吉田知那美の「にっこにっこにー」の真相が判明(時事通信フォト)

写真拡大 (全2枚)

 平昌五輪は日本選手団の解団式を迎えたが、あの盛り上がりの余韻はまだ続いている。特にカーリング女子の快進撃と笑顔は、多くの人の目に焼き付いていることだろう。テレビの生中継で、吉田知那美は満面の笑みでこう言った。「なっちゃーん! にっこにっこにー」──えっ? 今なんて? カーリング取材歴9年で、平昌五輪現地を取材した竹田聡一郎氏が、この言葉の謎に迫る。

 * * *
 日本カーリング史上初のメダルを携え2月26日に帰国した日本代表ロコ・ソラーレ北見(以下LS北見)は、メダル獲得はもちろん、「もぐもぐタイム」をはじめ、「そだねー」などの北海道弁、強敵・韓国のスキップ「メガネ先輩」などなど多くの話題を提供し五輪を彩ってくれた。が、いまだにネットがザワついている案件がある。

「にっこにっこにー」だ。

 順を追って説明したい。「にっこにっこにー」とは、女子高生が廃校の危機を脱すべくアイドルを目指し学校を有名にしようとする、新感覚アニメ『ラブライブ!』で出てくる言葉。その登場人物でアイドル候補のひとり「矢澤にこ」というキャラのセリフ兼キャッチフレーズだ。元AKB48のメンバー・渡辺麻友の「み~んなの目線を、いただきまゆゆ~」と同じようなもの、と言えばわかりやすいだろうか。

『ラブライブ!』は、元々はKADOKAWAの雑誌『電撃G’s magazine』がバンダイナムコグループのランティス社、サンライズ社……と続けるとどんどんカーリングの話と離れていくので割愛させてもらうが、とにかくLS北見の吉田知那美が五輪の全国放送生中継で「にっこにっこにー」を披露したのだ。

 準決勝の韓国戦、試合前の選手紹介で吉田知那美は自分の番になると、まずはカメラを笑顔で覗きこみ、「なっちゃーん」と誰かに向かって呼びかけ、あのビー玉のような瞳を見開いた。

 そして、両手の親指と人差し指と小指の3本を立てて左右に振る特有の動きをしながら、「にっこにっこにー」である。実況を担当したNHKの塚本貴之アナウンサーはさすがにスルーしたが、これにSNSなどがおおいに反応した。

「今の、まさか、にっこにっこにー?」
「カーリングで矢澤にこキタ。しかも可愛い」
「なんだ、ただのリアルか」
「にっこにっこにー、ついに五輪上陸」
「アスリートがやるとあんなにキレがあるもんなの?」

 ライブライブのファン・通称“ラブライバー”が驚きながら喜んだ。少数だが、「武藤敬司?」というプロレスファンもいた(野暮な説明だが、武藤のキメポーズの指を立てる仕草が似ているからだろう)。

 なんせ平均視聴率25%を叩き出した大一番である。日本の元気印・吉田知那美のにっこにっこにーは電脳世界を瞬く間に駆け巡り、拡散され、まとめられた。その情報はアニメで矢澤にこを担当する声優の徳井青空さんにも届き、本人は自身のtwitter(@tokui_sorangley)で、

「え!?にっこにっこにー!?にっこにっこにーですって!?にっこにっこにー!!??

 お仕事でテレビ見られてないのですが、リプが!!笑
 にっこにっこにーなのですか!?
 本当ににっこにっこにーですか!?」

との呟きを残し、あっという間に1万6000リツイートを集めた。

 そして、すかさず次なる疑問が湧く。「なっちゃんって誰だ」「吉田知那美はラブライバーなのか」。

 まず、なっちゃんとは、吉田知那美と、妹の吉田夕梨花の姉、菜津季さんだ。吉田家は三人姉妹でその長女に当たる。小さい頃からカーリングをしていて、知那美も夕梨花もその影響を受けアイスに立った。

 菜津季さんはジュニア時代にはLS北見の創設メンバーでもある馬渕恵さんらとチームを組み、高校3年生時には日本ジュニア選手権を制し、世界ジュニアに出場した経験もある。世代を代表するカーラーの一人ではあったが、就職のタイミングでカーリングには区切りをつけた。2013年には今年の日本選手権準優勝チームである4REALのフォース・松村雄太と結婚し、現在は北見市内に住んでいる。平昌出発前夜には、実家に集まって簡単な吉田家壮行会を開いたらしい。

 そしてもう一つの疑問、「吉田知那美はラブライバーなのか」だが、ノーだ。

 この菜津季さんこそが「ラブライバーってほどじゃないですけど、好きです」と語る“黒幕”だった。韓国戦前夜に吉田三姉妹のライングループに「明日、これやって」と、にっこにっこにーの動画を添えて送ったらしい。

 とはいえ、ただのファンとしての行動ではないようだ。本人に理由と経緯を聞いてみた。

「今回のアイスは途中から変わってきて難しそうでした。途中でストーンを削った(研磨した)影響もあるかもしれません。イギリス戦、スイス戦と連敗したあたりは、知那美の笑顔も消えがちだったんです。知那美は調子がいい時は楽しそうにやっていて、手がつけられないくらい(ショットが)決まるけど、負けている時に顔に出ることがあるから、リラックスしてほしくて。笑顔で(にっこにっこにーを)やったらさっちゃん(藤沢五月)もゆうみ(鈴木夕湖)も和むかな、と思って」

 矢澤にこのトレードマークはツインテールと笑顔だ。ツインテールではないが、LS北見もなんといっても笑顔が印象的なチームで、キーワードと言っていい。「アイドルになるためにどうするか、しっかり考えている」と菜津季さんが好きな矢澤にこのように、笑顔を取り戻してメダルに向かって欲しい。そんな願いが込められていたのだろう。

 韓国戦こそ惜しくも一歩、足りなかったが「最後の2試合は私たちらしい試合で締めくくれてよかった」と鈴木が大会後に語っていたように、第1エンドに取られた3点を猛追する緊迫したゲームを見せてくれた。イギリス戦の興奮と緊張に満ちた素晴らしいゲームは今さら語るまでもないが、吉田姉妹は揃って85%という高いショット成功率を記録するなどして勝利をおさめた。にっこにっこにーが要因とまでは言えないが、ポジティブな材料であったことは間違いない。

 チームは2月27日に都内で解団式を行い、故郷の北見に凱旋。

 なっちゃんは、「人懐っこいけれどデリケートな部分も持ち合わせている」知那美と、「時には努力が実らないこともある、ということを知っている芯の強い」夕梨花という吉田家が誇るふたりの妹をどんな言葉で迎えるのだろうか。

「うーん、かける言葉は特にないけど、『ラブライブ!』を見るように勧めます(笑)」