もうすぐ文庫がでる『誰が音楽をタダにした』を読み終わりました。面白すぎて一日で読んでしまった。
CD全盛期に音楽を聞き始めた音楽マニアとしてはなかなか感慨深くも懐かしく、まがりなりにも作品をリリースしているアーティストとしては考えさせられることも多い本でした。
読了後に「音楽を聴く」という行為とそれをとりまく環境の変遷についてツイートしようとしたら長文になってしまったので、こちらにツイート下書き欄からコピペして改行を入れたものを転記してみます。書きなぐりの駄文なので読みづらいのはご容赦ください。
音楽聞き始めの1990年代末はアンダーグラウンドなアーティストや過去のカルトバンドの情報は断片的にしかなくて、音楽雑誌の隅っこの短いレビューやインタビューで挙げられる名前、レコード屋の広告の短いインフォが貴重な情報源だった。あとサンクスリストに載ってるバンドを片っ端から聴くとかしていた。みんなTシャツ着てるけど音源がデモテープしかないアーティストとかは本当に謎で、当時流行ってたSoulseekで必死に探すけどごく一部の人しか持ってなくて見つからないとかだった。しかも何者かは全くわからない。Necrovoreとかそうだった。Soulseekの次はブログにRapidshareにマニアックな音源が解説付きでアップロードされるようになった。
伝説のタワレコ6Fで再発を試聴して買ったArchimedes Badkarが随分気に入って、そのまわりのProggと呼ばれるスウェーデンのプログレッシブ・ロックの一団の情報なんかはProg not Frogとかのサイトが頼りだった。あとRaider Klanが臆面もなくパクってスタイルが普及したメンフィスのギャングスタ・ラップにも当時どハマリしていて、その辺はBottom of the Mapってサイトがやばかった。
とにかく当時は音楽のアーカイブにまつわる情報が今ほど整理されてなくて、カルトな音楽の宝探し的な楽しみがあった。これがインターネット上でだんだん整理されていく流れになった。先駆けはユーザー参加型でリリース情報など「メタルの百科事典」を作ろうというMetal Archivesだったと思う。これによってスウェーデンのC級デスメタルバンドのサイドプロジェクトが一本だけ出したデモテープの参加メンバーまでわかるようになった。百科事典に乗っているので原理的に未知のバンドはいなくなった。
そしてDiscogsが全ジャンルでそれをやってしまった。ディスクガイドブームも同時期だと思う。もう謎の音楽は存在しない。しかし皆音源が欲しいので、ブラックメタルのカルトバンドの50枚しか出ていないLPが2000ドルでeBayで取引されるとか、レコードの値段が高騰した。そして再発版が出まくった。シャツやパッチがついた豪華なボックスセットを予約販売するという商法も現れた。デスメタルマニアの僕でもわざわざ聞きもしないような地味なバンドがカルトバンドとして再発されるなど。
個人的にはこの頃になるとあらかた自分の専門分野は聴き尽くしてしまい、好きなジャンルの重箱の隅的なアーティストを確認のために聴くより、まだ聴いてないジャンルの名盤を次々と聴くほうが楽しくなってきた。
そして今やほぼ全てがYoutubeにあり、聞く価値のある名作の9割くらいがストリーミングサービスにある。スマートフォンで常に繋がった状態で注意力は断片化したうえ曲の切り替えも簡単になり、フルアルバムを聴くことも少なくなった。という音楽を聴くことをとりまく環境の変化を誰かちゃんとまとめてくれ。ある種の情報流通革命が起こったので、面白いと思う。あと音楽を作ること、音楽を流通させることについても同様に面白いはず。