1. トップ
  2. コラム
  3. コラム詳細

LS北見の銅メダルは金に匹敵する価値
敦賀信人氏がカーリング女子を解説

構成:スポーツナビ
3位決定戦で英国に競り勝ち、史上初の銅メダルに輝いたLS北見
3位決定戦で英国に競り勝ち、史上初の銅メダルに輝いたLS北見【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 平昌五輪のカーリング女子は24日、3位決定戦で日本女子代表のLS北見が英国に5−3で勝利。史上初の銅メダルを獲得した。


 5勝4敗の4位で初めて予選を通過した日本は、準決勝で地元・韓国と対戦。終盤までリードされる苦しい展開となったが、土壇場の第10エンドで同点に追いつき延長戦へ持ち込む。しかし延長戦で韓国に1点を奪われて7−8で惜敗し、3位決定戦へと回った。迎えた英国との3位決定戦では、終盤まで1点を追いかける我慢の展開が続いたが、日本は最後まで大きく崩れない安定したショットを連発。英国にプレッシャーをかけると、最後は英国のミスショットで連続スチールに成功し、日本カーリング史上初のメダル獲得を決めた。


 今大会の日本女子代表の戦いについて、1998年長野五輪でスキップを務め、今回はカーリング男子の放送解説を務めた敦賀信人さんに話を聞いた。

第9エンドでセオリーが変わった英国戦

英国戦では、9エンド目にセオリーが変わったと敦賀氏は分析
英国戦では、9エンド目にセオリーが変わったと敦賀氏は分析【写真:ロイター/アフロ】

――初の銅メダルという結果に終わりましたが、まずこの結果については?


 素直にうれしいですし、日本のカーリング界の新たな1ページを開いてくれたなと思います。


――試合後の選手たちの笑顔と涙は素晴らしかったですね。


 昨日の準決勝、今日の3位決定戦と、試合前からいい緊張感で試合に入っていたと思います。銅メダルを取った時は、信じられない気持ちとうれしい気持ちが入り交じったような表情をしていました。


――英国戦は、我慢比べのような試合展開になりました。


 お互いになかなか複数点を取れない展開でした。日本は(複数点を)取れるチャンスが第4エンドと第8エンドにあったのですが、モノにできませんでした。第4エンドは狭いところでしたがチャンスがありましたし、第8エンドは2つロールインのチャンスがあったのですがモノにできず、流れが向こうにいきそうな苦しい展開でした。


 最終エンドでは相手に逆転の可能性もありましたが、最後に投げさせることができたのと、難しいショットだったのでプレッシャーを掛けることができたのが大きかったと思います。


――プレッシャーをかけることができた要因は?


(藤沢の)最終ショットの前に英国がナンバー1を持っていたので、最後置きにいくショットで英国が2点目を取ったらそれでおしまいでした。しかしその置きにいくショットのコースを狭くすることができました。延長戦にいくと(後攻の)日本がラストストーンを持っているので、英国は逆転を狙ってきたショットでしたが、簡単ではなかったです。藤沢(五月)選手の(最終)ショットはもう少し中心に持っていきたかったですが、最後、真ん中付近は氷の状態も一番変化していますし、そこに投げさせることができたというのがよかったのだと思います。


――序盤はハウスの中にストーンが少ない状況が続いていましたが、これは狙い通りの展開だったのでしょうか?


 やはりお互いに慎重に試合に入っていたと思います。攻めたいけれど大事な3位決定戦ということもあり、絶対に勝ちたいというプレッシャーというか、いつもの試合や予選でしたらリスクを背負っても攻められるのですが、あえて無理せずにチャンスを待とうというお互いの意図が見えました。


 ミスはそれほどお互いになかったのですが、ストーンがたまる展開ではなかったので、ガードストーンの後ろに回り込んだチームにチャンスがあったと思います。その中で、お互いにガードの後ろをなかなか取れなかったですし、取っても前のガードで飛ばすことがお互いにできていました。


 唯一、日本がチャンスとなったのは9エンド目だったと思います。日本がガードストーンの裏を取り、英国は(最終投で)ガードストーンで日本のストーンを飛ばすことができませんでした。あそこで英国が日本のストーンを飛ばすことができていれば、同点のまま日本は10エンドで不利な先攻となり苦しかったと思います。ここは試合のセオリーが変わった瞬間でした。


 あとは、その一つ前のショットで(スキップの)イブ・ミュアヘッド選手がそれまでは決めることができていたランバック(手前にあるストーンをヒットして奥に持っていき、ハウス内のストーンに当てるショット)が少しずれました。彼女自身もこれだけの大会で試合をこなしてきているのに、プレッシャーを感じていたということだと思います。

LS北見らしい「笑顔」がもたらした影響

――準決勝の韓国戦の序盤では、セカンドの鈴木夕湖選手のミスショットが目立ちましたが、韓国戦の終盤から英国戦へと尻上がりに調子が上がってきましたね。


 そこまでは鈴木選手もいい調子でできていましたが、プレーオフに残ったという意味で、いつも緊張しなかったのがメダルもかかってきて若干違う緊張感が生まれたのだと思います。韓国戦に関しては鈴木選手が一番悔しかったと思います。彼女の復調は英国戦には必ず必要でしたし、実際に非常にいい仕事を見せていました。前の2人でしっかりと形を作って吉田知那美選手につなぐことができたのが、最後まで我慢強く戦うことができた要因だと思いますし、結果的に勝利につながったと思います。


――韓国戦での敗戦があったからこそ、3位決定戦での勝利があったということでしょうか?


 そうですね。韓国戦の出だしで3点を取られ、その3点が最後まで重くのしかかっていました。しかし日本は最後(調子が)上ってきていましたし、韓国に対して精神的にも追い込んで、最終的には日本の戦い方をしていました。最後、相手に完璧なショットを決められて負けましたが、自分たちでミスをして負けたわけではなく、やるべきことをやって負けたというのは英国戦につながっていたと思います。


――韓国戦の第1エンドに3失点が生まれてしまった要因は何だったのでしょうか?


 第1エンドの日本は調子も悪かったですし、その中で韓国がリスクを背負いながらしっかり決めてきた結果だと思います。日本も先攻ながらストーンをハウスに入れていき、初めからプレッシャーをかけていました。日本も悪くなかったのですが、相手のストーンがいいところにことごとく残っていました。相手のストーンを出すのは簡単ですが、残り方が韓国にとってよくなり、流れが韓国にいっていたと思います。


――韓国戦後には「もう少しできるかなと思う」という選手たちのコメントもありました。五輪で勝つ難しさを感じた試合だったと思いますが、どういった部分を十分に出し切ることができなかったのでしょうか?


 コンシードではなかったですし、本当に少しの差だったと思います。どこかのエンドで流れが変わっていれば結果も変わったかもしれませんし、後半にあれだけの集中力と強さを見せることができたということは、それだけの力が日本にはあったということです。


 選手の調子が良い、悪いはあると思いますが、いかにそのエンドでミスした選手をカバーすることができるかが重要です。ミスをした選手を我慢強くカバーすることで後半に調子が上がっていきますし、逆に調子が出ない中でリスクを背負って無理に攻めて、どんどん調子を落としていくということもあると思います。そういう意味でのショットの選択という点では、藤沢選手は一番分かっていると思います。


――LS北見らしい笑顔のプレーが、韓国戦終盤での復調につながったということですか?


 それが彼女たちのいい部分だと思います。調子の良いショットが決まったときに笑顔を見せるのと、調子が悪いショットのときに場を和らげる笑顔。世界で戦っていても、「なんでそんなにミスしているのに笑顔でいるの?」って思うチームもあったと思います。でもそれをやることで彼女たちのペースで試合ができますから、笑顔が彼女たちのバロメーターになっていると思います。本当に笑顔が見えるときは思い切ってやれていると思いますし、頭の切り替えや表情の切り替えのバランスに長けていると思います。普段の練習以外の場所でもコミュニケーションが取れている結果だと思います。

日本と世界との距離感

LS北見の笑顔とコミュニケーションが結果へとつながった
LS北見の笑顔とコミュニケーションが結果へとつながった【写真:ロイター/アフロ】

――リンドコーチも選手たちに「ステイポジティブ」と常に声をかけていたようですが、笑顔でのプレーが一番影響した試合はどれだと感じましたか?


 初戦の米国戦(10−5で勝利)の入りですね。今までの五輪では、男女ともに日本は初戦で苦労をしてきました。初戦で(予選通過を)争うような米国に勝つことができたのは大きかった。そして第3戦で今までパシフィックアジアで勝つことができていなかった韓国に土をつけることができました(7−5で勝利)。そして、スウェーデンには負け試合に等しい試合を最後まで我慢強く戦うことができて勝てた(5−4で勝利)。この3試合は選手もすごく前向きに考えていたと思います。


 変に五輪という舞台だとか、絶対に勝たないとだめだとか、そこまでは彼女たちの中になかったと思います。特にリードとセカンドは「いつも通りただ淡々とやるだけです」という感じだったと思います。


 前半の5試合は4勝1敗でいいスタートが切れたと思いますし、あまりにも順調すぎて、私もそこまで結果が出るとは思っていませんでした。ただ、残りの試合が1勝3敗でした。やはりそこで世界との壁にぶち当たって、五輪で勝つことの難しさを味わった4戦だったと思いますが、前半の貯金が後半に生きてきましたし、前半で調子の出なかったチームが予選落ちとなった。1戦目、2戦目できちんと波にのることができたのが日本の良かった点だったと思います。


――予選は5勝4敗の4位と勝ち越し。韓国には準決勝では僅差で敗れたものの予選では勝利を収め、英国戦も粘り勝ち。LS北見は世界で十分に通用するレベルだったように見えましたが、世界との距離という点ではいかがでしょうか?


 勝つチームというのは、実力に加えて運も持っていると思います。タイミングよく強いチームとの対戦をモノにすることができました。もちろん彼女たちには技術も実力もありますし、スウェーデン戦のような運もあったと思います。それを大会で出せるかどうかは、普段の筋力トレーニングや氷上トレーニングに本当に一生懸命に取り組んでいるかどうかだと思います。彼女たちは今大会のどのチームよりも練習をしていると思いますし、その努力が結果に結びついていると思います。


 彼女たちだけでなく、コーチや企業のスポンサーさんも含めてだと思います。今までのカーリングは企業チームが主流だったのが、クラブチームとして活動していろいろな企業に愛されていろいろな方に愛されているチームだなと感じます。


――逆に日本が通用しなかった部分はどこにありましたか?


 世界での経験のなさだと思います。攻めるだけでは勝てない。相手に取らせるだとか、守るだとかのバランスも必要ですが、まだまだ若いので経験が少ないです。波もありますしまだまだ不安定ですが、これから世界大会をどんどん経験することで波もなくなりますし、僅差の試合も数多くこなしてそこで勝ち越せるかというのが大事になってくると思います。

4年後の北京に向けて

――日本では日に日にカーリングの注目度が上がっていきましたが、選手たちはどのように感じていたのでしょうか? プレッシャーなどもあったのでしょうか?


 やはり(予選リーグ最終戦の)スイス戦で調子を崩してきて、何か悩んでいるなと思いました。選手には会ったり声をかけたりはあまりしないのですが、吉田知那美選手と藤沢選手には、「あまり何も考えずに、これだけの舞台で戦えることが幸せなんだから思い切ってやりなさい」というメッセージは送りました。


 スタンプで返事が返ってきたりしていましたが、それだけで彼女たちには伝わっていると思います。自分も今までずっと見てきていますし、一番辛いときというのは分かっているので、自分なりにできることはしようと思い連絡は入れました。


――日本ではハーフタイムの「おやつタイム」や方言などにも注目が集まりました。敦賀さんはこういった形でカーリングに注目が集まる状況をどのように見られていましたか?


 どの競技よりも試合時間が長いですし、選手たちにはマイクがついているので、ハーフタイムも含めて他の競技よりも見られる時間や露出度が高いと思います。選手の声が聞けるというのは他の競技にないことですが、選手の方言やハーフタイムの行動だけで競技を評価されるのは正直困るなと思っていました。ただ、それと一緒に今回の結果が出たことは本当に大きかったと思います。


 それだけで騒がれる競技だったら今後伸びないなと思いましたが、技術もしっかりとしていて銅メダルという結果がついてきました。彼女たちはキャラクター的にも他の競技にはない良いキャラがあり、話題性もあって、結果もついてきました。競技の普及という面では、もちろん他の競技で銀メダルや金メダルを取った選手もすごいとは思いますが、彼女たちにはそれに匹敵するような価値があると感じています。


――次は4年後の北京五輪を目指すことになります。4年後に向けて日本が強化を進めていくために必要なことはなんでしょうか?


 今回は女子が世界で通用する技術や力があると示してくれました。今後は、国内のチームがLS北見に勝つことによって、五輪に出られるかどうかという目安になると思います。国内で切磋琢磨(せっさたくま)をして、世界にどんどん彼女たちに続くようなチームが出てきてくれれば、五輪出場だけでなくメダルも続いていくのではないかなと思います。


(取材・文:澤田和輝/スポーツナビ)

【関連リンク】

構成:スポーツナビ

スポーツナビアプリ 無料ダウンロード

iOS
Apple Storeからダウンロード
QRコード
Android
GooglePlayで手に入れよう
QRコード
対応OS
iOS 9.0以上
Android 4.0.3以上
  • アプリケーションはiPhoneとiPod touch、またはAndroidでご利用いただけます。
  • Apple、Appleのロゴ、App Store、iPodのロゴ、iTunesは、米国および他国のApple Inc.の登録商標です。
  • iPhone、iPod touchはApple Inc.の商標です。
  • iPhone商標は、アイホン株式会社のライセンスに基づき使用されています。
  • Android、Androidロゴ、Google Play、Google Playロゴは、Google Inc.の商標または登録商標です。