にあふれているのは、この歴史のせい」と指摘するのは、内閣府食品安全委員会委員も務める近畿大の有路(ありじ)昌彦教授だ。

 しかし、当時問題視された添加物はその後、使用禁止になっている。現在は食品衛生法で使用が認められた添加物しか使えない。例えば、発がん性がある化学物質は使えない。使用が認められているものも、毎日食べ続けても安全な量しか使うことはできない。これが守られているか、行政による厳格なチェックもある。こうした事実は消費者に伝わらず、半世紀前の「危ない」イメージが払拭できずにいる。

 3割高で損も イメージが先行する状況に有路教授は、「無添加・不使用の方が安全という科学的根拠はない」と話す。「食品安全の基本は食中毒対策。保存料は食中毒菌の繁殖を抑える役割を担っている。添加物を正しく使うことでそのリスクを下げることができる」

 さらに、有路教授が調べたところ、無添加食品は添加物を使った食品に比べて、総じて3割ほど価格が高かった。有路教授は「消費者がより多くのお金を負担しながら、食中毒のリスクが増大するリスクを負っていることは大きな問題。この事実を消費者に知ってほしい」と話している。