口コミサイトの情報を商標権侵害で削除できるか
2016/09/30
口コミサイトの情報を商標権侵害を理由に削除するという、ちょっと納得しにくい事件のニュースがあったので、解説と感想を書いておきます。
※記事末尾に追記しました!
事件の概要
札幌市の中古車販売業者が、中古品の買い取り価格を比較する口コミサイトに、社名や事実と異なる情報を掲載されたとして、削除を求める仮処分を申し立てたのに対し、札幌地方裁判所は、商標権の侵害にあたるとして、サイトを運営する東京の会社に情報の削除を命じました。
口コミサイトは「ヒカカク!」という買取価格比較サイトで、買い取り業者の価格ドットコムのようなものです。
商品ごとに、買い取り業者の買値を比較でき、業者の口コミを見ることもできます。
今回問題となったのは、札幌市の中古車販売業者「ティーバイティーガレージ」の口コミです。まだ削除されていないようなので、画面キャプチャを張っておきます。
投稿されている口コミの中の「今すぐ売るか売らないか即決してくれないと困ると言われた」などという情報は、事実と異なるとして、サイトを運営する東京・渋谷区のインターネット関連会社「ジラフ」に削除を求める仮処分を申し立てていました。
その削除の理由が、商標権侵害だというのです。
なお、あまり関係ないですが、少し前の時点では、上の画面では会社のロゴ画像も使われていました(Internet Archiveより)。
商標権の効力
商標権の効力は、よく誤解されがちなのですが、決して商標登録された言葉を独占できるという権利ではありません。
商標権は、登録商標を「指定商品・役務に対して」「商標として使用する」行為を独占するものです。
まず、商標と指定商品・役務がセットになったものが商標権です。指定されている商品・役務以外のものに使用しても商標権は及びません。今回の場合、「ティーバイティーガレージ」という商標jpt_005682351は、「中古自動車の評価」などの役務に対して登録されています。
したがって、中古自動車の評価というサービスにおいて当該商標を使用すれば商標権侵害となり得ますが、それ以外のサービス(例えば口コミサイトの運営など)には商標権は及びません。
そしてもう一つ、単に商標の文字列を記載する行為のみでは、商標としての使用にはなりません。商標的使用であるためには、出所表示機能や自他商品等識別機能を発揮する態様での使用である必要があります。「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標」には、商標権の効力は及びません。
つまり、「ティーバイティーガレージ」という商標を見て、需要者が、「ああ、この中古車の評価(買い取り)というサービスは、ティーバイティーガレージが提供しているものだな」と誤認するような使用態様があって、商標権侵害ということになります。
感想
改めて今回の使用態様ですが、確かに「ティーバイティーガレージ」という商標の記載はありますが、「 TxTガレージ(ティーバイティーガレージ)の買取に関する評判、クチコミ、基本情報」と書かれているように、あくまでも業者の評判などを記載するページであることは明らかであろうと思います。中古車の評価(買い取り)をするサービスではありません。
また、「ココで売る!」をクリックすると、当該業者のHPへ遷移するようになっています。
これが例えば、中古車の評価・販売をするサービスのWebページに「ティーバイティーガレージ」という商標が記載されており、そこで中古車の販売をすることが出来るのなら、指定商品・役務に対して商標として使用していると言えるのでしょうが、今回の使用態様を商標権侵害とするのはあまりに乱暴なように感じます。
書かれている口コミが事実と異なる名誉毀損なのであれば、それを理由にしっかりと証明して削除を申し立てるべきであり、商標権があるから都合の悪いコメントはそれが事実か否かを確認することなく商標権者が削除させることが出来るとするのは、インターネットにおける表現の自由が強く制限されてしまうのではないかと懸念します。
※ニュースを見ただけで、正確な情報は無いので、想像で書いている部分も多いです。不正確な解説かもしれません。また、もしかしたら口コミ情報とは別に、商標的使用となるよな箇所があったのかもしれません。
※追記(2016/9/30)
報道が不正確だったようですが、削除の理由は商標権侵害と名誉棄損の2本立てだったようです。名誉棄損を理由に個々の口コミの投稿削除を、商標権侵害を理由に商標(社名)をhtmlファイルに埋め込む(記載する)行為の禁止を求めるものだということです。
ですので、商標権侵害を理由に都合の悪い口コミ情報だけ削除させることができるというのは、そもそも事件の誤解でした。それでもなお、口コミサイトに商標(対象となる社名)を埋め込む(記載する)ことが商標権侵害になるのかどうかは、争いが残ると思います。
関連記事
-
-
商標的使用と商標機能論の関係 ~商標権侵害の要件と実体判断~
特許権や意匠権の侵害判断と比して、商標権の侵害判断には理論的な難しさが存在すると …
-
-
GoogleとBMWの「Alphabet」問題 ~商標と商号の違い~
Googleが持ち株会社として「Alphabet」を新設することを発表しました。 …
-
-
画像を含む意匠・画面デザイン意匠の改正のポイント解説
近年、サービスの差別化のためのUIの重要性はますます高まっているように感じます。 …
-
-
色・音など新しいタイプの商標の検索・調査方法(J-Platpat)
4/1から、色彩・音・動きなど新しいタイプの商標出願の受付が始まりました。 出願 …
-
-
画像デザインの保護拡充 意匠審査基準改訂の方向性
画像デザインの保護範囲拡充について、意匠審査基準WGにて議論が進められています。 …
-
-
FC2-ドワンゴ 「ブロマガ」商標権者同士の争い 解説
ドワンゴは9月8日、ブログサービスなどを運営する米FC2が、同社が持つ商標権をド …
-
-
商標的使用(商標法26条1項6号) 法改正後、初の判例(知財高裁平成26年(ネ)10098)
商標法改正後、はじめて「商標的使用」について争われた判決が出ました。商標権の侵害 …
-
-
画像意匠公報検索支援ツール(Graphic Image Park) 使い方と感想
本日から、意匠の画像検索ツールがリリースされています。「画像意匠公報検索支援ツー …
-
-
Googleは商標「Glass」を取得できるのか?
Googleが、Google Glassについて、商標「Glass」を出願してい …
-
-
音商標や色彩商標など新しいタイプの商標の審査基準案
産業構造審議会知的財産分科会商標制度小委員会商標審査基準ワーキンググループにおい …