■技能実習生がセクハラと賃金未払いを訴えた裁判を傍聴してきました!
「オレはいやらしいことをしていません」
被告は全否定するも…証拠は語る
中国人女性技能実習生Aさんが未払い賃金と実習中に受けたセクハラ被害等に対して損害賠償を求めた裁判が、2月23日(金)水戸地裁であった。
今回は被告である雇用主農家のB親子、受け入れ団体である協同組合つばさの実質代表者D、そしてもう1人の原告Cさんの尋問が行われた。
Aさんに対してセクハラ行為を行ったとされるBは、「やっていません」と全面的に否定した。
*事件の概要は下記の通り。
http://mimikuro.hatenablog.com/entry/2018/02/04/172039
Bは79歳。茨城県行方市で大葉栽培農家を営んでいた。2004年、事業主としての地位は息子に譲り、それ以後は妻と息子を手伝っていた。
B宅では16~17年前から協同組合つばさを通じて、技能実習生を雇い入れるようになり、常時4~5人の実習生がいた。実習生の多くは女性で、事件当時男性は1人いるだけであった。
裁判当日、Bは息子とともに法廷に現れた。黒いブルゾンとグレーのズボン、スニーカーという姿。普段着でやってきたという感じだった。背はあまり高くない。白髪交じりの短髪、薄くなっている後頭部。
ずっと家族で農業だけをやってきたのだろう。すべてが裁判所という場所には似つかわしくなかった。
証言前の宣誓に戸惑う
当日の傍聴者は20人あまり。Bは予想していたより人が多いことに緊張が高まったのだろう、証言の前にちょっとしたハプニングがあった。
証人は証言の前に宣誓文、「良心に従って真実を述べ、嘘偽りを述べないことを誓います」を読み上げなければならない。難しいことはない。紙を渡されるので、そのまま読めばよい。文字は大きいし、ルビもついている。
しかし、Bはもともと目が悪いのか、緊張のせいか、紙を渡されても一言も発しなかった。1、2分後一言。
「読めねぇ……」
証言台の前で立ち尽くすB。
すぐに事務官がBのそばまで行って、丁寧に説明した。
「この紙にはね、本当のことを嘘を言わないでお話をしますと、書いてあります」
そのように説明されても、固まってしまったB。
「字が見えねぇから……」
困った裁判長、Bに「意味がわかりますか?」と大声で問う。
すると、数秒後ゆっくりと言葉を発した。
「…ここに書いてある…嘘をつかないように、全部言います……」
くぐもった声、強い茨城なまり。
必ずしも宣誓文どおりではないが、趣旨は理解しているようだと、裁判官は宣誓とみなした。
なお、Bが耳が遠いとの理由で、代理人や裁判官はみな、大声でゆっくりと尋問することになった。
セクハラなんて「嘘だと思うね」
Bは実習生たちから「お父さん」と呼ばれていた。被告側はBについて「女性実習生から親しまれていた」、「実習生が実習を終えて帰国する日は別れが惜しくて大泣きしていた」などと、とても人気があり、トラブルなど一つもなかったことを陳述書で主張した。被告側証人として出廷した元実習生も「お小遣いをくれた」「親切で、必ずお菓子や食べ物をくれた」と証言している。
さて、その「お父さん」は代理人からセクハラ行為をやったか1つ1つ尋ねられると、すべて「やっていません」とはっきりとした口調で否定した。
これがBがやったとされるセクハラ行為である。
原告Aさんに対して ・働き始めた初日「あなたはきれいだ。結婚してくれ。私でなければ息子と結婚してくれ」と言った。 ・「きれいだね」「お風呂に一緒に入ろう」と何度も言った。 ・手で胸やお尻を触った。 ・スカートを下にひっぱられた。 ・シャワーを浴びているとき、ドアの外から「一緒に浴びよう」と言った。怖くて外に出られなかった。 ・休日寝坊しているとき、Bが部屋に入ってきてAさんのベッドの横に立っていた。怖くて、しばらく寝たふりをしていた。 ・ビニールハウスを修理しているとき、Bが背後にやってきてお尻を触られた。驚いてAさんが振り向くと、BはAさんの胸に口をつけた。
他の実習生に対して ・実習生たちの前で性器を露出して歩き回った。 ・「○○は胸が小さい」などと話していた。 ・実習生の胸やスカートの下から懐中電灯を当てた。 ・メロンを包む網を実習生の胸や、自分の股間にズボンの上から当てた。
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セクハラをしていない理由は次の通り。
仕事は妻と一緒であり、妻と不仲ではない。
女性の実習生たちが住む女子寮へは入ったことはあった。それは、電気やガス、水道の修理のため、実習生の誕生日パーティに夫婦そろって呼ばれたときで、年に数回ぐらいしかない。
もっとも前立腺に持病があるため頻尿となり、農作業中に立ち小便をすることはあった。しかし、必ず建物の陰に隠れてしていたし、実習生たちの前でやったことはない。
しかも、事件が起こった当時は大幅に体調を崩していた。動悸、めまい、食欲不振、血尿が出ている状態であった。自宅で倒れ、救急車で運ばれて入院までしている。そんな健康状態で、とてもセクハラができるような状態ではなかった。
また、Bは夜実習生にやらせていた大葉を巻く作業についても、自分が監督していたことはないと証言した。自分は引退している立場なので、夜は7時ごろに寝てしまう。だから、実習生たちに「早くしろ、早くしないと中国へ返すぞ」などと言ったことはないと、Aさんの主張を否定した。
主尋問の終盤、代理人から、「Aはあなたからひどいセクハラを何度も受けたと話していますが」と問われると、即座に「それは嘘だと思うね。触ったり、私は絶対やりません」と言いきった。
そして最後にこう言って主尋問を終えた。
「オレは絶対にいやらしいことをやりません。20年間実習生を使ってきて、1つもこんなことはありません」。
「やっていない」と主張はしたものの…
「(セクハラは)嘘だと思うね」「いやらしいことはやりません」と言いきったB。では、Bにとって「セクハラ」「いやらしいこと」とはどこまでの行為をさすのか、反対尋問では原告側代理人の指宿昭一弁護士が尋ねた。
B「体触ったり…」「胸やけつ触ったり…」
指宿弁護士「肩を組むのはセクハラですか?」
B「触っていない」
指宿弁護士「肩を触るのはセクハラと思いますか?」
B「思います」
この証言の後に、実習生たちを連れて旅行に行ったとき、写した写真を見せた。
指宿弁護士「隣の○○さんと肩を組んでますよね。手が見えます」
B「いや、触っていない」
指宿弁護士「あなたの手では?」
B「わかりません」
指宿弁護士「こちらは腕を組んでいますよね」
B「中国人のほうから寄ってきた」
ことごとく否定したものの、焦ったのか、非常に苦しそうだった。
ちなみに、Bは実習生の肩を触ったことがないと証言したが、被告側の元実習生は「Bは私たちを激励するとき、肩を叩いた」と証言している。同様に元実習生は「私たちから腕を組むこともある」と証言しているのだから、無理に否定する必要はなかった。
さらにこんなやり取りもなされた。
指宿弁護士「あなたは実習生のことを『女の子』と呼んでいましたか?」
B「いや、名前を呼んでいました」
指宿弁護士「あなたは陳述書で『女の子を預かっている』と書いていますよ」
B「……」
指宿弁護士「陳述書の内容をよく確認してからサインしましたか?」
B「…わからない…」
ちなみに、裁判所に証拠として提出する陳述書は自分で書く人もいれば、代理人弁護士に書いてもらう人もいる。代理人が書く場合、出来上がった陳述書を読んで内容を確認して、事実と違っていれば訂正してもらってから署名、捺印する。Bの陳述書を私も読んでみたが、これはおそらく代理人が書いたものだろう。
見え隠れする差別意識
実習生にはお小遣いをあげたり旅行に連れて行ったり、家族のようにかわいがり、気前よくふるまう「お父さん」。しかし、その発言には差別意識が見え隠れしていたように思えた。
1つは、技能実習生を「使う」という表現。
主尋問の最後では「20年間実習生を使ってきて、1つもこんなことはありません!」。また、男性の実習生について問われたとき、「(自分の)体の調子が悪くなったので、男を使いましょうということで雇いました」と証言している。主従関係を前提とした、相手を機械かモノとみなしているように感じた。これを聞いたとき、実習生は雇用主にとって労働力以外の何物でもないことがわかった。
2つ目は、女性実習生に対する「女の子」という呼び方。
最後は、実習生と腕を組んだ写真を見せられたとき、「中国人のほうから寄ってきた」という証言。
この場合、答えるとしたら、実際に写真に写っている実習生の名前だし、忘れてしまったなら「実習生」あるいは「隣にいる人」とか、他に言い方はあるだろう。それを「中国人」という民族名、属性で呼ぶ。日本人との区別が必要な状況ではないのに。
非常にうがった見方かもしれないが、「お父さん」は実習生のことを自分たち日本人とはまったく違う、中国の貧しい農村から出稼ぎにやってきた哀れな外国人という意識をずっと持っていたのではないか? 女性実習生はあくまでも「中国人の女の子」。哀れみの対象だから、お小遣いをあげる。お互い対等な人間同士という考えはなかったと思える。
ここで思い出した映画があった。「オキュパイ・シャンティ~インドカレー店物語」。インドカレー店で働くインド人たちが、業績悪化を理由に解雇を通告される。しかも賃金は2年も支払われていなかった。
そこで登場したのが、今回の裁判でも代理人を務めている指宿弁護士。インド人たちは指宿弁護士ほか支援者のアドバイスで、労働組合を結成して解決に当たるという内容である。
映画の中で解雇を通告した日本人の社長はインド人の従業員について、こんなふうに語る。
「私はいつも彼らのことを心配して、家族同然に付き合ってきました」
しかし、当の従業員たちは「社長からはいつも、インド人、バカ、ゴミって言われていた」。
これが実態だ。
労働現場に持ち込まれる「家族」という言葉は、搾取構造を見えなくさせる。
*「オキュパイ・シャンティ~インドカレー店物語」
http://vpress.la.coocan.jp/shanti.html