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現役の中国人アニメーター5人に聞く、日本アニメへの思いとは?
日本アニメへの“愛情”を隠さない中国人アニメーターたち
実際、アニメを学ぶためフランス留学の経験を持つ中国人アニメーター・E氏は「松本零士、永井豪作品全般と、ロボットアニメから影響を受けました。小さい頃は『美少女戦士セーラームーン』などの少女漫画原作アニメ、それから富野由悠季監督の『機動戦士ガンダム』などが好きでした」と回答。日米含め海外原画経験20年以上の大ベテランA氏は「『サムライチャンプルー』『カウボーイビバップ』『ストレンヂア 無皇刃譚』や、今敏氏や沖浦啓之氏の作品に強い影響を受けた」と答えている。日本アニメのエフェクト作画を担当する若手のD氏は「伝統を破ることが好きで、新しい技術を使って意外性のあるものを作る新海誠監督を尊敬しています」と答えるなど、それぞれが日本アニメに対して深い造詣を持っていることが伺える。
日本アニメをどう思うか?という問いに対して、若手アニメーターの中で抜群の腕を持つ理論派のB氏は、「中国のアニメ業界は、京都アニメーションのほとんどの作品をリスペクトしている…」とし、その状況に対し忸怩たる思いもあるようだ。一方、中国国内のトップクラスの原画能力を持ち、自ら監督・演出も手掛けるC氏は「現代の浮世絵として、人類の視覚における表現力を広めてくれた意味では、将来的にメジャーな文化として評価されるべき」と絶賛する。
D氏も「我々に欠けているものがいっぱいあり、日本に追いつくにはまだ時間がかかる」と率直な気持ちを答えてくれた。さらにE氏は「小さい頃から親しんだ日本アニメはすでに自分の一部。客観的な評論は下せない」と語るなど、中国人アニメーターたちのバックボーンに“日本アニメ”が刻まれている状況が見えてくる。
日本のネットユーザーからは、中国アニメは「パクリアニメ」などと揶揄されることもあるが、中国アニメの急速な発展と成長は、中国人アニメーターたちの、日本アニメの良いところを学び、吸収しようとする真摯な取り組みによるところも大きいだろう
日本で学んだ中国人アニメーターは帰国すれば“即エース”に
さらに、日本のようにアニメ制作の管理能力や、緻密なワークフローを構築できる人材がまだ中国には少なく、「技術、管理能力の両面でまだ日本に及ばない」とU氏は憂慮する。D氏も、「チームの意識作り、物事に対する判断、全体を見通す認識、作品の価値観など絵以外の『見えないところ』は、今の中国アニメ業界に足りない」と語り、E氏は「中国のアニメ業界ではカメラやレイアウトの持つ意味については全般的に認識が乏しく、早急に対策を講じなければいけない」と問題提起する。
日本における若手アニメーターのワーキングプア化、中国の人材不足など互いの問題点を俯瞰で見た時、日中間で敵対視するのではなく“協力していく道”もあるはずだ。その点についてU氏に聞くと、「実力のある日本人プロデューサーを中国アニメ会社は求めている」と実情を明かす。
なぜかと言えば、中国の資本者はお金は持っているものの、日本のアニメ産業のことや、どうやったらアニメが成功するかというノウハウを全く知らないからだ。そのため、資金があっても「今やっていることが果たして効率のよいやり方なのかどうか分からない」段階なのだそう。
U氏は「日本で人材確保ができ、かつ日本側の要望を聞けて、日中のスタッフの意思疎通が図れる。それらを全面的にやってくれるプロデューサーが求められています。いま中国はITバブルですから、当然、そういう人材に高い給料も出せると思う」と赤裸々に語る。
アニメーターの教育はもちろんのこと、「今後、日中のアニメ会社が協力して作品を作る際は“報連相”が大事になります。それはすなわち、日本と中国の言葉を両方分かることが重要」だとU氏。言葉が分かれば相手に対して親身になれるし、問題解決もスムーズになる。ライバルでもあると同時に、よきパートナーともなりうる中国アニメ業界と向き合うには、“中国語を話せる有能なプロデューサー”を日本がいかに育てられるか。この点は日本のアニメ業界にとって大きな課題となりそうだ。
世界に誇る日本アニメの“クリエイティブ力” 海外に発信するためのキーマンとは?
今後、日本アニメを世界へ発信しようとした時、世界屈指のアニメ市場となるであろう“中国”との連携は必須。そこで大事なことは、C氏が「まずやるべきことは、日本人の中国に対する誤解と、中国人の日本に対する迷信を打ち破ることだと思います」と回答していることだ。
言語や文化の違いはもちろん、国家間の問題など複雑な事情が入り混じる日中アニメ業界。まずは中国語を話せる優秀な日本人プロデューサーを育てることが、C氏が懸念する“中国に対する誤解”や“日本に対する迷信”を打ち解くひとつのカギになる。ひいては、日本が誇る“クリエイティブ力”を世界へ発信するためのキーマンとなるはずだ。
(アンケート翻訳・林子傑)