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第8話 傍迷惑な野郎その1〜ゆたside〜
「トモは大丈夫だろうか…」
妻であるトモと合流を果たすため、俺は王都を目指すべくまずは最初の街への道を選択していた。さっきのコンタクトでは気を失っていたようだが、召喚獣たちがみてくれているのだろうか。
「まぁなんだかんだであの3人は面倒見がいいし、大丈夫だろう…それより…」
管理ツールの画面を開きながら盛大なため息が漏れる。幸せが逃げてしまうと言われようがため息をつかざる得ない。
「いったい、何をやってるだよトモは…」
原因は妻のクエスト履歴にある。王都に行くというからにはそれなりにレベルやステータスが必要だ、まぁレベルやステータスに関してはトモもこちらに来た時には揃っていたようで大丈夫だろう。問題はランクにある。
「どうやら、ランクについては一度初期化されるようだな。ランクの上げ方は作ったゲームのルールと変わらずでクエストのクリアが絶対で、経験値や獲得値のレベルデザインも大差はない…」
ということはチートでもしない限りありえないってことか…
「…こんなにランクが短時間で跳ね上がるなんて…」
そう、トモの履歴を見ているとコンタクトを取ったちょっと前あたりでランクが桁違いに上がっていた。まるでチートしているみたいに。
「で、よくよく見るとほぼ全部薬草によるクエストか、確かにアイテムを入れまくったけど…極端すぎるよ…」
下手すれば不審な動きだと、他プレイヤーから指摘されたり、運営側から要注意人物リストに登録され、監視対象になるくらいだ。
『そういえば薬草クイーンってやつがいるらしい』
『なんでも召喚獣を使って洗い物してるって、無駄使いwww』
『薬草成金うけるw』
『薬草でランクを爆速であげる件について』
掲示板も賑わっているようだ。ひとまず怪しい書き込みはないかチェックして俺もクエストに取り掛かるとしよう。
「ここらへんのクエストは…っと…」
ギルドのようなところはないのでクエストもかなり限られてくる。そのほとんどがモンスター討伐系でよくよく見るとどれもレベルが高い。となると必然的にランク条件があり、自分のランクでは到底受けれるものではなかった。
「…そうか、実力があってもランクが低いんじゃ受けられない」
魔人討伐やドラゴン討伐とか面白そうなになぁ。でもまぁランクが足りないんじゃしょうがない、チートするわけにもいかないし最初の町から地道に上げるとするか。
「すみません、ユタさんですか?」
「…はい?」
不意に声をかけられ、その声の方を振り向く。そこには黒い短髪で細身ながらもがっちりとした体格にいかつい顔が貼り付けられた大きな男が立っていた。
「えっと、そうですけど…なにか?」
俺はまざに、おずおずといった感じに受け答えをする。
「…やっと見つけた…」
「え?」
彼が一言ぽつりと呟いた次の瞬間、豹変する。
「問答無用!勝負だあああ!」
「…へ?いやいや!どういう…っ!!!」
こちらの言葉など聞く耳持たずといった感じに拳を振り下ろしてきた。身なりからしてファイタータイプといったところだろうか。
「あっぶな!?…っ!!!」
すぐに後ろへ飛び込んで拳を避ける。あまりの速さと不意打ちもあって、避けるだけで精一杯だった。そして相手は後ろに避けることを想定していたようで距離を詰めるべくこちらに飛び込んでくる。
「おおおお!!」
咆哮とともに二撃目、三撃目の拳が襲いかかる。二撃目はなんとかいなして避けたが、三撃目は防御はしたもものダイレクトに打ち込まれてしまった。
「ぐっ・・・!」
後方に飛ばされながらなんとか体制を立て直す。
こんなイベントあったっけか!?こんな敵をプログラムした覚えなんてないんだけど…それにいきなり襲いかかるなんて
「ちょ、ちょっと待って…」
「うるさいぞ!そおらああああ!!」
聞く耳がないらしい、攻撃の手は緩めるどころかますますスピードに乗ってくる。レベル的になんとか避けてはいるが油断するとまた打ち込まれてしまいそうだった。
「…どうやらあいつも俺やトモと同じでプレイヤーらしい…しかしなんで…」
「何をぶつぶつ喋ってやがる!」
「…仕方ない、さっさと片付けるとするか」
「ほう、面白い!そうこなくっちゃ!!」
距離を取って構える準備をする。今はなんとか凌ぐことを一番に対峙する。それにしても対戦要素なんて入れてなかったはず、またしても謎が増える。
「やられっぱなしは趣味じゃないんでねっと!」
両手で握るランサー用の大剣を横薙ぎ一閃に振り抜く。
「っ!?」
「弱ぇぜ、こんなボンクラじゃよおお!!」
拳にアイテムでもつけてるんだろう、刃を拳で跳ね返し体勢が崩れたことを確認して一歩踏み込み懐に入り込んできた。
「しまっ・・!?」
「これで終わりだ!!」
やつの溜めた右ストレートがダイレクトに打ち込まれる。瞬間的に後ろに飛び威力を削ったとはいえ、ダメージ全てを消すことはできず派手に吹っ飛ばされる。
「…野郎、好き放題やりやがって…」
吹き飛ばされたことは心外であるが、距離を取ることができたのでひとまず落ち着くことにする。
まず、なぜ俺にバトルを挑んできたのか。無差別なのか?
「それはないか、こっちの名前を確認して飛び込んできたから…」
ということは目的は俺か?心当たりはこれといったない。運営に間違われないよう慎ましく潜んでいたはず。恨みをかうような行動もしていない。
「どっかのギルドに紛れて…いや、フレンドもギルドもどこにも所属せず、トモと一緒だったから他人とそんなに関わることはなかったはず」
強いて言うなら人数がいるクエストをやるときに即興でギルドを組んだりはしたが当たり障りない態度で過ごしてたはずだ。
「じゃ、なんであいつは執拗に俺を…」
あたりの気配、空気が変わった瞬間を感じた。気がつけば奴がまっすぐ猪突猛進してくる。
「おい!なんで俺をそんなに…っ!!」
繰り出す拳を大剣で捌く。一発がとても重い、防戦一方で凌ぐことがやっとだった。
「なんでお前だけだって…そんなの決まってる!」
言葉とともに放たれた最後の一発は怒りとわかるオーラが滲み出る拳だった。
「お前はわかっていないようだな…」
「な、何をだよ…」
落ち着いたのか、拳を一旦下げる。
「まだ気づいていないのか…」
「だから何をだよ!」
心当たりなんてない、ついでにいえば俺の記憶の中にこんな大男と絡んだことなんてないのでなおさらわけがわからない。
「…ったからだ…」
「は?」
「お前は俺から奪ったからだ!」
奪った?トラブル系か?…とはいえやはり心当たりはまったくない。
「奪ったって、俺はお前から何も奪ってないだろう、どっかで会ったこともないはず…」
「いや!お前は確実に俺から大切なものを奪ったんだ!!」
くわっという効果音が似合う顔で叫び出す。
「…はぁだから何を奪ったんだよ」
いい加減このやり取りにも疲れる。
「お前は、俺の大切な…大切な…トモたんの笑顔を奪ったんだ!!!」
一瞬、というよりしばらく、彼が何を言ってるか理解できなかった。
理解するために思考を働かせようとしてもすぐに動いてくれない。
「…は?」
結局俺は、そんな素っ頓狂な返事しかできなかった。
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