男女に差なんて、ない プリキュア生みの親、秘めた信念
3月8日は、国連が定めた「国際女性デー」です。
男女格差が大きいとされる日本を、次代を担う若い人たち、とりわけ女の子たちが性別にとらわれず生きることができる社会に――。人気アニメ「プリキュア」シリーズの初代プロデューサーの鷲尾天さんは、「女の子が、自分たちの足で地に立つことが一番」と語ります。
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女の子向けのアニメをやってくれ、と会社に言われて「無理無理。女の子の気持ちもわからないのに」って思いました。でも、チャレンジするしかありませんでした。
企画書に書いたコンセプトは「女の子だって暴れたい!」です。それまでの女の子向けアニメは「魔法もの」が多くて、アクションがあまりないなと思っていました。「絶対に格好いいんだけどなあ。よし、それを形にしちゃえ」と。普通の少女が変身して敵と戦う「プリキュア」が、こうして生まれました。
初代プリキュアは2人組です。イメージしたのは、映画「48時間」や「ダーティハリー」、テレビドラマの「トミーとマツ」。東映アニメーションに転職する前は、あまりアニメを見ていませんでしたから、モデルとして浮かんだのは実写でした。
入社前は、地元の秋田朝日放送で報道記者をやったり、ドキュメンタリーを制作したりしていました。映像制作の面白さを感じて、より多くの人に見てもらうものを東京で作ろうと、東映アニメーションの中途採用に応募したんです。最終面接で「アニメについて何も知らないのですが、いいんですか」と聞くと、当時の部長は「その方がいいんだ」。業界の外にいる人の考えを採り入れようということだったみたいです。
修業期間を経てアニメのプロデューサーになって、「金田一少年の事件簿」や「キン肉マンII世」などを手がけました。まあ、基本的に男の子向けですよね。小さな女の子向けで、しかも原作がないというのも初めてだったのが、プリキュアでした。
企画を考えたときは「小さな子どもは、男の子も女の子も変わらない」と思っていました。親御さんが「女の子らしくしなさい」「男の子らしくしなさい」と教育して、だんだんと分化していくんだろうと。私も小さな頃は隣に住む女の子と一緒に遊んでいました。大人になりきるような変身ごっこも2人でやっていましたね。だから、女の子も絶対に変身ものは好きだろうと確信的に思っていました。
ドラゴンボールZを手がけていた西尾大介さんに監督をお願いしました。キャラクターデザインについては、西尾さんがすごく細かい指示を出しました。アクションで足を踏ん張るから、靴はヒールなしで、といった具合に。変身後のコスチュームではあるんだけど、アクションのユニホーム、アクションのためのよろいという意味を持たせたかったそうです。
アクションを基本とすることに、放送開始前は「女の子が見てくれますかね」と言われることもありました。変身アイテムのおもちゃは携帯電話の形で、カードを読み込ませて遊ぶのですが、おもちゃ会社の方では「女の子はカードで遊ばない。男の子だけだ」という意見もあったそうです。でも、放送初日に近所のおもちゃ店に言ってみたら、次から次と売れていた。これはいけるのかな、と手応えを感じましたね。
西尾監督と2人で話し合ったのは「嫌な映像を作るのはやめよう」ということ。食べ物の好き嫌いをするとか、親に口答えするとか。子どもが夢中になって見入ってしまうアニメでの表現は、子どもにすり込まれてしまいますから。
男女の差についての話は絶対に盛り込みませんでした。「女の子だから」「男の子だから」といったセリフもやめてもらっています。「関係ないじゃん」という気持ちで作っていましたから。親が「あの子は、これできてるじゃない」と言うようなシーンもありません。比較されるのは、子どもが一番嫌がりますよね。ここまで気を使ったアニメは私にとって初めてでした。
プリキュアの戦闘には、男の子のキャラクターは参加しません。イケメンの男の子も登場するけれど、非力な存在です。女の子が主役で、自分たちで物事をとにかく突破することを見せたかった。どんなに巨大なものに立ち向かうときも、自分たちで解決する気持ちが一番大切だろうと思っていました。
プリキュアシリーズも今年で15年目を迎えました。世間に認知されて、大人にタイトルを言ってもわかってもらえるようになりました。昨年のプリキュアの声優さんから「子どものころ、プリキュアを見ていました」と言われました。「ついに来たか」と衝撃的でしたが、うれしかったですね。
女の子がりりしく、自分たちの足で地に立つということが一番だと思って、プリキュアを作ってきました。子どものときには、意味がわからなくてもいいんです。テレビで見ていた女の子が成長して、思い返したときに「こういう意味だったのか」と気づいてもらえれば。
まだまだ女性にとって厳しい社会ですよね。ハリウッドの「#MeToo」の動きを見ても、現場はきついんだな、と思います。アニメのようなファンタジーの世界で、「男性に頼らない女性」が主人公のものが一般的なものになれば、実社会も変わってくれるのではないでしょうか。そう願っています。(聞き手・鈴木康朗)
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わしお・たかし 1965年生まれ。秋田県出身。秋田朝日放送などを経て、98年に東映アニメーションに入社。「釣りバカ日誌」や「キン肉マンII世」などをプロデュース。2004年に放送が始まった「ふたりはプリキュア」以来、プリキュアシリーズのプロデューサーを5年連続で務めた。現在は東映アニメーション執行役員。