期待のネット新技術

“世界最速”へのこだわり、XG-PONによる「NURO 光 10G」提供のソニーネットワークコミュニケーションズに聞く

【アクセス回線10Gbpsへの道】(番外編)

 NTT東が、光ファイバーを用いたインターネット接続サービス「Bフレッツ」の提供を2001年に開始して以来、そのスピードは、当初の10M/100Mbpsから高速化を続け、2015年にソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社が提供を開始した「NURO 光」の新プランで、ついに10Gbpsに達した。2017年には、「NURO 光 10G」の対象地域が拡大するなど、多くの地域で10Gbpsのインターネット接続サービスが利用可能になっている。今回は、XG-PONによる10Gbps接続サービス「NURO 光 10G」を提供しているソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社へのインタビューをお届けする。(編集部)

 今週は番外編として、XG-PONによる10Gbps接続サービスを提供しているソニーネットワークコミュニケーションズ(旧So-net)の山口琢也氏(ネットワーク基盤事業部門ネットワーク部ネットワーク運用課課長)、相川多佳子氏(コーポレートコミュニケーション室広報課チーフ)、中里貴之氏(コーポレーションコミュニケーション室広報課コミュニケーション推進課マネージャー)の三氏に、「NURO 光 10G」に絡めてXG-PON周りについて伺った。

NURO光の構成は?

 ソニーネットワークコミュニケーションズでは、So-netだった時代の2013年4月からG-PONによる2Gbps接続サービスを開始。2015年6月にはXG-PONによる10Gbps接続サービスを開始している。山口氏は、XG-PONを選んだ理由について「基本的には既存の資産(G-PON)を有効活用するには何を選ぶべきか、という観点が一番大きかった」と語ってくれた。

 2015年には「もちろん10G-EPONについても検討はしたが、(実際に導入した)XG-PONと10G-EPONで、それぞれメリットとデメリットがあった。現時点で弊社の提供するサービスとして、それを反映できているのか? というとそこまでは行っていない。ただ、そうは言っても将来性、特にいろいろなメディアやサービスが(回線に)乗ってくることを考えた場合、拡張性の面ではG-PON/XG-PONの方が適切と考えた」とした。

ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社の山口琢也氏(ネットワーク基盤事業部門ネットワーク部ネットワーク運用課課長)

 ではG-PONを導入した2013年の時点ではどうだったかというと、「そもそも論で言えば、G-PONの導入時点で、10G(XG-PON)までを考慮していたのは事実。そのときは確か10G-EPON(規格策定)の話がすでにあり、導入時点で(技術の進化が)止まらないよう、先を見据えて判断をした。しかし、もちろんときはまだ、将来的にXG-PONを実際に採用するか否か、というのはまた別の話ではあった」(山口氏)とのことだ。

 そういう意味では、2Gbpsのサービスを始める時点で、10Gbpsまでのロードマップは一応立っていたことになる。ちなみに10G-EPONに関しては、特にNTT東西が手がけていたこともあり、国内でも扱っているベンダーは多かった。これについては「収容能力などを考えるとなかなか厳しい」(山口氏)という判断だったとか。

 ちなみにXG-PONを実際に導入するといっても、収容数をどのくらいにするか? 構成をどうするか? DBA(Dynamic Bandwidth Allocation)をはじめとする帯域制御をどうするか? といった部分は、すべて自ら決めていく必要がある。これについては、「基本的には、あまり攻めた構成にはしていない。もちろん、(コストを抑えるという観点では)できるだけ収容数を多くしたいという思いはあるが、今度は品質の問題なども出てくるため、そうそう攻められるわけでもない。現状はバランスを取った、ちょうど良いところになっていると思う」(山口氏)とした。ちなみに距離は60kmをサポートする拡張構成は取らず、接続は20kmの範囲にとどめているという。

Pingも高速化

 ところで、「NURO 光」と「NURO 光 10G」を比較するデモも見せて頂いたのだが、光 10Gの方は速度が上がるだけではなく、Pingでのレイテンシーも短くなっていた。もちろん他社のFTTHを利用した場合と比較してもずっと少ない。この理由については「G-PONをXG-PONにすることで、1ms程度は時間が短縮できる。加えて、G-PONではOLTにG-PON以外のものも繋がっている関係で、ここでも1~2msほど(G-PONは)余分にレイテンシーが増えている。このほかにDBAの設定も絡んでくる」とのことだ。

スピードテストの計測によると、PINGは3msに短縮
NETFLIX提供のスピードテストでは3.1Gbps
PS4のゲームダウンロードは、269.1MBが2秒ほどで終了
YouTubeで4K動画をタブレットとPCで同時再生しても、遅延などは全くなかった

 G-PONからXG-PONへの移行では、単に帯域が増えるだけではなく、レイテンシーの削減にも繋がるということだ。例えば同社では他社のFTTHサービスも提供しているが、NURO以外のFTTHとの比較したとき、コアネットワークそのものは同じだとしても、そこまでの経路は当然異なることになる。FTTHとの繋ぎに関してはインターフェースが決まっており、その外(つまりONU→So-Netまで)はコントロールできない。対してNUROはONUからの経路をすべてを自分たちで決められるわけで、このあたりが強みとなっているとの話だった。

 ちなみに同社の場合、2017年末の時点でのブロードバンド加入者数は299万程度。うちADSLが約20万、FTTHが約279万となり、FTTHのうちおよそ34万が、NUROでの契約となっているそうだ。すでにNUROの提供数は加入者の1割を越えているから、決して少ない数ではない。これについては、例えば「いつまでにどのくらいの加入者数やシェアといった数値目標があるわけではない」(相川氏)のだという。

 そして、「当初は提供地域も小さかったが、当時はまだ回線にゆとりもあり、収容効果もあるので(加入者数の増強への対応は)容易だった。今では、ある程度の一定期間ごとに設備を増強するなどの見直しは掛けている。これまで関東を中心にサービスを提供してきて、規模などはある程度見えてきたところはある。ただ今後に関して言えば、現在は東海と関西に(カバー範囲を)広げたばかりなので、まずここに注力していきたい」(相川氏)とした。

ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社の相川多佳子氏(コーポレートコミュニケーション室広報課チーフ)

今後のサービス展開と“世界最速”へのこだわり

 サービスの展開に関しては、「今まで関東で2Gbpsのサービスをやってきたが、するとまず『なぜマンション対応がないんだ』という問い合わせを頂く。そこで「NURO光 for マンション」の提供を開始すると、次は『何で1都6県だけなんだ』と。こうしたユーザーさんの声に応える形で、(1月下旬から)関西や東海へのエリアの拡大を実施した。異なるニーズがあれば、今後も応えていきたい。もちろん内容次第で、とんでもない金額の投資は難しいが」(中里氏)ということだ。

 最後に今後の話については、「XGS-PONへは、ニーズがあればアップグレードできる状況にはなっている。ただそれをどうサービス化するかというのが現時点での課題。その先については具体的にどうこう、という話はまだないのだが、技術的に言えばNG-PON2への移行は(相対的に)行きやすいと思う。100G-EPONはまだちょっと遠いと感じている」(山口氏)とした。

 そして「今後の増速に関しても前向きに考えている。もちろん我々は『世界最速』にこだわりを持っている。これは2Gbpsのサービスを始めたときも、10Gbpsでも同じで、今後もこれを守っていきたい。ただ、この先、例えばNG-PON2や25GbpsのNG-PON2+などは、技術的な問題の面もあり、できるできないに加えて投資の問題にもなるが、会社として検討することになる。基本的な考え方としては世界最速を守りたい」(中里氏)という回答だった。

 もっとも現状、問題になっているのはPON側というより、むしろクライアント側であって、そもそも10GBASE-Tに対応するポートを備えた機器が少ないし、まもなく登場するIEEE 802.11axにしても、その後に控えている見通しのIEEE 802.11adにしても10Gbpsには達しない。とりあえずは10GBASE-Tがもっと広範に普及するまでは、PON側を増速しても意味がないということになる。

 しかもその先がまた面倒である。25GBASE-Tはまだそもそも機器が存在していないし、では100G Ethernetはというと、データセンターはともかく家庭に持ち込むのは現時点では激しく無理がある(*1)。このあたりを考えると、当面は10Gbpsが1つの到達点、ということになるだろう。そうしたこともあってか、今後の展開に関しては、「現時点でユーザーが求めている価格と速さに、まずは突き進んでいく。もちろん外部の環境が変われば、そこに合わせてパイを広げていくかどうかを、また決めることになる」(相川氏)という話であった。

(*1)100G Ethernetで家庭内(?)LANを構築された「ご家庭」があるのは知っているが、“一般的”からはほど遠い。

 最後にメッセージとしては「一般的には10Gbpsは高いと思われるが、実は1Gbpsあたりの価格を計算すると大変に安いという言い方もできるわけで、そのあたりで判断していただければ」(相川氏)。「現在は10Gbpsを提供しているが、これで終わりというわけではなく、新しい技術をどんどん取り入れて、より良いサービスを提供していく努力をしている。そうした面でも期待していただければ」(山口氏)とのことであった。

 以下余談になるが、DBAに関しては、法人向けと個人向けで設定を変えられている、という話だったが、その詳細までは教えて頂けなかった。そこが肝の部分なだけに、当然ではある。固定IPサービスについては、「そういう問い合わせはよく頂く」(相川氏)としつつ、現状は法人向けのみで、との話であった。

 今回は、いち早く10Gbpsのインターネット接続サービス「NURO 光 10G」を提供しているソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社へのインタビューをお届けしました。次回からはスマートスピーカーのバックエンドとフロントエンドについて新たなシリーズが始まる予定です。

大原 雄介

フリーのテクニカルライター。CPUやメモリ、チップセットから通信関係、OS、データベース、医療関係まで得意分野は多岐に渡る。ホームページはhttp://www.yusuke-ohara.com/