危険性の低い新型炉を活用しながら原子力依存度を下げるべき
-新設はでなく、既設の原発ならどうでしょう?
既設の原発であれば発電コストは安い。関西電力が高浜原発や大飯原発を再稼働したところ、発電コストが下がって電力料金を値下げできた。再稼働の問題は老朽化した原発だ。国内には40基の原発が存在するが、うち18基の加圧水型原子炉(PWR)はすべて古い。当然、新しい方が危険性は低いが、福島第一原子力発電所事故以前からそうした古い原発のリプレース(更新)を怠ってきた原子力行政のツケが回ってきた。福島原発の事故以降も、原子力エネルギー政策は変わっていない。ただ、残る22基の沸騰水型原子炉(BWR)の中には改良型沸騰水型原子炉(ABWR)が4基あり、それらは新しく危険性も低いので、優先的に再稼働させるべきかもしれない。
-既存の原発だけが頼りとなると、新設は厳しいですね。
中国やインド、ロシアなどの新興国では原発建設が急ピッチで進んでいる。日本では政治家と官僚が原発事故を起こした東京電力<9501>を悪者にして叩く側に回っており、原子力エネルギー政策の長期戦略を立てず、司令塔も存在しない。最新型の原発であれば危険性も低く、安定電源になりうるが、日本政府はそのような議論を避けている。もちろん、その場合にも、古い原発はどんどんたたみ、原子力依存度自体は下げるべきだ。さらに中東など、これから電力需要が急増する国は原子力発電に高い関心を寄せている。先進国が原発ビジネスから完全に撤退すれば、こうした国で中国やロシアの影響力が増す。安全保障上も問題がある。
-国に原子力エネルギー戦略がないのなら、原発の新設は望み薄では…。
2050年時点で新型原発があれば、電力会社にとっては安く安定的に電力を供給するコアコンピタンス(競争上の優位を確保する中心的要因)になるかもしれない。国にやる気がないのなら、電力会社が自主的に取り組むという方法もありうる。電力会社は原発を国策でやるものと考えているから、JR東海のように自社でリスクを取ってリニア新幹線を建設するといった冒険ができない。現在の国内電力会社には、かつて関西電力<9503>が電力の安定供給のために黒四ダム(黒部川第四発電所)を自力で建設したような気概が存在しない。
聞き手・文:M&A Online編集部 糸永正行編集委員