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決定!“真の”守備の名手2017
初めてのセイバーメトリクス講座(8)
守備でチームに大きく貢献し、パ・リーグの新人王に輝いた源田
守備でチームに大きく貢献し、パ・リーグの新人王に輝いた源田【写真は共同】

『初めてのセイバーメトリクス講座』の第8回は最新の守備指標について面白い話をききました。講師はセイバー研究で知られる統計学者の鳥越規央先生。生徒はわたくし、漫画家のカネシゲタカシでお送りします。

ゴールデングラブ賞に物申す!

鳥越:今日お話するのは「守備」のセイバー指標ですが、今回は2017年のゴールデングラブ賞(以下GG賞)に物申したい!


カネシゲ:おや、いきなりボヤキですか(笑)。


鳥越:GG賞は最も守備の上手な選手に贈られる賞ですが、私が特に物申したいのはセ・リーグの三塁手部門です。


カネシゲ:セの三塁手?


鳥越:17年に守備の規定試合数(試合数×2/3。捕手は試合数×1/2)を超えていたのは鳥谷敬(阪神)と宮崎敏郎(DeNA)の2人。よって2択でした。


カネシゲ:結果、GG賞を受賞したのは鳥谷でしたね。


鳥越:そこですよ。守備の指標には守備機会数に対するエラーの数を表す失策率というのがあります。そして1から失策率を引いたものを守備率といい、公式記録になっています。その守備率、実は宮崎のほうがいいんですよ。鳥谷は9割6分8厘、宮崎は9割7分0厘。


カネシゲ:おお、僅差とはいえ宮崎の方が上だ。にも関わらず、鳥谷が受賞するのは不思議ですね。GG賞は野球記者による投票で決まるんでしょ?

 

鳥越:はい。ですが鳥谷には「守備がうまい」というイメージがあるわけです。一方で宮崎はそうでもない。結局、守備の公式記録が守備率ぐらいしかないから、印象が勝ってしまうわけです。


カネシゲ:なるほど。“にんげんだもの”ってやつですね(笑)。


鳥越:で、その最たるものが……ちょっと古くなるんですが、12年のセ・リーグ三塁手部門です。その年のGG賞は宮本慎也(ヤクルト)でした。そして同時期に広島のサードだったのが堂林翔太です。


カネシゲ:宮本さんといえば守備職人。ショートからサードにコンバートされた後もうまかったイメージがあります。


鳥越:12年のデータを見ると、宮本はエラー数5、守備率9割7分9厘。対して堂林はエラー29で守備率9割2分4厘でした。


カネシゲ:わっちゃ〜、エラー29個。これは目立つなぁ。


鳥越:「どっちが守備うまいですか?」とみんなに聞いたら、「宮本に決まってるだろ」となりますよね。ところが、2人の守備を科学的に評価した場合は、真逆の結果になるんです。


カネシゲ:真逆の結果?

「UZR」でわかる真の守備力

鳥越:セイバーメトリクスの守備指標に「UZR(Ultimate Zone Rating)」というのがあります。ご存知ですか?


カネシゲ:最近ちょくちょく見かけるようになりました。アルティメット・ゾーン・レイティング。意味はなんですか?


鳥越:“究極の守備範囲指標”みたいな感じかな。ポジションによって違うのですが、UZRにはいくつか評価基準があります。まず「エラーしないこと」。そして「併殺奪取能力(内野手の場合)」、あと「肩の力(外野手の場合)」。そしてこれまでの守備指標に盛り込まれることのなかった「守備範囲の広さ」です。


カネシゲ:ほうほう。守備範囲の広さも。


鳥越:平均的な野手のUZRは「0」。例えばUZRが「3.0」だったら、“その選手は平均的な選手よりも3.0点分の失点を防いだ”という言い方ができます。


カネシゲ:なるほど。この指標はプラスのほうがいいんですね。


鳥越:はい。ではこのUZRを使って12年の宮本と堂林の守備力を比べてみましょう。そうすると、宮本のUZRは「−0.3」、堂林のUZRは「3.8」なんです。


カネシゲ:わわっ、堂林のほうが指標は上ですね。これはどういうカラクリなんですか?


鳥越:失策だけで評価をすれば、宮本はプラス(3.0)で、堂林はマイナス(−6.0)です。しかし「守備範囲の広さ」をみると、圧倒的に堂林のほうが上なんです。宮本の「−4.7」に対して、堂林は「10.0」ですから。


カネシゲ:併殺の能力を含め、それらを総合すると、宮本のUZRは「−0.3」で、堂林が「3.8」と逆転してしまうんだ。それほどまでに守備範囲は大事なんですね。


鳥越:普通の野手が捕球できない球にも届くってことですから。それによってエラーはするかもしれないけど、二塁打や三塁打になってしまうのを防いだかもしれないわけです。


カネシゲ:なるほど。


鳥越:ちなみにUZRの守備範囲の計測方法ですが、こんなふうに細かく見ていくんです。

鳥越規央、データスタジアム野球事業部共著「勝てる野球の統計学」より
鳥越規央、データスタジアム野球事業部共著「勝てる野球の統計学」より【資料提供:鳥越規央】

カネシゲ:すごい! グラウンドを細かく区分けするんですね。


鳥越:今回のコラムではデータスタジアム社にデータ提供してもらっていますが、日本では他にデルタ社などがUZRを集計しています。定義等が異なるため、両社が出す数値には違いがあることを覚えておいてください。


カネシゲ:わかりました!

連続出場記録の影響?

鳥越:それでは冒頭の17年のセ・リーグ三塁手部門の話に戻りましょう。宮崎と鳥谷のUZRを見ると、宮崎が「7.7」で鳥谷は「−19.2」です。


カネシゲ:うわ、宮崎が勝ってる! それも圧倒的に!


鳥越:はい。


カネシゲ:はいって……。これ、ぜったい鳥谷にGG賞あげちゃダメじゃないですか。


鳥越:うん。


カネシゲ:うんって(笑)。


鳥越:だから、なんでかなって。人の印象って怖いなという話です。


カネシゲ:僕はDeNAファンなんで、宮崎はサード守備がうまくなったなと感じてたんです。なのに評価されない。やはりネームバリューなんでしょうね。


鳥越:そうですね。ちなみに鳥谷の名誉のために言っておきますと、13年までは球界トップのショートでした。阪神の本拠地・甲子園球場は土のグラウンドで、守備が難しいにもかかわらず、です。しかし14年に右ひざを故障してからは精彩を欠きます。守備範囲への影響がモロに出ました。


カネシゲ:連続出場記録があって休めないから、ゆっくり治療できなかったんでしょう。フルイニング出場や連続出場の弊害ってありますよね。


鳥越:それは金本監督が一番分かっているはずなんだけどな……。(注:鳥越先生は阪神ファンです)

カネシゲタカシ
カネシゲタカシ
1975年生まれの漫画家・コラムニスト。大阪府出身。『週刊少年ジャンプ』(集英社)にてデビュー。現在は『週刊アサヒ芸能』(徳間書店)等に連載を持つほか、テレビ・ラジオ・トークイベントに出演するなど活動範囲を拡大中。元よしもと芸人。著書・共著は『みんなの あるあるプロ野球』(講談社)、『野球大喜利 ザ・グレート』(徳間書店)、『ベイスたん』(KADOKAWA)など。

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