アイヌ民族情報センター活動日誌

日本キリスト教団北海教区アイヌ民族情報センターの活動日誌
1996年設立 

第16回 国際先住民の日記念事業

2011-08-08 12:02:04 | インポート
さる8月6日に、北海道アイヌ協会主催の2011年国際先住民の日記念事業に参加してきました。
いろいろな刺激を受けてきました。個人的にこころに響いた部分を紹介します。

最初のパネルディスカッションでは、秋辺日出男さん(アイヌ協会国際部会副部長)、萱野志朗さん(萱野茂二風谷アイヌ資料館館長)、結城幸司さん(アイヌ・アート・プロジェクト代表)、上村英明さん(市民外交センター代表・恵泉女学園大学教授)らがパネラーとして発題。

秋辺さんは、以下のことを主張。①アイヌ全体で「象徴空間」に関して話し合い、練っていくことが必要だ。 ②アイヌ民族を追いつめた近現代史を詳しく現し、それにのっとった展示を「象徴空間」で行うよう要望。 ③各大学にあるアイヌ人骨は、まずはいつ、どこで、だれが、どのように集めたかを明らかにするべき。 ④「道外アンケート」に関しては、差別や貧困を避けて東京方面に行ったはずのアイヌが、その先でも貧しさから抜け出られていないこと、調査を断るほど厳しい差別を受けていることを知った。一日も早くアイヌであることを誇れる社会をつくろうと感じた。 ⑤日本(ヤマト)民族自身が「民族」として認識がないために他民族理解が出来ない。ヤマト・沖縄琉球などの民族も平行して「象徴空間」に展示することを要望。

萱野さんは権利具現化へのビジョンとして、①政府と直に折衝するためのアイヌ民族代表機関の設置 ②大学への特別入学優先枠をつくる ③国会への特別議席の設置 を要望。

結城さんは、①メディアの充実をはかる ②謝罪(和解)を求める と主張。 

上村さんは、①「国民理解の促進」に関しては政府の責任として行うべき。実際に人権侵害があるのに「国民の理解の促進」を言っていてはいけないと指摘。②1997年の「アイヌ文化振興法」は不十分だったという確認と、抜本的な改革が必要であると言うべきだ。  (以上、多くの意見・主張からいくつかを取り上げました)

アイヌ協会主催のシンポでこれほどの要望が出されたのですから、是非とも協会内で議論を重ね、熟成させて大きな変革の力となるように祈ります。
残念だったのは、もっとフロアーと意見交換・議論の発展の時間をとってほしかったです。特に具体的に行動へとつなげるための議論は必要だったと思います。


先日の「平和の集い」で食したコーリャン

午後は、上村さんの講演「先住民族の権利具現化に向けたビジョン・政策・行動を考える」がありました。
はじめに、アイヌ政策は順調に進んでいるのかをアイヌ民族の動きと日本の行政の動きを大まかに紹介しながら解説。
1)アイヌ民族の動き
1984年 「アイヌ新法案」の採択→「アイヌ新法」制定運動の開始
1987年 アイヌ民族の代表が、初めて国連の人権機関(先住民作業部会)に参加
1992年 野村義一理事長の国連総会演説
1994年 萱野茂氏が国会議員に当選(~1998年)
1997年 「二風谷ダム」判決
(・2007年:「国連先住民族権利宣言」の採択)

2)日本の行政の動き
1988年 「ウタリ問題懇話会|の報告書
1996年 「ウタリ対策のあり方に関する有識者懇談会」の報告書
1997年 「アイヌ文化振興法」の制定
2009年 「アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会」の報告書
2009年 「アイヌ政策推進会議」の設置
2011年 「アイヌ政策推進会議」の「作業部会」報告書(6月24日)


特に納得したのは、1995年に発足した「ウタリ対策のあり方に関する有識者懇談会」にアイヌ民族が加えられていなかった。その理由は中立・公正な委員会を作るには利害関係者を入れてはいけないという主張であったが、人権問題を扱う際に被差別者が加われないなどありえない、このおかしさをしっかりと反省するべき、と言われていたことです。

次に、この度のアイヌ政策推進会議「作業部会」報告書の評価と課題に触れました。
評価面では「可能性」を含め、①「民族共生の象徴空間」の場所を確定。②「道外アイヌ民族の実態調査」を実施。
課題としては以下の通り。
①なぜ全体会議の報告書が出てこないのか。全体会議が三回しか開催できていない(象徴空間作業部会: 13回、実態調査作業部会:9回)。
②設置要綱は「1.趣旨 アイヌの人々の意見等を踏まえつつ総合的かつ効果的なアイヌ政策を推進する」だが、今回の報告が作業部会だけの報告になっているのは大きな問題だ。2つの課題以外のアイヌ政策はどこに行ったのか。設置されて一年以上経ても分からない。
③なぜ、具体的な政策を方向づけないのか。道外アイヌ民族の実態調査は意味があったことだ。今まで日本政府は「アイヌの人たちの生活向上に関する推進方策」(以前の言い方は「北海道ウタリ福祉対策」)をして民族政策をやっていたと主張して来た。しかし、それは北海道内のみの地方政策であり、民族政策では全くなかった(先のウタリ福祉対策は1974年より始まったが、その時点ではアイヌは先住民族として認められていなかったので地域福祉対策だった)。全国に民族政策を展開するべきだ。今回の実態調査でアイヌ民族の厳しい状況が把握できたのだから、具体的に対策を練り、報告書に書くべきだ。推進方策は文化面だけではなく、教育政策、生活安定や雇用の確保も政策に入っているのだから、アイヌ政策推進会議がもっと真剣に取り組むべきだ。
④「国民理解の促進」ということは「アイヌ文化振興法」にも述べられている。10年を経て未だに同じ言葉を書いているというのは、「アイヌ文化振興法」は失敗したということだ。その反省をしっかりと認識して取り組むべき。「国民理解の促進」は大和民族のための大和民族の政策であって、「アイヌ政策」からは分離されるべき。政府が責任を持って理解の促進を行うべきだ。

今後のビジョン・行動として、
1) 「アイヌ政策推進会議」を有効に利用していく (但し、アイヌ民族としての権利認定と同時進行が必要)。
2)従来の「アイヌ政策推進会議」の改革が必要。「アイヌ民族の権利・調査委員会」(仮称)設置を提案。謝罪の問題が出ているが謝罪には根拠が必要で、その部分をしっかりと政府の責任で調査し、文章化するべきだ(オーストラリアの謝罪も事前の報告書があった)。近現代のアイヌ政策の反省がない。旧土人保護法に関する北海道庁の認識も「同化政策」に関しては誤りではなかったとしたうえで政策の不十分さで悲惨な結果となったと述べている(道庁HP参照)。これは明治以降の政策の反省が出来ていないからだ。
3)政治・政党への働きかけをしていく。「アイヌ民族の権利確立を考える議員の会」や、人権関係の議員との連携が必要。

最後に、新しい運動の形成・再建として以下をあげました。
・アイヌ民族政策を広範囲に考える
→アイヌ民族の新たな(全国)組織化の促進
→財源の確保
→新たな国際連帯、国連機関の利用

上村さんにはいつも教えられます。



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