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第6話 積み重なる乖離と齟齬〜ゆたside〜
なんで俺はこんな手を忘れていたのか。そうだ、このゲームではメッセ機能が使えるじゃないか。これならトモと連絡が取れる!
「じゃあ、さっそく…」
いや、待てよ。実際にこのメッセ機能はどうやって”使う”んだろうか。
メールみたいな文字ベースでやりとりするからメニューやマップみたいに視界に文面が写り込むのだろうか。送る場合は文章をイメージして思念で送信みたいな?
「まったく想像できない、スマホでやってることをこうやって体感するとなるとどうなるんだ…」
管理ツールのログを開いてみる限り文字でやりとりしているようだが…
「ひとまずやってみないことには始まらないか」
意を決してメニューを開く。頭の中でイメージを進め、メッセアイコンから連絡が取れるユーザリストを開いてトモを探し出し選択する。
「…このコンタクトを押せば…」
通常ならメッセージ入力フォームになるはずだが、予想に反しprrrrという電話のような接続音が聞こえてきた。音声でやりとりするのか?
「ちょっとしっくりこないけど、電話なら電話でいいか」
相手が出るまでしばらく待ってみる。しかし、待てど待てど出る気配がない。まさか気づいていないとか?いやまさか…ありえる。
「まぁ俺もそうだけど、たまに着信に気づかないときってあるもんなぁ」
と、一定理解を示す心の広い夫を演じながらひたすらコンタクトを連打する。
「何かの戦闘中とか?もしくはガチに気づかないだけか…」
これを最後にちょっと時間を置くかと思った瞬間、ガチャっという相手が出た音と一緒に騒々しい声が重なって聞こえた。
「これどうやってでるんだよ!」
「我が知るか!早く出ろ!」
「そうよ、せっかくお父様からの連絡なんだから!」
んー、どっかで聞いたことある声たちだな。そして愛しの癒しボイスはその中にない。どうなってんだ…俺はトモにコンタクトしてるはずなのに。
「えっと、あー…もしもし?」
「「「!!??つながった!!???!?」」」
「うん、そうだな…その、トモは?」
「父よ!どこをほっつき歩いている!早くしないと胃に穴が開いてしまう!」
「そうだよ!母ちゃんを見る俺の身にもなってくれよ!」
「まったく私たち3人でようやくなんですから早く来て面倒を見ていただかないと」
「ちょちょ…一気にしゃべるな!ひとりずつ!!」
おそらく召喚獣のイフリート、シルフ、ウンディーネだよな?召喚しっぱなしにしているのだろうか…でもだとしたらトモはどうしてるんだ?
「ひとまず、そっちは今どこにいるんだ?」
まずは場所の確認をしたかった。こっちの世界に来てしまったとき、俺は最悪な場所に出てしまった。トモの方は大丈夫だったのだろうか。
「今はギルドの目の前にいるが…」
「それじゃダメだろ、どこの街のギルドか言わないと」
「いや我はこの後に…」
「そうですわ、ちゃんと街の名前を言わないとだめじゃない」
「まったくそそっかしいのは母ちゃんだけにしてほしいぜ」
「だから我は違うと、燃やすぞ!」
また始まった。こいつらは狙ってるのかってくらいにボケ倒してくる。でもこんな3人でもトモを目の前にするとツッコミ役に回るんだろうな。容易に想像できた。
「わかったから、一人ずつ話してくれと…」
あーもう聞こえないみたいだな…電話口(?)の向こうではイフリートとシルフが言い合いをしてウンディーネが間に入るも必ずどちらかに油を注いで場を荒らしてるようだ。ぎゃーぎゃーと醜い言い争いが聞こえてくる。
俺は早くトモの声が聞きたいだけなんだけどな…
うんざりしているとある声が響き渡った。
「ばかもおおおおおん!!!貴様らマスターの話を聞かんか!」
「げ!その声は…」
「もしかして、ノーム殿では」
「あら?お久しぶりです♩」
「げ!とはなんじゃシルフ相変わらずじゃの、イフリートはすぐカッカせず落ち着かんか、そしてウンディーネはからかうんじゃない!」
「「「はぁーい」」」
何処からともなく現れた四大精霊の一人であるノームがなんとか3人を鎮めてくれた。なにやらいつもとサイズが小さいなぁと感じていたが自力で外にでるサイズなんだとか。
(…そんな機能あったっけ?もしかして”オリジナル”の設定なのか?)
そんな大したことではないだろうけど、このメッセのやりとりや自力で出てくる召喚獣など自分が開発したゲームとの乖離を感じる。気のせいだといいけど、引っ掛かりを感ずにはいられなかった。
「マスター、3バカがいつもすみません」
続いてもう一人の四大精霊であるサラマンダーが現れる。やれやれといった感じで半ばあきれているようだ。
「あ、いやいや大丈夫だよサラマンダー、ノームも助かったよ。相変わらず大変だね」
「マスターも似たようなもんじゃろ」
「フフフ、まったく大変ですね」
「はは、まぁそうですね」
そんな年寄りみたいな会話をしてたら痺れを切らした3人から不満の声が上がってきた。
「なんだよー俺たちじゃ不満だってのかー」
「フン!我の火力をもってすれば…」
「ダメよ、イフリートただ燃やせばいいってわけではないわ」
「あー、ごめんごめん。…で、まず確認したいんだけどトモは?」
「えっと…母ちゃんは…その、なぁイフ?」
「な、なんで我に!?…うむ、そのなんだ、なぁウンディーネ?」
「ちょっと、私?…まぁあれね…うん、そうよ」
「?…えっとよくわかんないんだけど、どういうこと?」
「貴様らはっきり言わんか…」
「いったい何があったって言うんですか?」
「「「実は…」」」
話を聞いて俺とノーム、サラマンダーは口にこそ出さないが”あきれた”という気持ちで一致した。
「…てことは今、トモは気を失っていて3人が必死に宿へ運んでいる途中ってことなんだな?」
はぁ、頭が痛い。一体いつになったら合流できることやら…
「ひとまずはわかった。で今はどこの街にいるの?」
「ここは確か隣の街と言われる場所でしたわ」
ウンディーネが答えてくれる。マップで確認すると最初の街の隣に位置するところか、どっちであれトモは割と安全な場所からスタートできたみたいでほっと胸をなでおろした。
「で、これからどうするとか話してる?それともしばらくそこに留まるとか…」
「あ、それなら母ちゃん王都に行くって言ってたよ」
「王都?」
「うむ、なんでも人探しを得意とする占い師がいるようでな…」
「…なるほど、占い師ねぇ」
「ではワシらも王都に向かって合流するのがいいですかな」
ノームの提案はもっともなんだけど俺はもう少しこの世界を確認しなくちゃいけないかなと感じていた。サラマンダーがいくらか察してくれてみたいで…
「といっても決めるのはマスターです、私たちはそれに従うまで…」
「どっちかっていうと早く合流してほしいけどね」
「でないと本当に胃に穴があいてしまう」
「胃だけだといいでしょうけどね」
「はいはい、わかったよ!じゃ王都で合流しよう。トモにもそう伝えておいて…くれぐれも冒険しないようにと伝えて」
「逆にそういうのは母ちゃんには言わないほうがいい気がするけど」
シルフの一言は「確かに」と納得させられる。でも何も言わなかったら言わないで事を起こすからどっちにしろというやつだ。
「ま、まぁ大変だろうけどもうしばらく頼むよ。なるべく早く合流するようにする」
「うむ。ぜひそうしていただきたい」
「私も早くお父様に会いたいわ」
「ではそろそろトモ様を宿に連れて行きなさい」
「「「はーい」」」
ノームに締めてもらってメッセを閉じる。さて、王都か…まずはマップを確認しないとだな。
「…すみませぬ、マスター。でしゃばったマネを」
「いやいや、本当に助かったよノーム。俺もちょっとトモと離れて混乱してたところがあったから」
「マスターでもそんなことが…とても、想像つきません」
「サラマンダーもからかわない。ひとまず王都を目指しながら今の現状を確認するしかないか…」
「して、王都までの道のりは?」
「なんだかんだで当初の予定通りに最初の街へ向かってしっかり開拓されてるルートで進もうと思う」
「まぁ、その道が一番いいでしょうね…」
「と、いうことで急ごう。早くしないとイフリートの胃に穴があいてしまう」
「そうなったらワシの砂で埋めてやらんとな」
ケラケラと笑いながら毒づく。
「そうだ、二人に聞きたいんだけど最後のときやこっちに来たときって何か覚えてたりするかい?」
「最後のとき?こっちにきた?何を言ってるマスター、トモ様に会えないからとつかれてるのではないか?」
「そうですよ、私たちはずっとマスターと契約してるではないですか」
「あー、いや大丈夫だよ。ごめんごめん」
何も知らない?いや、わからないのか?イフリート達も含めて会話のながれから俺やトモのことは知らないわけではないらしい。ただ最後の瞬間とこちらにきた瞬間の間というか、こちらに転生されたことに関しては何も知らなさそうだ。
ただそれは当然のことなのかもしれない。彼らはあくまでゲームのキャラクターであって今まで蓄積している記録データをもとに会話しているにすぎない。
(といっても今話してる会話とかは人間らしいというか、ゲームのキャラクターっぽくはないんだよなぁ)
ゲームを進めるにつれて自分が認識しているゲームの設定と実際に広がる目の前の設定に齟齬が浮かび小さな引っかかりが積み重なってくる。
「…これもゲームを進めれば解明されることなんだろうか…」
とりあえずは王都に進まないとな。話はそれからでもいいだろう。
…でないとイフリートの胃が砂だらけになってしまう。
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