自民党の憲法改正推進本部は28日、9条改正案の策定に向け、党所属議員から募集した条文案をもとに具体的な議論を始めた。

 安倍晋三首相が提起した「9条1項、2項を維持し、新たに自衛隊を明記する」案に沿って、3月25日の党大会までに、改憲案をとりまとめる意向のようだ。

 2項は「戦力の不保持」と「交戦権の否認」を定めた9条のキモの部分である。安倍首相は国会答弁で、1項、2項を維持するため「自衛隊の任務や権限に変更が生じることはない」と指摘した。

 その一方で、国民投票で改憲案が承認されなかった場合でも自衛隊の合憲性は変わらない、とも主張する。

 自衛隊を明記しても現在と変わらない。改憲案が否定されても変わらない。だとすれば、なぜ、巨額の予算を投じ、国民を分断してまで改憲する必要があるのか。

 安倍首相案に批判的な石破茂・元幹事長は、「党の決定には従う」との姿勢を示しつつも、2項を削除する持論を変えたわけではない。

 政府は現在の自衛隊について「必要最小限度の実力組織」と位置づけ、憲法が禁じる「戦力」ではない、と解釈してきた。自衛隊を憲法に明記しても「実力組織」と「戦力」の違いを巡る解釈論争に終止符を打つことはできない。

 今の自衛隊は安保法制によって海外での武力行使もできるようになっている。そのような自衛隊を憲法に明記すれば、「今と変わらない」どころか、憲法上の歯止めを失ってしまうのは明らかだ。

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 自民党によって改憲論議の土俵が作られ、政党や国民の議論が自民党案に賛成か反対かに収れんされ、安倍政権が想定するスケジュールに基づいて、ことが進んでいく。

 今の動きはそうだ。

 だが、立憲主義に対する考え方や、憲法が適用されてこなかった沖縄の現状、安保法制の違憲論議、北朝鮮の脅威の内実など、冷静に議論すべきことが議論されず、空気に流されてあたふたと改憲が進んでいくのが一番危ない。

 望ましいのは、安倍首相と石破氏と岸田文雄政調会長が秋の総裁選に立候補し、改憲問題を争点に掲げ、本格的な論戦を展開することだ。

 岸田氏は、党内リベラル派の指導者として9条改正について以前、「当面必要ない」と語っていた。

 スケジュールありきで自民党の改憲案を早々とまとめるのではなく、9条改憲が不必要なことを含め、時間をかけて議論するのである。

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 国民が憲法改正について判断する場合、どのような条件を整えることが必要なのか、その議論も欠かせない。

 現行の国民投票法は、資金量が多いか少ないかによって「国民投票運動」に不均衡が生じるといわれており、あらためて検証する必要がある。

 頻発するテロや、北朝鮮の核・ミサイル開発、中国の海洋進出。「セキュリティーの政治」がこれほど社会全体を覆うようになったのは初めてだ。そうだからこそ、時流に流されない、深い議論が必要なのである。