福島第1原発は今 3.11 間もなく7年 復興なお遠く

中間貯蔵施設の建設地に、幾重にも遮水シートを敷く作業員(福島県大熊町で)

 東京電力福島第1原子力発電所事故の発生から7年となる3月11日を前に、日本記者クラブの共同取材で原発構内と福島県内の帰還困難区域に入った。原発構内は、防護服を着けず行動できるまでに整備が進んだ一方で、原発周囲は震災当時のまま放置され、民家も田畑も荒れ果てていた。核燃料の取り出しと廃炉、除染土壌など放射性廃棄物の最終処分は、いまだに見通しが立っていない。原発災害からの復興は、遠く先にある。(福井達之)
 

95%防護服不要 構内 廃棄物処理 重く


 第1原発、通称1F(いちえふ)。汚染水を貯蔵する巨大なタンク群が見渡す限りに立ち並び、無数の配管が縦横に走る。放射性物質の飛散を防ぐため、地面までモルタルで固められた“灰色の世界”を、作業員や工事車両が行き交う。事故から7年。今も連日5000人の作業員がここに通い、崩壊した施設の改修と廃炉作業を続けている。

 記者たちを乗せたバスが高台に停車すると、目の前に巨大な原子炉建屋が現れた。鉄骨がむき出しになった1号機。眼下に防護服の作業員が動き回る。遠隔操作のクレーンが、建屋内のがれき撤去を進めていた。一行は防護服を着ずに、防じんマスクと軍手だけで100メートルほどの至近に立った。東電の案内役が「構内の95%は一般の服装で作業できます」と繰り返した。

 着実に構内の環境整備は進んではいても、課題は山積する。建屋に地下水や雨水が流れ込み、汚染水はなお増え続けている。一時貯留するタンクは構内を埋め尽くし、今も「1日500トンのペースでタンクを増設中」(東電広報)。国の委員会が処理方法を検討するものの、「どの選択肢を取っても“風評”は避けられない」(同)のが現実だ。

 年内にも使用済み核燃料の取り出しが始まる。しかし、原子炉内に人は入れず、溶け落ちた核燃料(デブリ)はその状態さえ把握できない。原子炉の解体、廃棄物の最終処分など今後の見通しは立っていない。世界で経験のない大事故とあって、未知の領域は数知れない。30、40年後を目指す廃炉への道は、遠く険しい。
 

周辺地域 ツタ絡む軽トラ 戻らぬ田園風景


 作業員が行き交う原発構内の騒がしさをよそに、隣接する大熊、双葉両町の帰還困難区域は荒野と化し、静まり返っていた。田畑にススキや低木が生い茂り、軽トラックにツタが絡み付く。人影のない民家の縁側には、あの日のまま、子どものおもちゃが残されていた。原発事故が、そこに住む人々の日常を奪った。

 区域内では、各所で土木工事が進んでいた。中間貯蔵施設の建設だ。高さ10メートルの堤で囲んだ貯蔵地に、ダンプカーが土煙を上げながら出入りする。出入り口に車両を誘導する警備員がマスク姿で立つ。建設予定地では、白い防護服を着た作業員が土木工事を続けていた。

 施設一帯を案内した環境省の責任者は「除染された原発構内より、(除染が行き届かない)道端に立つ警備員の方が被ばく量が多いこともある」と説明した。

 ここでは、除染土壌などの放射性廃棄物を県内各地の仮置き場から集約し、最終処分するまで30年間を上限に保管する。貯蔵量は、東京ドームの容量の13~18倍に相当する推計1600万~2200万立方メートル。原発周囲の約1600ヘクタールを国が買い取り、分別施設や埋め立て地、廃棄物貯蔵施設を建設する計画だ。

 事業を担う同省は、全国へ避難を強いられた2300人を超す地権者を個別に当たり、民有地の6割強に当たる約800ヘクタールで利用の合意を取り付けた。今秋から一部で貯蔵に着手し、東京五輪・パラリンピックが開かれる20年度には、住宅や学校などの身近な場所や、幹線道路沿いの仮置き場からの廃棄物撤去を目指している。

 中間貯蔵施設は除染土壌などを「当面の間」管理する場所として原発が立地する大熊、双葉両町の帰還困難区域に設置される。廃棄物は貯蔵開始から30年以内に県外で最終処分することが法で規定されている。しかし「現時点で最終処分の方法を明らかにすることは困難」(同省)なのが実情だ。

 人の立ち入りが厳しく制限される帰還困難区域。周辺は震災前、水田や梨園が広がっていたという。現場を案内した同省の担当者は「きれいな自然の中に、廃棄物の処理場が造られる」とジレンマを隠さない。

 かつての田園風景は戻らない。
 

営農再開2割強


 東北農政局によると、福島県内で震災と原発事故により営農を休止した農地は約1万8000ヘクタール(11年12月時点)に及ぶ。農地の除染や避難指示の解除が進んだものの、営農再開は16年度で4000ヘクタール強にとどまる。県の農業産出額は16年に2077億円と、震災前の約8割に落ち込んでいる。双葉町、大熊町、浪江町を中心とした帰還困難区域にある農地2400ヘクタールは作付けできず、地域農業復興の足かせとなっている。

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