偏見に満ち、非科学的な「心理テスト」の歴史──過去の遺物に潜む「美しさ」を見た

20世紀に考案された心理テストをまとめた『Psychobook』には美と偏見が混在している。現在も利用されているロールシャッハ・テストや、精神病患者の写真を使った不穏な「ソンディ・テスト」、カラーテスト、描画テストなど、芸術とテクノロジーの観点から心理テストの歴史を振り返る。

TEXT BY MARGARET RHODES
TRANSLATION BY MINORI YAGURA/GALILEO

WIRED (US)

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    1/720世紀初め、心理テストがブームになった。目新しく、実験的で、美しさが注目されたが、問題が多く、大半はすでに利用されていない。これは「MAPS(Make a Picture Story Test)」と呼ばれるテストだ。IMAGE: REDSTONE PRESS

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    2/71942年に考案されたテスト。紙面上の人物の1人をある環境(寝室や台所、路上など)に置き、物語をつくるよう患者に求める。その内容から、病理学上の疾患を推定した。IMAGE: REDSTONE PRESS

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    3/7昔の心理テストをまとめた書籍『Psychobook』に収録されているうち、最も恐ろしいもののひとつは「ソンディ・テスト」だ。精神疾患で入院していた患者の写真を見せて、いちばん好きな写真と嫌いな写真を選ばせ、選んだ写真と同じ疾患だと診断した。IMAGE: REDSTONE PRESS

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    4/7「ロールシャッハ・テスト」は現在も利用されている。2016年夏に発表された研究では、心理学者の53.6パーセントが患者の診断にロールシャッハ・テストを利用していると回答した。IMAGE: REDSTONE PRESS

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    5/7主に子どもの患者にブロックを組み合わせて並べ、模様をつくるよう求める。20世紀初めから行われている非言語的テストだ。IMAGE: SCIENCE AND SOCIETY PICTURE LIBRARY

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    6/7これらの手製カードは、ブロックとともに使われる。独特な映像美で知られるウェス・アンダーソン監督の映画の小道具にも使えそうだ。IMAGE: REDSTONE PRESS

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    7/7このテストは「認識力」と「結びつけて考える力」を評価するためのもので、あまり利用されなかった。IMAGE: REDSTONE PRESS

脳機能マッピングの分野は神経学者たちの努力によって進化を遂げてきたが、人の脳は依然として謎に満ちている。他者が何を考えているのかは、誰にもわからない。わかるのは「いま、こうしたことを考えている」と他者が言っているということだけだ。

ゆえに心理学者たちは以前から、患者の真意を理解するためにテストやゲームに頼ってきた。さまざまな要素を組み合わせたグラフィック、象形文字のようなアイコン、モノクロの肖像画などだ。科学的な厳密さに欠けることが多かったが、見た目は美しかった。

20世紀初めは、実験的で美しい診断テストがブームになったが、根本的な問題があった。『Psychobook』(40ドル、約4,300円)はこうしたテストを豪華なコレクションとしてまとめたもので、Princeton Architectural Pressが2016年9月に出版した。

偏見に満ちた、非論理的なテスト

テストのほとんどは過去の遺物となっている。精神に関する理解が深まるなかで放棄されてきたからだ。「人格障害の概念は、継続的に見直しが行われています」とカンザス大学アチーブメント&アセスメント・インスティテュート(AAI)の心理学者ジョナサン・テンプリンは言う。

その顕著な例が同性愛だ。米国心理学会は、1987年まで同性愛を精神疾患に分類していた。「当時は、同性愛かどうかを調べるテストがありました。現在の基準に基づけば、常軌を逸しています」とテンプリンは振り返る。

同様の問題をはらんだテストは、ほかにもいくつかあった。1935年に考案された「ソンディ・テスト」は、精神疾患のある入院患者(てんかんや同性愛、うつ病も含まれていた)の写真を見せて、いちばん好きな写真と嫌いな写真を選ばせるものだ。その選択を基に、心理学者は患者を理解する。そう病患者の顔写真を選べば、なんと自分もそう病患者と診断された。

このテストが信用に値しないことを専門家が示すまでに、長くはかからなかった。さまざまな偏見を押しつけていただけでなく、非論理的だったからだ。性犯罪の加害者の顔を気に入ったとしても、あなたも性犯罪者ということにはならない。

だが、当時のソンディ・テストは、写真という“新しい”技術を利用する“高度な”ツールだった。医師たちはかつてないほど正確な診断を下せるように思えたのだ。

心理学者からの信頼が厚い「ロールシャッハ・テスト」

Psychobookのなかで最も長く利用されているのは、自由回答式のテストだ。「Feeling Test」では、絵のなかに描かれたいくつかのキャラクターのうち、ひとつになりきるよう求められる。キャラクターは、1人でいる者、カップル、座っている者、感情的な者など、さまざまだ。

キャラクターが生身の人間というより温和な幽霊のように見えるところがくせもので、さまざまな感情を代弁しているとみなされる。会話のきっかけになるので、セラピストにいまも利用されている。

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IMAGE COURTESY OF REDSTONE PRESS

診断ツールとしておそらく最も有名な「ロールシャッハ・テスト」も、驚くことにまだ利用されている。ヘルマン・ロールシャッハは1921年に、10種類の抽象的な模様のインク染みを作成し、本として出版した翌年に死去した。2016年夏に発表された研究では、心理学者の53.6パーセントが、ロールシャッハ・テストを利用していると回答している。

このテストを何年も研究して改訂してきたトレド大学の臨床心理学者ジョニ・ミウラは、「うまくつくられています」と語る。「つくられている」と言う言葉は、このテストがよく考慮されたうえで作成されたものであることを示している。

「インク染みをつくろうとすると、インクが飛び散ります。ほかのインク染みは、それほど何かを思い起こさせたりしません」とミウラは指摘する。ロールシャッハ・テストのインク染みは複雑なので、精神分析中のやりとりが増えるという。画家でもあったロールシャッハは、インク染みを意識的に、解釈の余地が最も大きい作品にしようとしたのだ。

心理学という芸術を進化させるテクノロジー

心理テストで最も大きく変化したのは、医師が患者から探り出した情報をどう解釈するかだった。ミウラはメタ分析に7年間を費やし、ロールシャッハ・テストの結果を評価するための行動基準を現代向けにどう改良すべきか、理解を深めた。

同様に、カンザス大学のテンプリンは、ツリー図や統計モデルを活用すれば、コンピューターを使ったテストを患者に適合させることができると指摘する。ある方法でひとつの質問に答えると、次にどの質問を行うべきかをアルゴリズムが予測できるというのだ。

このように、テクノロジーは一風変わった“デザイン”の分野に影響を与え続けている。「ロールシャッハの技法は芸術的です。そしていまは、コンピュータープログラムを活用して設計することができます」とテンプリンは言う。

0と1で構成された数列は、抽象的な水彩画ほど美しくはない。だが、ソンディ・テストに勝るのは確かだ。

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