Access Accepted第565回:成長を続ける「Twitch」が,2017年を総括するデータを発表
2018年2月初め,ゲーマー向けのストリーミングサービス「Twitch」が2017年を総括するデータを発表した。それによれば,Twitchでは月あたり200万人に達するブロードキャスター達が,年間で約1億2400万ものコンテンツをアップし,1日当たり1500万人の視聴者がそれらを楽しんでいるという。今週は,またたく間に成長を遂げたTwitchと,その周辺について紹介したい。
2017年も大躍進した「Twitch」
2011年にライブストリーミング配信サイトJustin.tv から,「ゲームに特化したサービス」として派生した「Twitch」。
2013年に9億7000万ドル(当時の邦貨で約1000億円)という高額買収で,Amazonの傘下に入ったという話は,2014年9月1日に掲載した本連載の第433回「Amazon.comがTwitchを買収したのはなぜか」でお伝えしたとおりだ。
Twitchは,ホットコンテンツとも呼ばれるゲームのライブ配信に強みがあるが,eスポーツやファンイベントの中継も行い,最近は,「ムクバン」(Mukbang)と呼ばれるソーシャルダイニング(ブロードキャスターが食事をする風景を見せるだけの韓国発祥のコンテンツ)なども登場して,ゲームにとどまらない,多種多様なコンテンツが視聴できるようになってきた。
2017年3月には,「Twitch Presents Power Rangers Marathon」を開催しているが,これは,「パワーレンジャー」(「スーパー戦隊シリーズ」の英語版)を延々と流すだけというイベントだったが,17日間にわたって23シーズン831話を配信し,パワーレンジャーで育ってきた1290万人の視聴者と740万メッセージを集めて成功を収めている。
2018年2月初め,Twitchは2017年を総括するデータ「Twitch 2017 Year in Review」を発表した。それによると,2017年は1か月あたり200万人以上のブロードキャスターが年間で約1億2400万のコンテンツをアップロードし,1日に約1500万人の視聴者がそれらを楽しんだという。
数字的には大手メディアのサイトに比べても遜色ないほどで,実際,2018年1月には,同時接続者数96万2000人という記録を打ち立てたことがリサーチ会社のMacquarie Capitalから発表されている。これは前年同月比で22%の大幅アップとなり,大手メディアであるMSNBCやCNNを超える規模であるという。
注目すべきは,この一年でパートナーシップストリーマーの数が1万ほど伸びて,約2万7000人に達したことだ。Twitchで収入を得るためのパートナシップ契約を結ぶためには,自分がアップロードしたコンテンツの視聴者数を一定期間,決まった数維持しなければならず,この条件をクリアすることは簡単ではない。約15万人いるというアフィリエイトストリーマーはパートナー契約をしない状態で金銭を得ているブロードキャスターだが,バーチャルチップである「Bits」の導入によりコミュニティを作りやすい環境が生まれ,これによってアフィリエイトストリーマーからパートナーシップストリーマーにランクアップしたブロードキャスターが増えたようだ。
ストリーミング配信は従来型のメディアを駆逐するのか
2017年の飛躍は,「PLAYERUNKNOWN’S BATTLEGROUNDS」の成功にもよるものだった。このことについては本連載の第550回「『PLAYERUNKNOWN’S BATTLEGROUNDS』を作った『PlayerUnknown』とは誰なのか」でも説明したとおりだが,パブリッシャのBluehole/PUBG Corp.がTwitchというメディアをうまく活用して潜在的ユーザーにアピールし,多くの興味をかき立てたからこそ,ヒットにつながった。そして,作品の大ヒットの恩恵を今度はTwichが受けたというわけだ。
テレビやラジオ,新聞といったメディアの役割は,不特定多数に情報を伝達することにある。しかし,(スポンサー的な視点に立てば)旧来のメディアでは,例えば若者向けの情報が高齢者に伝えられたり,女性向けの商品を男性に宣伝したりなど,マーケティング上のロスがしばしば議論される。
その点でTwitchは,1日に1500万人という視聴者の(ほとんど)すべてがゲーマーであり,ターゲットがすでに絞り込まれているところが最大の利点だ。ターゲットが明確である分,スポンサーも広告費を投じやすいだろう。
さて,そんなTwitchの成功を大手IT企業が黙って見ているはずがない。2016年10月,新手のストリーミングサービス「Beam」を買収したMicrosoftは,2017年5月にBeamを「Mixer」に改名し,ゲームにフォーカスした新しいサービスを次々に提供し始めている。
例えば配信者の「Minecraft」に視聴者が参加してクリーチャーを召喚したり,火山を噴火させたりといったことが可能になっており,今後は「Sea of Thieves」や,コンシューマ機ではXbox One独占となっている「PLAYERUNKNOWN’S BATTLEGROUNDS」などにも拡張されていく予定だという。
YouTubeを傘下に収めるGoogleは,Twitchに対抗すべくすでに「YouTube Gaming」のサービスを開始しているが,IT情報サイト「The Information」の報道によれば,「ゲームそのものをストリーミングするオンデマンド型のプラットフォームを開発中」であるという。「Yeti」(イエティ)と呼ばれるこのプロジェクトは,ゲームをインターネットを介してプレイできるというもので,記事では,これがGoogleによるゲーム市場に対する本格参入の入口になると続けている。
Twitchの急成長によって,「ゲームプレイを視聴する億単位の人々」という巨大市場の存在が明らかになった。今後,その市場をめぐる争奪戦がさらに熾烈なものになっていくのは間違いないだろう。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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