「それでは、うちの子をよろしくお願いしますね?」
「ええ、任せてください」
クリッとした大きな瞳の片方をパチリと閉じてアイリがウィンクするとサトルは頬を赤めながらガハハハと大きく口を開けて厚い胸板をドンと叩いた。
「もーお父さん、リン君のお母さんにデレデレしちゃだめだよ!」
ピョコピョコと短く束ねたオレンジの髪を跳ねさせ、頬をぷくっと含まらせたカナが父親であるサトルに抗議する。
「で、デレデレなんてしてないぞ!父さんは!」
「どぉ~だかっ!」
気まずそうに頬をかくサトルとそれに対してツーンと顔をそむけるカナそんな親子のほほえましい漫談にアイリはフフフと思わず笑ってしまった。
「ほら、リン。 お世話になるんだからキチンと挨拶して?」
いつまでもアイリの後ろに隠れ話題に入ってこない息子のリンの背中をポンと押して二人の前に出す。
「ん、よろしくおねがいします」
「んーもぅ、この子ったら……ごめんなさいね?」
何ともフワフワした息子の態度にフーっと思わずため息をついてしまう。
「カナちゃん、こんな無愛想な息子だけど2日間よろしくね?」
「まかせて、おばさん! リン、行こ?」
父親と同じように胸をポンと叩くとカナはリンの手を引く、リンは母親譲りのフワッとした黒いくせ毛をクシャッとかきながらカナに引き連れられてワゴン車に乗った。
「それでは2日間、よろしくお願いします」
「はい! もちろん、楽しいものにしますよ!!」
ペコリと頭を下げるアイリに答えるように運転席に乗り込んだサトルが手を上げる。
ワゴン車は軽快な音を立てて山の中にあるキャンプ場に向かって走り出した。