1903年から1世紀以上続く早慶戦。野球からレガッタ、ラグビーに広がり、今もライバル対決に学生・OBが熱くなる。ビジネス分野でも私立大学の雄として、両校は多くの起業家や実業家を輩出してきた。最近はスタートアップの育成に本腰を入れ、在学中に起業する学生も少なくない。起業しやすい環境を持っているのは早稲田か慶応か――。
《1回戦》起業家教育
【慶応】 慶応義塾大学の日吉キャンパス(横浜市)。秋学期末のテスト終盤の2月3日、3~4年生が教室に集まった。金融とIT(情報技術)を融合させたフィンテックを使った新たなビジネスを提案する授業の最終回で、それぞれの事業プランを披露した。
「人工知能(AI)を使った株取引のサービスを始める。アルゴリズムは自分たちで組んだ」。経済学部3年の陳宇鴻氏(21)が胸を張る。陳氏を中心とした4人のグループがプレゼンしたのはAI株取引サービスの「マネーアート」だ。
AIのディープラーニング(深層学習)を活用し、株式相場を予想する。AI開発を担当するのは経済学部3年の余田大典氏(23)。1年生のころからアルゴリズムで株取引をしていたが、授業がきっかけでメンバーと出会った。近日中に会社登記する計画だ。
授業を担当する経済学部の中妻照雄教授は「2017年10月から始めた授業だが、フィンテックの実践に特化したのは日本で最初だろう」と自信をみせる。教授1人に対し、受講学生は約100人。多くの学生に起業に必要な基礎知識を伝える仕組みが慶応にはある。
【早稲田】 早稲田大学は教授と学生が教室の外でも膝をつき合わせて起業の議論を進める。
「まずは君自身が研究に進む道もあるよ」。ECOLOGGIE(エコロギー、東京・新宿)の葦苅晟矢社長(24)は、起業家育成に取り組む理工学術院の朝日透教授に背中を押された。
当時、文系の商学部4年生だったが、高騰する魚粉に代わりコオロギを水産養殖用の飼料として大量繁殖する事業を立案。ビジネスコンテストの世界大会に日本代表として出場した。
だが結果は初戦敗退。大会で競った米国人学生らの発表はAIやバイオなど先端技術の分野ばかり。「メンバーも理系の学生が目立った。技術に強い仲間が必要だと痛感した」(葦苅氏)
帰国後、朝日教授の勧めで自ら研究の道を目指し、大学院で分子生物学を専攻。昆虫学の専門家や大学院の仲間と組み、17年12月に起業した。葦苅氏は「ビジネスと科学の接点となる経営者になりたい」と意気込む。