改正風営法の施行後、「特定遊興飲食店」の無許可営業容疑で全国初の摘発を受けた、東京・渋谷のクラブ「青山蜂」。BuzzFeed Newsは、警視庁に逮捕され、罰金の略式命令を受けた経営者の後藤寛さん(47)に、摘発の経緯や取り調べの様子などを聞いた。

青山蜂を経営する後藤寛さん
深夜の着信
――摘発時の状況を教えてください。
1月28日の午前2時過ぎに警察が店に立ち入りました。私は家で寝ていて、午前4時ごろに起きたら、店長やスタッフからの携帯の着信がすごいことになっていた。「何かあったな」と思いました。
店長に折り返すと、横にいた警察官が電話を代わって「ちょっと来ていただきたい」と。
私はシングルファーザーで、当時は中学1年生の娘と一緒にいました。そのことを伝えると、「後で家に帰します。保証しますので」と言われ、明け方に渋谷署で事情聴取を受けました。
「現場にいた社員を現行犯逮捕した。法律の許可を得ないで営業してたよね?」と聞かれ、経営者で間違いないか、その日のパーティーにはどの程度関与していたのか、といったことを確認されました。

東京・渋谷の青山蜂
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「ハッキリ言うけど逮捕だ」
――即逮捕ではなかったのですね。
この時は任意の聴取で、だいたい2〜3時間ぐらい。最後に上申書を書かされて。いったん店に立ち寄った後、約束通り家に帰してもらいました。
警察官には「この後どうなるんですか」としつこく尋ねましたが、「何らかの処分を受けてもらうことになります」と言うだけ。冷静に考えれば、現場の社員が逮捕されて、経営者が逮捕されないわけがないんですけど。
帰宅して3時間ほどだったかな。昼過ぎにピンポンが鳴り、ゾロゾロと捜査員がやって来ました。家宅捜索です。娘と友達は、外へ遊びに行かせました。
警官から逮捕状を見せられて、「ハッキリ言うけど逮捕だ」と。私の母親に連絡して、娘を預かってもらうように伝えました。

「冷静に考えれば、現場の社員が逮捕されて、経営者が逮捕されないわけがないんですけど」
DJは従業員?
――取り調べではどのようなことを聞かれましたか。
担当は30代ぐらいの男性警察官で、以前にクラブでアルバイトをしていたことがあると言っていました。渋谷署ではなく本庁(警視庁)の方です。
「青山蜂さんって誰々も出てましたよね。めっちゃいいですよね」とか、やたらとクラブをわかってる感じを出してました。
取り調べでは、営業形態やお金の流れ、私の人となり、店の歴史などを詳しく聞かれました。
警察はしきりに「DJ従業員」という言葉を使っていて、「月に1回やっているDJはレギュラーですよね?」とも聞いてきましたね。

「DJ従業員」って何?
――DJが店に雇われているようなイメージなのでしょうか。
警察としては、演者であるDJも営業に加担している、という解釈なのかもしれません。
箱貸しをすることもあれば、自分たちでイベントをプロデュースすることもある。いろんなパターンで営業が成り立っているので、「そんなに単純なものではないですよ」とは伝えました。
あたかも店が命令してやらせているような言い方をしていたので、「こちらはやっていただく立場。DJをリスペクトしているし、注文なんかしてません」と言いました。
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「DJをリスペクトしているし、注文なんかしてません」
楽しませたら「遊興」
――逮捕容疑は、深夜に酒と遊興を提供する「特定遊興飲食店」の無許可営業でした。
警官からは「DJブースがあって、楽しませようと煽って、踊らせていたわけですよね」と言われて。
私は「DJは選曲家で、カフェやラウンジのような雰囲気をつくるためのプレイもある」と主張したのですが、「結局のところ、お客さんを楽しませようとしている。それは遊興をさせようという意思なんですよ」と取り合ってもらえませんでした。
クラブ「NOON」の裁判では、最高裁で無罪判決が確定しましたよね。そのことについて取調官に尋ねると、「あれは過去の話。もう古いですよ。いまは新しい法律ができたし、全然そういう状況じゃないですから」と言われてしまいました。

NOON元経営者の金光正年さん(前列右)と弁護士ら=2015年1月、大阪市内
NOON裁判「無罪」の意味は
風営法は、戦後の混乱が続く1948年、売春や賭博といった風紀の乱れをただす目的で制定された。売春婦がダンスホールで客をとっていた時代の名残で、「客にダンスをさせる」営業は戦後長らく規制されてきた。
2010年代に警察の取り締まりが強化されると、摘発で閉店に追い込まれるクラブが続出。風営法違反容疑(無許可営業)で逮捕された、大阪のクラブNOONの元経営者、金光正年さんは法廷闘争の末に無罪判決を勝ち取った。
2015年1月の大阪高裁判決は「設備を設け、男女が組になり、かつ、身体を接触して踊るのが通常の形態とされているダンスを客にさせ、かつ、客に飲食をさせる営業」を風営法の規制対象とし、NOONはこれに該当しないと認定した。
翌年6月に最高裁で無罪が確定。この間に「特定遊興飲食店営業」が盛り込まれた改正風営法の国会審議が進み、2015年6月には改正法が可決・成立した。

NOON裁判ではペアダンス以外はセーフとされたが…
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「条件付き解禁」厳しいエリア制限
――青山蜂は特定遊興飲食店の営業エリア外で、そもそも許可の取得ができません。
取り調べでは「法律的に許可が取れるエリアには入っていない。営業できないことはわかってましたよね」「昨年も2回注意しましたよね」と聞かれました。
内偵捜査でパーティーの様子も確認しているし、証拠の動画もバッチリ撮っているからと。
法改正によって深夜のクラブ営業が「全面解禁された」と誤解されがちだが、実際には許可を得れば営業できる「条件付き解禁」に過ぎない。
新風営法では、深夜に酒を飲ませ、ダンスなどの「遊興」をさせる業者は、「特定遊興飲食店」として許可を取得することが義務付けられている。
ところが、営業可能エリアは繁華街などごく一部に限られ、青山蜂のように長年営業してきたクラブでも、エリアからこぼれてしまうケースが少なくない。

深夜の遊興にご注意ください
「DJがいる時点で遊興を煽っている」
――警察からは、いつごろ、どんな形で注意があったのでしょうか。
1回目は昨年の7月です。「無許可営業の疑いがある」という呼出状を受け取り、私と店長とで渋谷署へ赴きました。
担当者は20〜30代の若いお巡りさんでした。逮捕後の取調官とは別の人です。その時は確か、こんな風に訴えたように記憶しています。
「踊らせているつもりはありません。良質な音楽をかけて、お酒を提供して、素敵な空間をつくる商売です」
「座って喋っている人もいれば、雰囲気を楽しんでいる人もいる。踊るのはお客さんの自由ですが、踊らせることだけが目的の店ではありません」
しかし、警官の答えは「DJブースが置いてあり、DJがいる時点で遊興を煽っていることになる。DJは楽しませるためにいるんじゃないんですか? 楽しませるということは遊興なんですよ」というものでした。
「警察としてはこういう営業は認められません。悪質だと思います」とハッキリ言われて。納得はしませんでしたが、このままでは帰れないと思い、「改善します」という誓約書にサインをしました。

「DJは楽しませるためにいるんじゃないんですか? 楽しませるということは遊興なんですよ」。警察官は後藤さんにそう告げた
「甲室」「乙室」で対策
――注意を受けて、何かしら対策をとったのですか。
呼び出しの後、弁護士にも相談して対応を考えました。
飲食スペース(甲室)と遊興スペース(乙室)を完全に分ければ、特定遊興飲食店に該当しないと知り(詳細は警察庁のチェックリスト参照)、蜂でもやってみたんです。
蜂は2、3、4階があり、2階のDJバーと4階のラウンジバーでお酒を売っていて、3階がメインのフロアになっていました。
4階はもともと踊れない構造でしたが、2階の方もソファやテーブルを置いて踊れないようにした。「深夜0時以降はダンス禁止です」という張り紙もしました。
逆にDJブースのある3階はドリンクの持ち込みができないようにして、「遊興」専用ということにしました。

青山蜂の入るビル。警察からの注意を受け、飲食スペースと遊興スペースを分離する対策をとったという
「そんなものは抜け道だ」
――2回目の注意はどういったものだったのでしょう。
8月に2度目の立ち入りがありました。私は不在でしたが、店長いわく前回とは違って警察の対応も高圧的だったと。「オイオイ、直ってねえじゃん!」と、オラオラな感じだったそうです。
呼出状の文面も「無許可営業の疑いがある」から「無許可営業があり」と変わり、グレードが上がったな、と感じました。
また渋谷署へ行くと、同じ担当者から「前回も言いましたが、全然改善されてないですね」と注意を受けました。
「甲室」「乙室」のことを伝えたところ、若いお巡りさんはその仕組みを知らなかったようで、上司に問い合わせていました。
ですが、結果は「そんなものは抜け道だからダメだ」ということでした。
「それはあくまでもグレーです。警察はグレーは黒とみなします。絶対認めません。だから白い営業をしてください」と言われました。
最後にまた誓約書を書かされて。「この次に警察の取り締まりがあれば、どんな処分にも従います」というような内容でした。
――そこから逮捕まで5ヶ月ほど空きました。
「甲室」「乙室」が通じたのかな? と思っていました。警察がマークを外したのかもしれないと。そこで油断してしまった。しばらくは(スペースの分離を)続けていたのですが、次第に緩んでしまったんです。

警察庁のサイトで、特定遊興飲食店に該当するかどうか確認することができる
「嘆願書」の説明なく
――騒音などの問題で、近隣町会が取り締まりを求める嘆願書を出していた、という報道もありました。周辺にはほかにも深夜営業の店があり、騒音にせよ、酔客やゴミにせよ、青山蜂が原因だと特定するのは難しいのでは。
蜂は防音をしっかりしていて、グラスも持ち出し禁止です。酔客が外でたむろしないように、再入場も厳しく禁止しています。
それでも、嘆願書が出されたということは、多かれ少なかれご迷惑をお掛けしたということ。日ごろから地元の方々とコミュニケーションをとっていれば…と反省しています。先日、町会の方にも謝罪をしてきました。
ただ、取り調べでは嘆願書についての話は一切ありませんでした。逮捕前の時点でも苦情のことはまったく言われていません。
7、8月の注意の時に言っていただければ、住民の方と対話し、何らかの対処ができたかもしれない。苦情があると気づけなかったことが残念ですし、非常に悔やまれます。

「警察はグレーは黒とみなします。絶対認めません。だから白い営業をしてください」
闘う体力ない
――20日にわたって勾留され、罰金100万円の略式命令を受けました(店長は50万円、もう1人の社員は不起訴)。
蜂の経営状態からして、合計150万円という罰金はとても重かったですが、何とかかき集めました。
子どものこともありましたし、月末の支払いのこともあったので、とにかくいち早く出たかった。違反を認めて、取り調べにも協力しました。取調官は「1日でも1時間でも、早く出られるように急ぎます」と言っていたのですが…。
とにかく出たいという思いで、闘おうという気持ちにはなれなかった。逮捕されてつくづく感じましたが、国家権力の力って本当に大きい。1人で闘う体力もないし、「踊って何が悪いんだ!」という姿勢を貫くことはできませんでした。
コムアイ、ミトらがメッセージ
――摘発後、水曜日のカンパネラのコムアイさんや、クラムボンのミトさんらミュージシャンが相次いで声をあげました。後藤さんの減刑を求める署名も500通以上集まったと。
ありがたいですよね。ミトさんは私が蜂でバーのスタッフをしていた時に、レギュラー・パーティーでDJをしてくれて、20代のころからの付き合いなんです。
行きつけのお店で2〜3年前に再会して、たまに会っては音楽の話や子どもの話を語り合って。だからすごく心配してくれたんだと思います。

水曜日のカンパネラのコムアイ
ECDが最後にDJ
――青山蜂の歴史を振り返って、どのような思いですか。
蜂がスタートしたのは1996年。私は1998年にスタッフ、2002年に店長、2007年にオーナーになりました。
蜂は私がつくったものではなくて、出入りしたお客さんやDJのみんな、スタッフ、そういった一人ひとりの思いによって培われてきました。歴史を重ね、色んな人たちに愛されて、いまの蜂がある。
私もDJもスタッフも、全員が全員、音楽が好き。音楽への愛しかありません。
シーナ&ロケッツのシーナさん(2015年死去)と鮎川誠さんがDJをしたり、本当にいい夜だったと思える瞬間がいっぱいありました。

「GOLDEN☆BEST シーナ&ロケッツ EARLY ROKKETS 40+1」
クボタタケシさん、ECDさん、DEV LARGEさんの3人がレギュラーでやってくれていた「ダブルサイダー」というパーティーがあって。2015年にDEV LARGEさんが亡くなり、つい先日(1月24日)、ECDさんも亡くなられてしまった。
ECDさんの最後のステージが、1月14日のダブルサイダーでした。階段をのぼるのもキツそうで、DJ以外は横たわって動けないような状態。最後は気力だけだったと思います。
蜂は、そういう人たちの魂が入っている店なんです。やめることなんてできない、自分には使命と責任があるんだ――。そう強く思った矢先の逮捕でした。

「ECD/MASTER」
深夜帯以外で再開めざす
――逮捕を受け、いまの心境は。
逮捕されて、罰金とはいえ有罪になった。やっぱりあそこでやってきたことは、法治国家の国民としてダメなことだったのかなって。
歴史を終わらせるのも、経営者の責任だったのかもしれない。私がちゃんと終わらせていたら、店長やスタッフが逮捕されることもなかったわけですから。
22年やってきて、犯罪だったと思うと悲しいですけどね。あの場所は自分自身ですし、それで生活して娘も育ててきたので。
だけど、そうなる前に自分で判断して、次の展開を考えるなり、対応しなければならなかった。その責任は経営者にあると思ってますし、すごく反省してます。
お酒があって、音楽があって、楽しいから体が動きますよね。でもいまの日本では、許可の取れないエリアでそれをやったら、逮捕され、勾留され、有罪になるってことですよ。

青山蜂の看板
――これから、お店の営業はどうされますか。
近隣住民の方とよく話し合ったうえで、午前0時までの法に触れない時間帯に営業することを目指します。
迷惑を掛けてまで、強引に営業するつもりはありません。周りのご理解を得ながら再開できたら、と考えています。
BuzzFeed Newsは、今回の摘発について警視庁保安課に取材を申し込んだが、「捜査に関すること」だとして回答を拒否した。
Ryosuke Kambaに連絡する メールアドレス:ryosuke.kamba@buzzfeed.com.
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