奨学金は国や自治体、民間企業のほか、大学なども手掛ける 大学受験シーズンのこの時期、子どもの教育資金について考える人も多いだろう。なかでも家計への負担が大きいのが大学など高等教育にかかるお金だ。早めの準備が肝心だが、国などの奨学金に頼る家庭も少なくない。教育資金をどう工面すればよいのか。
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「スカラシップ・アドバイザー」の講義では奨学金の概要などをまとめた資料を使って説明する 「皆さんが進学するにはお金がかかる。自分や保護者の預貯金も考えられるが、それだけで進学するのはなかなか難しい。奨学金を活用することでそのお金を賄うという方法もある」。国が新たに設けた「スカラシップ・アドバイザー」は全国の高校に出向いて子どもたちにこんなふうに話しかける。アドバイザーを務めるのは研修を受けたファイナンシャルプランナー(FP)。奨学金や進学・卒業後の資金計画を説明し、適切な利用につなげる。
■年間の利用者131万人に
今や大学生の2人に1人が利用するという奨学金。親世代では「日本育英会」を思い浮かべる人も多いだろう。同会が運営していた国の奨学金は「日本学生支援機構(JASSO)」に引き継がれた。現在では年間の利用者が131万人、金額は1兆円を超える。この仕組みが2017年度に大きく変わった。利用しやすくなったといわれるが、複雑さも増した。
奨学金には、返済が必要な「貸与型」と返さなくてよい「給付型」がある。国の制度は以前は貸与型だけだったが、新たに給付型が加わった。18年度の新規採用は2万人。金額は進学先と通学形態の組み合わせで異なり、国公立大・自宅通学は月2万円、私立大・自宅外通学で同4万円となっている。
給付型は始まったが、住民税非課税など低所得世帯が対象で金額も十分といえない。多くの人が利用するのはやはり貸与型だろう。家計基準など利用のハードルも給付型に比べて低い。
貸与型もあわせて見直された。無利子の「第1種」と有利子の「第2種」があるが、大きく変わったのは第1種だ。1学年の貸与人数は4.4万人増の15.1万人(大学院除く)に拡大、文部科学省では「予算の制約がなくなり、基準を満たす希望者は全員利用できるようになった」としている。
金額のパターンも増えた。進学先などで異なるが、従来の2種類に1~3種加えた。例えば、国公立大・自宅通学は月2万、3万、4.5万円から、私立大・自宅外通学は同2万、3万、4万、5万、6.4万円の中から選ぶ。ただし、それぞれの最高月額については家計基準が厳しくなり、世帯収入によっては利用できない場合もある。
卒業後の返済は毎月決まった額を返す「定額返還」だけだったが、収入に応じて返す額が変わる「所得連動返還」も導入した。総額は変わらないので返す額を減らせば期間は延びる。
一方、有利子の第2種は貸与月額の選択肢が増える予定だ。これまで3万、5万、8万、10万、12万円の中から選んだが、4月から2万~12万円の間で1万円刻みの金額を選べるようになる。
貸与型で重要なのは「必要に応じて必要な金額を利用する」(JASSO)ことだ。安易に借りれば卒業後返すのに苦労する。延滞金額は一時期より減ったものの866億円に上り、3カ月以上延滞者も16.1万人いる(16年度)。無理のない返還計画をシミュレーションするなどよく考える必要がある。FPの新美昌也氏は「就きたい職業があれば給料を調べて、返済の見通しを立ててから借りたい」と話す。
■大学も独自に給付型など充実
国の奨学金以外にも地方自治体や民間企業などで独自に制度を運営する法人や団体は多い。なかでも充実が著しいのが各大学の奨学金だ。「近年のトレンドは『予約型』などと呼ばれる給付型の新たなタイプ」と説明するのは、セミナーや相談を多数手がける「奨学金アドバイザー」の久米忠史氏。以前は入学後に申請するものが多かったが、予約型は受験前に申請し採用が決まるものが多いので安心して試験を受けることができる。
予約型で先行したのが早稲田大学の「めざせ!都の西北奨学金」。首都圏以外の学生向けに09年度に始めた。17年度に半期分の授業料相当額を免除する方式に変えた。慶応義塾大学も12年度に首都圏以外の学生を対象に「学問のすゝめ奨学金」を設けた。「申請条件である所得の上限が他の大学より高く、幅広い層が申し込める」のが特徴だ。立教大学は首都圏の学生を対象にした「セントポール奨学金」(採用が分かるのは合格発表時期)を始めた。
各大学は予約型以外にも奨学金を多数そろえる。「110種類以上あり、すべてが給付型。奨学金の基金規模も240億円と国内最大規模」(慶大)、「給付型は約150種類」(早大)などだ。私立大だけではない。「国公立大は授業料の免除や減額が多かったが、最近では給付型を設けるところも増えている」と久米氏は話す。
企業財団が手がける奨学金もある。在学の高校や進学する大学を指定し条件を満たした学生に手厚い支給をする事例が目立つ。電通育英会の今年度の採用予定は75人。月額6万円のほか、入学一時金30万円を給付する。ジェイティ奨学財団は最大50人に学校納付金相当額(入学金30万円、授業料54万円)のほか、自宅生には月額5万円、自宅外生は同10万円などを給付する。
奨学金の主役は19年度の入学予定者に移る。まずは各種条件や申請期限などの情報収集が欠かせない(国の奨学金の第1回は学校を通じて7月中旬までに申し込む)。そのうえで自分に見合った奨学金や資金の計画を立てる必要がある。
■大学は最低500万円 強制積み立て有効
「子どもの教育費は1人1000万円以上」などとよくいわれる。文部科学省などの調査からもうかがえ、幼稚園から大学までずっと国公立という「親孝行」なパターンでも約1040万円、全部私立なら2000万円を大きく超える。とりわけ大きいのが大学の資金だ。今や大学など高等教育機関への進学率は80%を超える。進学がほぼ当たり前になっているだけに、あらかじめ必要なお金について知っておきたい。
ひとくちに大学の教育資金といっても進学先で大きく変わる。私立の医歯系学部は最も高く、初年度納付金(授業料・入学料・施設設備費)の平均も約480万円と飛び抜けている。その他学部も芸術だと160万円超と高めだ(文科省調査、2016年度)。
4年間の合計はどうだろう。日本政策金融公庫の調査をもとにすれば、国公立が約500万円、私立・文科系は約700万円、私立・理科系は800万円以上。少なくとも500万円は用意しておく必要があるわけだ。医学部なら期間は6年、私立だと2000万~5000万円かかるとの指摘もある。
こうした多額の資金をどうやって準備すればよいか。大学の教育資金は子どもが18歳前後からと必要な時期がほぼ決まっているので、そのタイミングに向けて早くからコツコツためるのが基本。まずは「生活費などの口座とは切り離して強制的に積み立てる金融商品を考えたい」(FPの新美氏)。
■学資保険など駆使
代表的なのが自動積み立ての定期預金だ。給料の一部をあらかじめ振り分けるよう設定しておくのもよい。金利面でのメリットは少ないが、手堅く準備することができる。勤め先に財形貯蓄があれば利用するのも手だ。
ただ、これまで積み立ての有力な原資となっていた児童手当については、見直しの機運が高まっている。現在の仕組みなら所得にもよるが、子どもが15歳になるまで受取額は合計で200万円前後になる。支給の絞り込みが議論されており、今後は金額が減る家庭もありそうだ。
教育資金づくりの「王道」といわれる学資保険(子ども保険)はどうだろうか。毎月決まった保険料を積み立てて進学時などのタイミングで祝い金や保険金を受け取る。低金利で一時期に比べて返戻率(受取総額を支払総額で割った数値)は下がったが、着実にためられる商品として有効だ。心理的にも解約しづらい。「保険期間を10年払いなど短くすれば返戻率は上がり、払い方も年払いにすれば保険料を節約できる」とFPの畠中雅子氏は指摘する。
■NISA活用も手
こうした確実に増やせる商品とあわせて考えたいのが、投資信託や株式などによる運用だ。運用益が非課税になる少額投資非課税制度(NISA)を利用するのが有利だ。子どもが小さい頃に始めるなら、今年始まったつみたてNISAが候補になる。
年間の限度額は40万円と少ないが、非課税で運用できる期間が20年と長く、トータルの投資額は800万円になる。「じっくり増やすスタンスから、選べる商品も長期投資に向いた投信などに限定されている」(FPの竹下さくら氏)
子どもが中学生ぐらいになっており、長い期間がとれないなら、通常のNISAやジュニアNISAか。非課税期間は5年と短いが、株式や不動産投資信託(REIT)にも投資できる。NISAとジュニアNISAは23年までの期間限定なので、始めるなら早い方がよさそうだ。ただし、運用は相場環境などによって目標金額に届かない場合があることを知っておきたい。
祖父母から支援してもらうのも一案だ。信託銀行などが扱う「教育資金贈与信託」が代表だ。通常は年間の贈与額が110万円を超えると贈与税がかかるが、この制度を使えば1500万円まで非課税で教育費の援助を受けることができる。13年度に始まり、累計の契約は18万件、信託した金額は1兆3000億円を超えた。来年3月末までに信託されたものが対象なので注意したい。
以上が教育資金づくりの代表的な手段だ。こうした商品や制度を利用しても十分に準備できなければ、国や自治体、民間企業などの奨学金などを考えることになる。
■早めスタートが肝心、運用もプラス
ファイナンシャルプランナー 竹下さくら氏
教育資金づくりのコツはできるだけ早く始めることです。学資保険も子どもが生まれる前に加入できます。契約者の年齢が若ければ保険料は安くなり、子どもが成長して支出が増える前に払い終えることができます。
私は預貯金や保険に加えて、プラスアルファで運用を盛り込むことを勧めています。今や理学部や工学部は半分は大学院に進み、留学の義務付けなど進学後に必要なお金も増えています。今年スタートした「つみたてNISA」は教育資金の準備に適しています。
お金が足りなければ、奨学金を利用すればよいと考える人がいます。ただ、奨学金で対応することができない「落とし穴」もあります。例えば、日本学生支援機構の奨学金は採用が決まっても、実際に受け取り始めるのは入学後です。そのため、原則として入学金や前期の授業料などに充てることはできません。また、最近は推薦で入学が決まるケースも増えています。高校3年の夏ぐらいに決まり、比較的すぐに入学金などを払わなければなりません。
願書の取り寄せや提出に関する費用に加えて、受験料もかさみます。親世代が受験したころと違って、今はひとつの学部を複数回受けられるところも増えてきています。現役志向も強く、滑り止めを含めていくつもの大学を受けるのが一般的です。最低でも20万~30万円はかかります。必要資金としてあらかじめ用意しておく必要があるでしょう。
こうした費用を十分に準備できない場合、選択肢のひとつに教育ローンがあります。いつでも利用可能で一時金で受け取れるのがメリットです。なかでも日本政策金融公庫の「国の教育ローン」は金利が低く、民間のローンに比べて有利です。ただ入学シーズンは混み合っているので、融資決定から資金受け取りまで時間がかかる場合があります。やはり早めの対応が基本になります。
[日経ヴェリタス2018年2月18日付]
(マネー報道部 土井誠司)
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