金融制度の大幅再編、銀行に新たな競争環境-預金の扱いが焦点
萩原ゆき、Gareth Allan-
フィンテック進展で規制枠外の業者増加、同一ルール適用を検討
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預金の免許制変われば銀行の貸し付け業務、経済全般に影響も
金融庁は、現行の銀行法や保険業法など業態ごとの法体系を機能別の規制に見直す金融制度再編の検討を進めている。フィンテックの進展でIT企業が金融分野に進出するなど既存の規制では対応できなくなっていることが背景。預金を原資とする貸し付けを伝統的なビジネスモデルとしてきた銀行にとっては、事業戦略の見直しを迫られる事態も予想される。
金融制度再編は、従来の規制対象ではない企業が金融サービスを提供する場合、銀行や保険会社などと同じルールを適用することを前提に、「決済」や「資金供与」、「資産運用」、「リスク移転」と大まかに4機能別の規制を検討している。環境変化に対応することで制度面の障害を取り除き、ITベンチャーなど多様なプレーヤーが柔軟にサービスを展開できる仕組みに変えるのが狙い。
再編は、マイナス金利政策や国内市場の縮小で厳しい経営環境にさらされる銀行に新規参入業者との新たな競争を迫ることになる。みずほ総合研究所の三宅恒治金融調査部長は、「銀行制度が始まって以来の歴史的な転換点になる」との見方を示した。
S&Pグローバル・レーティングスの吉澤亮二主席アナリストは、「ビジネスの現実に合わせて金融も変わる時期に来た」とみている。これまでは主に銀行が担ってきた決済・送金・融資などの業務に新興企業が参入しつつあり、複数業態にまたがったビジネスや、家計簿アプリなど銀行と利用者の間に立って入出金情報提供をする中間業者などが増加している。
全国銀行協会の平野信行会長(三菱UFJフィナンシャル・グループ社長)は1月の会見で、イノベーションと安心・安全への配慮がバランスする形で再編議論が進んでいるとの見方を示した上で、「今後の銀行のビジネスモデルや事業戦略に大きな影響を与える可能性がある」と述べた。
フィンテックを専門とするコンサルティング会社EYによると、フィンテック技術が進んでいる国別のランキングで、日本はメキシコやオランダ、南アフリカなど20カ国・地域中、下から2番目となっている。
焦点は預金
再編の焦点となるのは、預金の扱いだ。銀行に認められている預金受け入れは元本保証されているのが特徴で、金融機関が破たんしても利息が付かない普通預金は全額が、利息の付く預金は元本1000万円までが保護される。この制度の下、銀行は顧客から預金として資金を得て融資を行っているが、仕組みが変わり預金を原資とした貸し付けが難しくなると経済活動や金融システム全体に悪影響が及ぶ恐れもある。
このため、金融審議会のスタディーグループでは、預金を他の4つの機能から独立した位置付けにすることや、預金受け入れと資金供与を併せて行うサービス提供者については、免許制の下で厳重なルールを課すことも検討している。
三宅氏は、法再編は最終的に「金融の安定化につながる」とみている。決済や資金供与分野への新規参入は銀行にとって既存顧客を奪われるリスクにもなるが、逆に銀行が新たに参入できる分野も増える。今は新興企業が規制枠外に置かれているが、同一ルール下で競争する環境となれば、健全な企業が生き残り業界も整理されてくると述べた。
銀行の強み
S&Pグローバル・レーティングスの吉澤氏は、機能別の法体系になったとき、銀行の強みとして残るのは、「経済活動に絡む情報を把握していること」だと述べた。ノンバンクによる貸し出しやインターネットで資金を募るクラウドファンディングと違い、情報を把握することでリスクを取ってリターンを得るビジネスで強みが発揮できるという。
審議会の議論では、仮想通貨の定義や利用者保護のあり方なども課題として上がっており、今後、複数年かけてまとめる予定。麻生太郎金融担当相は23日の会見で、機能やリスクに応じた規制適用は、「金融機関や新規参入者の創意工夫を促すことになり、日本の金融競争力の強化につながる」との考えを示した。