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勝因は、動画を見るとわかる。
最後のコーナーで、高木菜那が内側に切り込んでいる。一方、相手(オランダ選手)は外側に大きくふくらんで、大幅に距離を増やして、遅れてしまった。
ここでは、高木菜那うまくやったということのほかに、相手が大失敗したということが、勝敗を分けた。では、その理由は?
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見れば理由は明らかなことなのだが、解説している記事を見たことがないので、私が解説しておく。
まず、基本原則を示そう。
マススタートでは、普通のスピードスケートとは違ったコースを取る。普通のコースよりも、ずっと内側のコースが許される。その分、コーナーがきつくなる。したがって、高速でコーナーを回ろうとすると、コーナーギリギリのコースを取ることはできない。コーナーギリギリのコースを取れるのは、速度が遅いときだけだ。速度が速いまま、コーナーギリギリを取ると、スピード超過で、コーナーの外側の方に張り出してしまう。
オランダ選手は、そこで大ミスをした。最後のコーナーで、内側ギリギリの位置を保とうとした。そのまま、スピード超過で、外側にふくらんでしまった。そのせいで、大幅にタイムをロスした。
高木菜那は違った。最後のコーナーに入る少し手前で、いったん外側に出た。そのあと、コーナーを半分ぐらい回ったところで、コーナーギリギリまで近づいた。これだと、以後は外側に大きくふくらむことはない。そこで、すでに外側にふくらんでいる相手の内側に入って、相手を追い越した。作戦成功。
要するに、半径を R で表すと、R = 10 のコーナーでは、R = 10 のコースを取れず、R = 20 ぐらいのコースしか取れない。そこで、いったんコーナーの外側に回ってから、コーナーに近づいて、そこからまたコーナーから遠ざかればいい。
ただし、コーナーに接近する時点が問題だ。早めにコーナーに接近すると、最終的にはひどく遠回りするコースをたどる。一方、最初はコーナーから遠ざかって、そのあとコーナーに近づくコースを取れば、最終的には遠回りしないで済む。
もちろん、オランダ選手も、このことはわかっていた。だが、そうできなかった。なぜか? 後ろから2位の選手が近づいているので、そのとき内側を明けると、そのコースを奪われることが心配だったからだ。コースを奪われたまま、妨害を受けると、勝負に勝つことができない。そう思って、内側を明けるのを拒んで、早めに内側のコースに占めた(コースに蓋をした)わけだ。
ところが、それを読んでいた高木菜那は、コーナーの前半では勝負せず、コーナーの後半で内側から追い抜けばいい、と作戦を立てた。そして、その作戦が見事に奏功した。読み勝ちである。
結局、コーナーの内側に接近する時点で、勝敗を分けた。
・ コーナーの前半で内側に接近した相手選手
・ コーナーの後半で内側に接近した高木菜那
この作戦の違いが、勝負を分けたのだ。
[ 付記 ]
本項では図を示さず、言葉だけで示したが、頭のなかで図を描いてほしい。図で考えないと、正しく理解できない。
三宮さんの解説にもありましたが、オランダの選手がコーナーで膨れることを読んでいたそううです。
また、小柄であることがコーナリングで有利に働いた面もあるかと思います。
https://goo.gl/rfSVDW
そうです。このことを念頭に置きながら書いていました。車の話にも言及する予定で書きはじめたのだが、書き落としてしまいました。ご指摘いただいて、思い出しました。ありがとうございます。
http://www.asahi-net.or.jp/~jh9h-sgur/old/outinout.htm
このページでも解説されています。そこには「スローイン・ファストアウト」という概念も説明されています。これも重要な概念なので、これも理解しておくことが大切です。
※ もともと書く予定だったが、書き忘れたので。