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第3話 ギルドと初めてのクエスト!〜ともside〜
夫が死闘を繰り広げているであろう、その頃。
私はのんびりと平和に(モンスターを撲殺しながら)森を抜け、隣町の門の前へと辿り着いていた。さっそく門番の騎士に話しかける。
「すみません、旅の者ですが、入れてください〜。」
「身分証明書はあるか?」
「ありません!」
「ぷっ…くくっ、何で自慢気なんだ?変な姉ちゃんだな。じゃあ、通行料銀貨1枚だ。」
そう言われて、はたっと気が付く。アイテムボックスの存在をすっかり忘れてた!
慌ててメニュー画面を開くと、お財布げふんげふん、夫が貢いでくれたお金がそのまま残っている。
「は〜い、これでお願いします。」
「よしっ!通っていいぞ。」
門を通り抜けると、古い西欧に似た街並みが広がっていた。煉瓦造りの建物が並び、市場は活気良く賑わっている。後で絶対買い物しまくろう!と心を躍らせながら、まずはギルドへと向かった。
「たのもー!」(バーン!)
勢い良くドアを開け、さっとファイティングポーズを取る。さぁ、どこからでも来い!テンプレ絡み筋肉冒険者よ!
しかし、待てども待てども誰も絡んでこない。後ろから来た冒険者に「入りたいんだけど、邪魔だよ。」と言われたぐらいで、だれも話しかけて来ない。
期待が空振り、がっくりと肩を落としながら、とりあえず受付前まで行った。
「すみません、登録したいんですけど…。」
「初めての方ですね、ではこちらの用紙に記入をお願いします。」
親切そうな猫耳受付嬢に言われるがまま、名前や職業を書いていく。日本語表記なんだなぁ…そりゃそっか、夫が作ったゲームだもんね。
「書き終わりました。」
「はい、ではこちらがギルドカードになります。血を一滴だけ落としてもらえますか?…ありがとうございます。これで登録完了です。紛失すると、再発行は銀貨1枚になりますのでお気を付けください。」
「わかりました。」
「カードの色は、今は灰色ですが、ランクが上がるごとに変わっていきます。現在トモ様はランクFです。クエストも同ランクのものを受けてください。掲示板は入り口左手にあります。クエストを達成すると、報酬の他にギルドポイントを獲得し、ポイントが貯まるとランクが上がります。説明は以上です。何かご質問はありますか?」
「大丈夫です、ありがとうございました。」
にっこり笑ってお礼を言うと、猫耳受付嬢さんは少し驚いた後、嬉しそうに微笑んでくれた。あんまりお礼を言う人少ないのかな?こんなに親切に説明してくれるのに。
首を傾げながら掲示板に向かうと、さっそくFランクの依頼書に目を通す。薬草採取、野ラビット討伐の他に、レストランのキッチンの手伝いや、貴族の屋敷の清掃などがある。一番報酬ポイントが高いのは、意外にもレストランのキッチンだ。注意事項に、料理や皿洗いが得意な人、とあり納得する。
「これは、専業主婦の出番でしょ!」
依頼書を受付に持って行くと、緊急クエストだったため、すぐに依頼主の元へと向かう。人気のレストランで、人手が足りなくて困っているらしい。
「やぁ〜、午前中に手伝いが来てくれて助かったよ!昼と夜がすごく混むから、調理とお皿洗いをよろしくね!」
レストランに着くなりエプロンを渡され、長い帽子を被った料理長に歓迎される。でっぷりと太ったお腹を見て、この人の作る料理は美味しいだろうな〜、まかないが楽しみ!とよだれを垂らす。
でも、そんなのん気な考えは、ランチタイムに忙殺された。どこから湧き出るのか溢れてくる大量の洗い物に、レストラン名物オークのステーキの注文殺到。焼いても焼いても終わらないのに、洗い物のお皿はタワーの様に積み上がって行く。
「あ〜もうっ!こうなったら…!」
武器を取り出し、マテリアルに召喚獣をセットする。
説明しよう!私は夫がGMという名のチートである!レアガチャで0.1%の確率出のレア召喚獣は全て網羅しているのだ!ふははは!羨ましかろう!今回も石を存分に投げるが良い!
「いでよ!究極召喚イフリート!ウンディーネ!」
厨房に炎を纏った魔人と、水で透けた精霊が召喚される。周りのコックたちが腰を抜かしたのを見て、しまった!と焦る。
「人サイズに縮んで!君たち大きいからみんなびっくりしてるよ〜!」
(そういう問題じゃねぇぇえええ!!!)
コックたちから心の中でツッコミをされた気がしたが、たぶん気のせいだ。人サイズに縮んだ2人に、さっそく指示を出す。
「主よ、我イフリートに燃やせぬ敵はいない。任せよ、どんな強敵でも倒して見せよう。」
「うん、じゃあオークを焼いてね!」
「オ、オークだと…?弱い敵だが、主の命令とあらば…して、オークはどこに…」
「この切り身だよ!」
「きっ、切り身?!弱い上にすでに切り身…」
「こっちはレアで、こっちはミディアムレアね!」
ゴォ〜!
納得いかない顔でイフリートがステーキを焼いて行く。さすがレアモンスター!焼き加減もばっちり!
「ウンディーネは、お皿洗いをお願いね〜!」
「は〜い、お母様。」
「お母様?!えっ、その呼び方なんか嬉しいねっ!」
「うふふ、お任せください。」
みるみるお皿が綺麗になって行く。あっ、乾かす人も必要だ!シルフも呼ぼう!
「母ちゃん、呼んだ〜?シルフ様登場だぜ!イフリートの野郎じゃ敵を倒せなかったんすか!ここは俺が…ん?イフリート何してんの?」
「シルフの馬鹿も来たか。我はオークを焼いている。」
「弱っちぃ、オ、オーク?」
「この切り身だ。」
「……。」
「シルフは、ウンディーネの洗ったお皿乾かす係りね〜!」
「……。」
かくして、忙しいランチタイムは3人の召喚獣によって瞬く間に解決された。鼻歌気分で作業を見守る私を、周りのコックたちが遠巻きに伺う。
「あっ、あれって召喚獣だよな?!」
「国内でも、宮廷の魔法使いが、やっと1匹使役してるらしいぜ…。」
「それが同時に3匹も…!」
「ちょ、調理と皿洗いとお皿乾かしてるぜ…。」
「俺はいま、今世紀最強の究極召喚の無駄遣いを目の当たりにしている…。」
こうして、ディナータイムも乗り切り、無事クエストは達成されたのだった。料理長の笑顔が引きつっていた気がするが、たぶん気のせいだよね!
ギルドで報酬を貰い、ほくほく顔で街へと向かう。猫の昼寝亭と言う宿を見つけて中に入ると、受付に人の良さそうな年配の女性がいた。
「すみません、お部屋空いてますか?」
「空いてるよ。料金は1泊銅貨50枚、食事付きなら銅貨70枚だよ。」
「じゃあ10日分食事付きで…銀貨7枚ですね。」
「お嬢ちゃん計算が早いね。まいどあり、鍵はこれだよ。」
「ありがとうございます。」
鍵を受け取ると、階段を登って、一番奥の部屋へと入る。中は質素なベッドと小さな机と椅子があるのみだ。窓の外はもう真っ暗で、月明かりが差し込んでいる。靴を脱いでベッドに座り込むと、メニュー画面を開いて、装備を着脱する。薄手のワンピースのみになると、画面を閉じて、召喚獣の3人を呼び出した。
「主よ、また何か問題が…っ?!そ、その格好っ…!」
「お母様、はしたないです!」
「俺は目の保養ラッキー。」
「「コラ!!」」
怒ったイフリートとウンディーネが、シルフの頭を叩く。仲良しな光景に、思わずクスクスと笑ってしまう。
「今日は3人とも、ありがとう。助かったよ。」
「うふふ、お母様に喜んで貰えて嬉しいですわ。」
「主よ…いや、母よ。我は強い敵と戦いたい。」
「俺もだよ母ちゃん!イフリートの野郎より役に立つぜっ!」
「何だと貴様!」
「やんのかコラ!」
取っ組み合い始めた2人を、あらあらとウンディーネが宥める。君たち宿の部屋壊さないでね。
「戦わせてあげたいけど、ギルドランクが低いんだよね〜。」
「母よ、ギルドランクとやらが上がれば強い敵と戦えるのか?」
「もちろんだよ、イフ!ドラゴンとか退治しよう!」
私の言葉に、3人が嬉しそうに顔を見合わす。
「よし、クエストとやらをどんどんこなそう。」
「目指せ、頂点ですわ!」
「俺、がんばっちゃうぜ〜!」
盛り上がって参りました!楽しそうな3人に、私も思わずニコニコしてしまう。でも、今日は疲れたから、休もう。
「ところで母よ、ユタ殿は?」
欠伸をした私に、イフリートが尋ねる。そう言えば忘れてたけど、夫とはぐれたんだった。
「たぶん、その内会えるよ〜。」
「お母様、また迷子なんですね。」
「母ちゃんはホント方向音痴だなぁ。」
ウンディーネとシルフが失礼なことを言ってくる。確かに私はよく迷子になるけど、今回ばかりは行方不明なのは夫の方だっ!
ムッとした私を、イフリートが落ち着けと宥めてくる。彼の燃え盛る腕を見ながら、ふと、好奇心が湧いてきた。
「イフ、ちょっと動かないでね?」
「?わかった。」
ずぼっ。
指を、イフリートの腕に突っ込む。
「あっつ〜〜!!!!」
なにこれ痛い!涙目の私に、イフリートが慌てる。
「当たり前だ!!ウンディーネ水!!」
「いえ、それよりお母様!職業ビショップじゃなかったでしたっけ!」
「あっ、そっか。ヒール。」
治った指にホッと息を吐く。
「何で突っ込んだの、母ちゃん…。」
シルフが呆れ顔で聞いてくる。
「いや、熱いのかどうか、気になって。あはは〜。」
「気になってって…我は胃が痛い。」
「奇遇ですわ、私もです。」
「俺たちじゃ心許ないよ、早く見つけてくれ、ユタ兄ちゃん…。」
この世界に閉じ込められてから、痛みがどこまであるのか、私は知りたかったのだ。ほっぺを抓ったときとは比べ物にならない激しい痛みに、この身体はリアルなのだと実感する。本当に、本当にスマホのゲームの世界へと来てしまったのだ。
「…お母様?大丈夫ですか?」
「ごめん、ちょっと疲れちゃった。戻っていいよ、おやすみなさい。また明日ね。」
3人を還し、ベッドに横になり布団にうずくまる。考えない様にしていた恐怖が、足元から背筋を這い上ってくる。
怖い、怖いよ。夫に早く会いたい。
枕を抱き締めて恐怖に耐えている内に、いつの間にか、私は深い夢の中へと意識を手放していた。
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