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CRACK CLOOK online 〜嫁がチートで夫がGM〜 作者:ゆた/とも
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第5話 ランクアップと召喚獣たちの苦悩〜ともside〜

ユタがイベントステージで奮闘しているその頃。
私、トモは宿の薄っぺらいベッドの上で、惰眠を貪っていた。

ぺちっ

柔らかに差し込む日差しの眩しさと、ほっぺを叩かれる感触に意識を目覚めさせられる。まだ眠たい。二度寝しよう。ほっぺを叩かれる感触で意識は目覚めませんでした。

ぺちぺちぺちっ!!

「「「お き ろ 〜 ! !」」」

痛い!はい!すみません起きます!!
寝ぼけ眼で声の主を探すと、目の前に小さな手のひらサイズのイフリート、ウンディーネ、シルフがいた。何だこの可愛い生き物たちは。私を悶え死にさせる気だな?
あまりの可愛さに抱きしめようと手を広げるが、サッと避けられる。がっ、がーん!

「うあーん!イフたち母を嫌いになったの?!」
「阿呆!学習しろ!!」
「お母様、昨日指を燃やしたのお忘れですの?」

あ〜、そう言えば!と思い出した顔をする私に、3人はがっくりと肩を落とした。やれやれ頼むよと、シルフにぺちぺち叩かれる。さっきからずっと叩いてたのは君か。

「ところで何で手のひらサイズ?」
「俺たち、母ちゃんに召喚してもらわずに自力で出現するのは、このサイズが限界なんだ。」
「そうなんだ〜、可愛くていいね〜。」

ムフフとにまにましていると、イフリートとウンディーネが鬼の形相になる。

「母よ、なぜ我らが出現したか分かるか?」
「わかりません!」
「…お母様。昨夜、この部屋のドアの鍵をかけた記憶は?」
「ありません!」
「シルフ、成敗。」
「合点承知。」

イフリートの言葉に、シルフが景気良く私の顔をぺちぺちぺちと叩き出す。君たち普段仲悪いのに、こういう時だけ息ぴったりですね!痛いです!ごめんなさい!

「お母様、仮にも女性なんだからお気を付けください。」
「我らの胃に穴を開けるつもりか?」
「ごめんね、次から気をつけるよ〜!」

私の謝り方が軽いとぐちぐち怒るイフリートを適当にあしらいながら、メニュー画面を開く。いや反省はしてるのでもう叩かないでくださいシルフ様!!
装備をいつもの赤いドレスに戻した後、武器のマテリアルに浄化魔法をセットする。身体をさっぱりさせたいからね。ヒールは中級ぐらいに下げて、念のため蘇生はキープしておこう。

「よしっ、準備完了!」

宿で簡単な朝ごはんを済ますと、召喚獣たちと共にギルドへと向かった。朝の早い時間帯だが、冒険者で賑わっている。掲示板の目の前は人集りでいっぱいだ。しばらく依頼書は見れないな〜と、遠巻きに眺めていると、シルフがいくつか依頼書を抱えて飛んできた。

「母ちゃん、お待たせ!俺取ってきたよ!」
「えらいね、持ってきてくれたの?助かるよ〜!」
「わ、我だってこのくらいの紙ごとき!」
「ダメですわイフリート!燃えてます!!」

慌ててウンディーネが消火する。シルフにざまーみろとからかわれて、イフリートの炎がじりじりと悔しそうに燃えている。適材適所があるんだから、張り合わなくていいのにね。可愛い意地っ張りさんだ。

「どの依頼をやろっかな〜?」

ワクワクしながら依頼書を見比べていると、3人に取り上げられた。

「我は、この屋台の串を焼くクエストをやろう。」
「私は、洗濯屋さんのお手伝いをしますわ。」
「俺は、領主の屋敷の芝刈りかな〜。」

えっ、もしかして私蚊帳の外?さくさくと依頼書を受付に提出する3人に、おそるおそる声をかける。

「あの、私は…?」
「お母様はお留守番ですわよ。」
「お小遣いあげるから、市場とか見るといいぜ〜。」
「迷子になったら近くの人に、宿の名前を出して連れて行ってもらえ。」

「「「くれぐれも、余計な事はしないように。」」」

き、君たちちょっと失礼じゃないですかね、子ども扱い…!涙目になる私を置いて、3人はクエストへと出発してしまった。シルフに渡されたお小遣いの銀貨1枚(だいたい日本円で1万円くらいの価値)を握り締め、ふるふると肩を揺らす。み、見ておれ!絶対迷子に何てならないからな!


数時間後。

「…迷った。」

いやどう考えても地図が悪い!右上のマップ画面を睨み付ける。こんなに拡大されてちゃどこにいるのか意味不明だし!把握するために縮小するが、そもそも宿は地図のどこだっけ?北はうえで右が東のはずだけど建物に入って出てくると、どっちの道から来たか分からなくなる…。なんだ、これは不思議ハウスか。私の頭じゃなく建物が悪いのか。
ひゅるる〜と吹く木枯らしを背景に落ち込んでいると、お腹がぐーっと鳴った。そいえばお昼食べてない…。
トボトボといい匂いのする方に歩いて行くと、見覚えのある魔人(手のひらサイズ)が見えて来た。

「い、い、イフ〜〜〜〜!!!!」

涙目でイフリートに駆け寄り両手を広げると、彼は舌打ちした後小さな高速の火を飛ばしてきた。あつっ!あつっ!揚げ物してるときに飛んでくる油ぐらい痛い!地味に痛い!!

「ばか母よ学習しろ。抱き着いたら火傷する。」
「俺に惚れると?イフったらイケメン!きゃー。」
「…燃やすぞ。」
「ごめんなさい!!」(土下座)

ふざけてからかうと本気の怒りが返ってくる。ちぇ〜、冗談の通じないヤツめ…。口を尖らせて拗ねてると、鉢巻を頭に巻いた屋台のおじさんが声をかけてきた。

「あんたがイフリートさんのご主人か?」
「はい!うちのイフがお世話に…。」
「がっはっはっ、いやぁ世話になってるのはこっちの方だ!絶妙な火加減に素早い調理スピード!客のリクエストにも臨機応変!このままうちに就職して欲しいくらいだよ!」

おじさんにベタ褒めされて、イフリートの炎が照れ照れと揺れている。く、悔しくなんてないんだからね!私だって狩りのクエストだったら物理暴力で役に立つし!今は役立たずのお留守番だけど…しかも迷子だし…あれ?泣けてきた。ウフフ…。

「…うちの高性能ガスコンロさんよ、ウンディーネはどこか知らない?」
「洗濯屋はこのまままっすぐ行った3軒目だ。串も持っていけよ。」

イフリートから野ラビットの串焼きを受け取ると、私は屋台を後にした。もぐもぐ。あっさりして美味しい。振り返ると、屋台は人々で賑わっている。小さなイフリートはマスコットキャラとしてもなかなか人気のようだ。…別に羨ましくなんてないんだぜ。
まっすぐ歩いて行くと、ふわりと洗剤のいい匂いがする建物を見つけた。店番の人にウンディーネを尋ねると、裏手へと案内してくれる。

「お母様!よくここに辿り着けましたね?!」

私を見るなり驚愕の表情で失礼な事を言い放つ。私だってやればできるんだい。迷子でしかもイフリートに教えてもらったことは言わない。言うもんか。
店内を見渡すと、綺麗にアイロンされた洗濯物がまとめてある。ふっ、ブルータスお前もか。なかなか役立っている様で母さんは嬉しいよ…。

「うちの高性能洗濯機さんよ、仕事は順調そうだね。」
「こうせいの…?よく分かりませんが、洗濯物はあっという間に終わりましたのよ。早めに来て、シルフに乾燥までやってもらったんです。」

ウンディーネと話していると、眼鏡をかけた細ギスの店主が、手揉みしながらやって来る。

「これはこれは、ウンディーネ殿のご主人様!ようこそ!」
「どうも、うちの娘がお世話に…。」
「とんでもない!こちらが大助かりですよ!いえ、たまたま大口の仕事が入りましてねぇ。炭坑の作業員の煤汚れた服で、シミ抜きも汚れ落ちも手強く、しかも大量にあり困っていたんですよ。それがあっという間に真っ白綺麗に!いやぁ、感激しました。是非うちの職員になっていただきたい。」

ベタ褒めされたウンディーネが、ぷくぷくと照れている。ふ、ふふふ、ブルータスお前もかアァァァ!!!内心激しく舌打ちしながら、表面上は笑顔で取り繕う。私も役立ちたい。役立って君が欲しいとか言われたい。今はお留守番で迷子だけど。あれ?なんか目から汁が…。

「…ウンディーネさんよ、シルフはどこ?」
「彼なら、この建物を出てお茶碗を持つ方の手の向きに歩いて行ったつき当たりの大きな屋敷にいますわ。領主様のお家ですので、失礼のないようにしてくださいませ。」

ウンディーネに手土産の小石サイズの水精霊の結晶を渡されて、洗濯屋を後にする。うちの娘は気が効くなァ。ウフフ…。余計に私の役立たず感倍増ね…。途中で雑貨屋に寄り、高級そうな布袋を買って結晶を入れる。店を出たとき、どちらから来たか分からなくなったが、お茶碗を持つ方の手を思い出して、領主の館へと向かった。

しばらく歩くと、大きな屋敷が見えてくる。入り口の門番にギルドカードを見せてシルフを尋ねると、庭へと案内してくれた。緑の芝生が綺麗に狩り揃えられている。さすがうちの高性能芝刈り機だ。広い庭を歩いて行くと、白いテーブルの上でクッキーと紅茶を嗜むシルフが見えて来た。お嬢様と領主らしき人と、数人のメイドが控えている。うおおおキター!リアルメイドきたアァァァ!!!!!
内心のテンションとは裏腹に、にこやかな微笑みで白いテーブルへと近付いて行く。

「母ちゃん!え?本物?!よくここに来れたね!すげぇじゃん!」

いやぁ、君らは大概失礼だよね。自分が迷子な事は棚に上げておく。そんな些細な事は忘れたのだ。そのまま歩いて、領主の前に来ると、私は膝をついた。

「領主様、お目にかかれて光栄です。私、冒険者のトモと申します。下僕の召喚獣がお世話になっております。こちら、心ばかりの品です。」

自分でも何を言っているかよく分からないが、たぶん礼儀正しいはずだ。側のメイドが手土産を受け取り中身を確認すると、領主へと手渡した。小石サイズの結晶に、領主がほうっとため息を漏らす。

「これは素晴らしい。このサイズの高結晶の魔石はなかなか手に入りませんよ。いや失礼、挨拶が遅れました。私は領主のギルバートです。こちらは娘のマギーです。」
「初めましてトモ様、マギーですわ。可愛い精霊さんを貸してくださって、ありがとうございます。」

そう言って彼女が微笑むと、ぶわっと薔薇が咲いたような錯覚がした。美しい宝石の様な青い瞳に、淑やかな茶色の髪。白い陶器の様な肌で、顔立ちは西欧を思わせる。正統派お嬢様ktkr私が男なら身分差を乗り越えた恋の始まりね!とおバカなことを考えていると、察したシルフがほっぺを叩いてきた。べしっ。痛い。自転車に乗ってる時顔にぶつかってくる虫ぐらい痛い。
バチバチと視線でシルフと戦っていると、領主の声に意識を引き戻された。

「シルフ君はあっという間に芝生を狩り揃えてくれて、見事でしたよ。宮廷の魔導士でもここまでの整合性は難しいでしょう。いやあ、シルフ君ほどの上級召喚獣を専属の庭師にと言ったら贅沢でしょうな。」

はっはっはっ、と豪快に笑う領主に褒められて、シルフがふよふよと照れる。 ちっ。ちっちっちっ!!ブルータスが憎い!!いや、ブルータスに罪は無いけど。叫ばずにはいられない。はい、皆さんご一緒に!ブルータスうぅぅ!!オーマーエーモカァア!!私も言われたい。是非専属の召喚士に、とか言われたい。

「是非専属の召喚士に。」

そうそう、そんな感じで!
…。
……。

えっ?

驚いて領主を見上げると、知性を携えた眼がこちらを鋭く射抜いていた。



帰り道、陽は傾き夕闇が空を染めている。賑わう酒屋が騒がしい街並みをのんびりと歩く私に、シルフがそよそよと話しかけてくる。

「母ちゃん、断って良かったのか?領主の専属召喚士なんて好待遇だぜ。」
「うん。まだ夫を探してる旅の途中だからね。」

あっさりと断った私に、領主は残念そうにしていたが、生き別れた夫を探していると事情を話すと、親身になってアドバイスをくれた。王都に人探しを得意とする占い師がいるらしい。

「この街でギルドランクを上げたら、王都を目指そうか。」

私の言葉に、シルフも神妙に頷いた。途中でイフリートとウンディーネも合流し、ギルドへと向かう。受付でクエスト完了の手続きを済ませると、ランクアップに必要なギルドポイントは、残り130ポイントだった。

「我の屋台とウンディーネの洗濯屋が15ポイントで、シルフの芝刈りは20ポイントか。」
「あと9個ぐらいクエスト達成が必要ですわね。」
「母ちゃん、俺たちがんばるよ!…って、依頼書持って何してるの?」

不思議そうな顔をする3人を尻目に、受付嬢に薬草採取の依頼書を手渡す。そしてアイテムボックスからどっさり薬草を取り出す。皆さんも心当たりがあるだろう。レベル上げで手に入る序盤のドロップアイテムって無駄に貯まるよね…。そんな訳で私は薬草を999束持っているのだ。

「えーっと、1回の依頼に必要な薬草は10束だから…990束で99回達成になる?」
「なっ、なりますよ…!」
「じゃあギルドポイントは、1回15ポイントだから、99回で1485ポイントかな?」
「そ、そうですね。ギルドランクはCまで上がって55ポイント余ります。」

後ろで他のギルド職員が、青ざめた顔で最速記録だと慌てている。この世界で薬草採取は、1日で10束揃って完了できたら早い方なのだ。2〜3日かかる人もいる。つまりいくら最速でも99日かかることが、今一瞬で達成されたのだ。
Cランクに上がって緑色になったカードをニヤニヤと眺める私に、ワナワナと震えた召喚獣たちが食い付く。

「お、お、お母様…?最初からその方法に気付いてましたの?」
「うん、そうだね〜。でもせっかくだからクエストやってみたかったんだ!」
「つまり、我らはオークの切り身など焼く必要は無かったと…?」
「うん?そうなるね〜。」

あっさりと言い放たれた私の言葉に、イフリートが黒い炎の塊へと豹変する。ウンディーネもブクブクと泡立ち、シルフの周りでは轟々と風が荒れ狂っている。
あ…あれ?皆様ひょっとしてめちゃめちゃ怒ってらっしゃる…?

「く、ら、え!!業火の裁断!!」
「水よ、塊となり全てを飲み込め!アクア!!」
「鋭き風の刀乱舞ーー!!!」

ぎゃあああああああ!!!
容赦無い攻撃が、ギルドの外へ逃げる私を追ってくる。おっかしーなぁ、彼ら私の召喚獣デスヨネ?!敵だっけ?!敵でしたっけ?!!
魔法防御のバリアのマテリアルをアイテムボックスから探す。こういう時に限って見つからない!あーっ!痛い!痛い!あった!セットして…。

唱えようとした、その最高に間が悪い瞬間に、夫からチャットメッセージが届いた。ピロリーン。

その間抜けな音を最後に、私は意識を手放した。
+注意+
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