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【書評】『戦前日本SF映画創世記 ゴジラは何でできているか』高槻真樹著

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【書評】『戦前日本SF映画創世記 ゴジラは何でできているか』高槻真樹著

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 ■独自の進化を遂げた奇想

 今年は『ゴジラ』が誕生して60年を迎え、近々、2度目のハリウッドのリメーク版『GODZILLA』も公開されるが、本書は、この日本が世界に誇る特撮映画のルーツを戦前の日本映画の中に探ろうとする試みである。

 著者は〈SF的想像力〉をキーワードにしてさまざまな文献を渉猟し、その始原は衣笠貞之助の『狂った一頁』と断定する。その論拠として撮影助手に後に『ゴジラ』で一躍名声を得る特撮の神様、円谷英二がいたことを挙げているが、円谷の戦前の仕事を追跡するのは趣旨ではない。

 本書の読みどころは、むしろ今や忘れ去られてしまった弱小プロダクションがつくった低予算のB級娯楽映画のなかに、日本独自の進化を遂げた奇想の系譜を発掘したことにある。たとえば大都映画の日本初のロボットSF『怪電波殺人光線』や、江戸時代を舞台にロボットと侍がチャンバラを繰り広げる極東キネマのロボット時代劇『無敵三剣士』は、そのあまりに稚気溢(あふ)れるチープなスチル写真を眺めるだけで愉(たの)しくなる。

 愛知の大仏が突然、立ち上がり、名古屋の観光地を巡る『大仏廻国・中京篇(へん)』は、日本初のミニチュア着ぐるみ特撮ものとされるが、当時、見た筒井康隆に取材しているのは貴重だ。『キング・コング』の便乗作で、キング・コングの着ぐるみに入った男が街でドタバタを演じる『和製キング・コング』を撮った斎藤寅次郎は『西部戦線異状なし』のパロディーで、すべてがさかさまな世界を描いた『全部精神異常あり』を作っているが、その不条理でナンセンスな笑いには唖然(あぜん)とさせられる。

 一方、名匠木村荘十二(そとじ)が監督した未来予測の時間SFをテーマとする『都会の怪異 七時〇三分』は、都会派モダンホラーの先駆的な作品として高い評価が与えられている。

 本書で俎上(そじょう)に載せられた作品の大半はフィルムが存在しない。だが、著者が舌舐(な)めずりせんばかりの愛着を込めて語っている、これらの幻のSF映画は、無限のセンス・オブ・ワンダーをかきたてずにはおかない魅力に溢れているのだ。(河出書房新社・本体2500円+税)

 評・高崎俊夫(編集者)

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