2018-02-24 労働時間等総合実態調査 (2013) 再分析
裁量労働制と長時間労働
厚生労働省「労働時間等総合実態調査」(2013) について、さまざまな疑念が指摘されているところである。しかし一方で、この調査は全国から抽出された1万以上の数の事業場で労働基準監督署の監督官が賃金台帳などの根拠資料を参照して記録をとったという、貴重なものである。単なる平均値や産業別のクロス表などだけをみて特定の政策にお墨付きをあたえるというような使いかたで終わらせるのはもったいない。そこで、目下の議論の焦点である裁量労働制と長時間労働の関係について分析を試みた。
データ
使用したデータは、「働き方改革虚偽データ疑惑」野党6党合同ヒアリング第4回 において厚生労働省から提示された、「労働時間等総合実態調査」(2013) の素データの一部である。全ケース (11,575事業場) がふくまれているが、変数はつぎのものだけである:
- 業種 (大分類、中分類、小分類の3変数)
- 事業場規模 (人)
- 企業規模 (人)
- 規模分類 (「大企業」「中小企業」の2カテゴリ)
- 事業場の属性 (「単独事業場」「本社・本店」「支社・支店」の3カテゴリ)
- 労働組合の有無 (「過半数労働組合がある」「過半数ではないが労働組合がある」「ない」の3カテゴリ)
- 一般労働者の法定時間外労働 (「最長の者」「平均的な者」それぞれ「日」「週」「月」「年」のあわせて8種類、時間と分)
- 裁量労働制の1日の「労働時間の状況」 (専門業務型・企画業務型それぞれ「最長の者」「平均的な者」のあわせて4種類、時間と分)
最後の2項目 (法定時間外労働と「労働時間の状況」) はそれぞれ「時間」「分」が記録されている。これらをつぎの手続きで分単位に変換した。
- 「時間」に数値が入っていて「分」が空欄の場合は「分」にゼロを代入
- 「分」に数値が入っていて「時間」が空欄の場合は「時間」にゼロを代入
-
「分」「時間」に60をかけて「時間」「分」を足す
なお、専門業務型裁量労働制の「平均的な者」の「労働時間の状況」が「0時間0分」となっている事業場がひとつあったが、これは欠損値とした。以上の手続きで、公表されている平均値等が再現できるので、このデータセットを使用することにした (http://tsigeto.info/mhlwdata/ で公開している: 2018-02-21付)。
データの質
この調査の 調査票、調査要領、コード表などは公開されていない。公式の資料は2013年10月30日の 第104回労働政策審議会労働条件分科会 の配布資料 2-1 だけであり、あとは最近の新聞報道や国会質疑などで断片的に情報が出てきているだけである。資料に掲載されている表などの数値は、母集団に復元するためのウェイト付けをおこなったもののようだが、そのウェイトの計算方法も公表されていない (今回使用した素データにもふくまれていない)。
2018年2月20日以降、データに関する矛盾や不自然な点が各種報道されており、データの信頼性に関する判断は現段階ではむずかしい。以下の分析結果も、そのような前提のもとで読んでいただきたい。
裁量労働制導入事業場の数
この調査では、裁量労働制導入事業場をオーバーサンプリングしている。第105回労働政策審議会労働条件部会では、そのことを示す資料2-1 が提出されている。議事録によれば説明はつぎのとおり。
最後に、14ページでございます。調査それ自体の信頼性に関しまして御指摘がございました。これは、最初に申しましたように、ほとんどの調査項目に関しては、事業所サンサスを使って産業構造等が現実のものと平仄をとったものになるように復元しているわけでございますが、裁量労働制に関しましては、導入事業場数が僅少であるということもあって、管内の導入事業場を優先的に選定して実数調査し、その結果をそのまま掲出していることに関する御意見でございました。
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000038159.html
下の参考2にもございますように、そもそも専門業務型裁量労働制を導入している企業は、そういった業務があるという中ですので、全体の2.3%、企画業務型の裁量労働制が0.7%ということです。そうした中で、専門業務型裁量に関する協定届出が7,805件、企画業務型裁量に関する労使委員会の決議届が2,295件ということでして、それに対して調査事業場数がどのようになっているかが一番上の数字です。
具体的には、専門業務型裁量労働制は1,016事業場、届出事業場数の約13%を網羅している。また、企画業務型裁量労働制について決議届が2,295件出ているうちで、756事業場に関しまして、今回の調査で臨検調査している。届出事業場の約33%であるということで、実施している事業場の相当のところを調べた上でのデータであるということは、御理解いただければありがたいと思いますし、この点を出発点として議論を深めていただければありがたいと考えております。
-----
第105回労働政策審議会労働条件部会 (2013-11-18) 議事録。村山労働条件政策課長による資料説明。
労働時間等総合実態調査は、専門業務型裁量労働制を導入している事業場を1016、企画業務型を導入している事業場を756調査したはずなのだが、これらが今回のデータでどの事業場に相当するのかは完全には復元できない。裁量労働制に関する変数は「労働時間の状況」だけしかないからである。この変数が有効な値を持つのは専門業務型については920事業場、企画業務型については738事業場なので、前者については96事業場、後者については18事業場で、「労働時間の状況」の数値が調べられていないことがわかる (しかしこれらが具体的にどの事業場かはわからない)。
仕方がないので、以下の分析では、この「労働時間の状況」が記録されているかどうかだけの情報で、裁量労働制が導入されているかどうかを識別 する。内訳はつぎのとおりである:
- 専門業務型だけ記録がある:687
- 企画業務型だけ記録がある:505
- 両方とも記録がある:233
- どちらも記録がない:10150
「一般労働者」の法定時間外労働
この調査でいう「一般労働者」とは、裁量労働制や変形労働時間制などが適用されていない労働者を指しているようである。法定時間外労働の時間数の記録手順は、つぎのような感じである。
- その事業場の一般労働者のなかから、当該月 (おそらく2013年4月) の法定時間外労働がいちばん長い労働者をひとり選び、この人を「最長の者」とする
- その事業場の一般労働者のなかから、当該月 (おそらく2013年4月) の法定時間外労働について「最も多くの労働者が属すると思われる時間外労働時間数の層に含まれる」者をひとり選び、この人を「平均的な者」とする (このときの「層」として何を指定しているのかは不明)
- これらの「最長の者」「平均的な者」について、当該月の法定時間外労働時間数を記録する (労務管理書類などを調べることになっている)
- これらの「最長の者」「平均的な者」について、当該月のなかでいちばん法定時間外労働が長かった1日、1週をえらび、その法定時間外労働時間数を記録する
- これらの「最長の者」「平均的な者」について、年間の法定時間外労働時間数を記録する (たぶん2012年4月から2013年3月まで?)
日、週、年については、こういう調べかたをすることに意義があるのかどうかは疑問だと思う。「最長の者」も「平均的な者」も一か月間 (たぶん4月) の実績に基づいて選んでいるのであって、特定の日や週について、あるいは過去1年間について、「最長」であったり「平均的」であったりする保証はない。
ただし、「月」の法定時間外労働については、「最長の者」の値はその事業場での最大値、「平均的な者」の値はその事業場での最頻値 (これを「平均」と呼ぶのは誤りである が、この調査ではそう呼んでいるので仕方がない) をあらわしているので、これらの測定値は明確な意味を持つ。
たとえば「最長の者」の1か月の法定労働時間がゼロであったとすれば、それはその月にはその事業場では誰も法定時間外労働をしなかったことを意味する。これに該当する事業場は、データ中に1716件ある。月の法定時間外労働の数値が空欄になっている事業場が1936 (11575事業場のうち16.7%) あるので、それを除くと、9639事業場のうちの17.8%では、2013年4月には誰も法定時間外労働をおこなわなかったということになる。
裁量労働制導入事業場の特徴
この1か月の間に誰も法定時間外労働をおこなわなかった事業場の比率は、企画業務型裁量労働制の導入状況によってちがうのかどうか。計算してみると、つぎのようになる:
- 企画業務型裁量労働制なし: 19.1% (8829事業場中)
- 企画業務型裁量労働制あり: 1.4% ( 710事業場中)
同様に、専門業務型裁量労働制の導入状況別に、誰も法定時間外労働をおこなわなかった事業場の比率を計算すると、つぎのようになる:
- 専門業務型裁量労働制なし: 18.8% (8845事業場中)
- 専門業務型裁量労働制あり: 6.7% ( 794事業場中)
どちらの結果も、裁量労働制を導入している事業場では、裁量労働制が適用されていない一般労働者の法定時間外労働が多い ことを示唆している。特に、企画業務型裁量労働制を導入している710事業場のなかでは、法定時間外労働がなかったのは10事業場しかない。企画業務型裁量労働制を導入した事業場ではほとんどももれなく法定時間外の労働がおこなわれている、といってよい数字である。
では、法定時間外労働がおこなわれている場合、その時間量はどれくらいか?
以下では、1か月の法定時間外労働時間数を21で割って使うことにする。これは、2013年4月の平日が21日あったので、これで割ると1日あたりの時間数を近似できると考えたためである。
表1: 一般労働者の1日あたり法定時間外労働 (「最長の者」の月間の法定時間外労働がゼロでなかった事業場のみ)
(a) 「最長の者」 | ||||||
企画業務型裁量労働 | 法定時間外労働なし | 1時間以下 | 2時間以下 | 2時間超 | 計 | 事業場数 |
---|---|---|---|---|---|---|
導入していない | 34.5% | 32.5% | 32.9% | 100.0% | 7194 | |
導入している | 16.1% | 36.2% | 47.7% | 100.0% | 696 | |
計 | 32.9% | 32.8% | 34.2% | 100.0% | 7890 | |
専門業務型裁量労働 | 法定時間外労働なし | 1時間以下 | 2時間以下 | 2時間超 | 計 | 事業場数 |
導入していない | 34.7% | 32.9% | 32.3% | 100.0% | 7154 | |
導入している | 15.1% | 32.2% | 52.7% | 100.0% | 736 | |
計 | 32.9% | 32.8% | 34.2% | 100.0% | 7890 |
(法定時間外労働は、1か月の時間数を21で割ったもの)
(b) 平均的な者 | ||||||
企画業務型裁量労働 | 法定時間外労働なし | 1時間以下 | 2時間以下 | 2時間超 | 計 | 事業場数 |
---|---|---|---|---|---|---|
導入していない | 17.1% | 60.2% | 18.6% | 4.1% | 100.0% | 7166 |
導入している | 6.5% | 64.0% | 26.9% | 2.6% | 100.0% | 689 |
計 | 16.2% | 60.6% | 19.3% | 3.9% | 100.0% | 7855 |
専門業務型裁量労働 | 法定時間外労働なし | 1時間以下 | 2時間以下 | 2時間超 | 計 | 事業場数 |
導入していない | 17.0% | 61.0% | 18.2% | 3.8% | 100.0% | 7127 |
導入している | 8.0% | 55.8% | 30.6% | 5.6% | 100.0% | 728 |
計 | 16.2% | 60.6% | 19.3% | 3.9% | 100.0% | 7855 |
(法定時間外労働は、1か月の時間数を21で割ったもの)
表1より、裁量労働制を導入している事業場では法定時間外労働が長い 傾向が読み取れる。「最長の者」の法定時間外労働が1日に2時間を超えているケースは、裁量労働制がない事業場では3割程度なのに対して、裁量労働制がある事業場では5割程度となっている。また、「平均的な者」の法定時間外労働がゼロであるケースは、裁量労働制がない事業場では2割くらいあるのに対して、裁量労働制がある事業場では1割未満である。
なぜこのような現象が生まれるのかについては、複数の解釈がありうる。ひとつの可能性は、もともと長時間労働の傾向のある企業が、そうでない企業よりも裁量労働制を好んで導入している、ということである。一方で、裁量労働制を導入した結果として一般労働者の時間外労働が増える (たとえば裁量労働制で働く人とコミュニケーションをとらなければならなくなる、などの理由で) ということもあるかもしれない。あるいは、両者に影響をあたえる第3の要因があるのかもしれない (「規模分類」の変数と交互作用効果があることは確認しているが、この変数は論理的エラーをふくんでいるおそれが大きい ため、分析を中断している)。さらには、調査設計の問題や入力ミス等のせいであって、実質的に意味のない関連だという可能性も考えておく必要がある。
裁量労働制の労働時間は長いのか
さて、裁量労働制が適用される労働者については、一般労働者とは異なり、「労働時間の状況」というものが記録されている。
「3)労働時間の状況」で違和感を持たれる委員もいらっしゃるかもしれませんが、※印にも書いていますように、「労働時間の状況として把握した時間」は、指針等に書かれております健康・福祉確保措置等を講ずる観点から、入退室の時刻等を把握していただいておりますけれども、そうした形で把握した時間も含めた把握できる範囲の数字ということで見ていただければと存じます。
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000035473.html
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第104回労働政策審議会労働条件分科会 (2013-10-30) 議事録。村山労働条件政策課長による資料説明。
裁量労働制の場合、労働者の裁量に任されているのだから、使用者側は労働時間の正確な数値を持っていない。事業場の担当者に訊いてもわからないし、正確な資料もないわけである。ただ、いろんなかたちで、たとえば「入退室の時刻」などのデータがあれば、そういうものから大体1日何時間程度、という数値がわかるので、それを記録している。これは一般労働者の場合の法定時間外労働の把握の仕方とは大きく異なる測定方法であり、比較するには大きな困難をともなう。しかし、データ中に使える変数が他にあるわけでもないので、以下では、上で説明した (月間の法定時間外労働を21で割った) 数値を利用して、強引に比較していくことにする。
下の図1は、1日の労働時間分布を1時間刻みで見たものである。横軸上でたとえば「8」とあるのは、労働時間が1日あたり480分から539分の範囲にある (8時間台) ことを示している。裁量労働制の場合には、1日あたりの「労働時間の状況」の数値を使っている。一般労働者については、上記の方法で推定した1日あたりの法定時間外労働の時間数に8時間 (=480分) を足しているが、例外的に、法定時間外労働がゼロの場合には、468分 (=7時間48分) としている。これは、所定労働時間が8時間より短い事業場がかなりある ことを考慮したものである。
図1: 1日の労働時間分布 (推定)
図1からわかるように、裁量労働制の場合、1日あたり労働時間の分布範囲が広く、事業場間のちがいが大きい。特に、左端の、4時間未満の部分にある程度の割合があり、これらが正しいデータなのかどうか現在問題になっている ところである。
しかし、このような労働時間の極端にすくない事業場が確かにあるのだとしても、全体的にみて、裁量労働制の適用される労働者の労働時間分布のほうが、一般労働者の労働時間分布より右側にある。裁量労働制の場合の「平均的な者」の分布ピークは1日9時間台のところにあるが、これは一般労働者の場合の「最長の者」と同じである (ただし一般労働者の「最長の者」の場合、8時間台にもかなりの割合があるので、そのぶん裁量労働制の「平均的な者」よりやや低いとはいえる)。一般労働者の「平均的な者」のピークは8時間台であり、これはより左に位置している。これらに対して、裁量労働制の場合「最長の者」はかなり右側に分布しており、そのピークは1日12時間台の労働になっている。さらに、1日15時間を超えて働いているケースもかなりあることがわかる。
同一事業場内での比較
データ中には、一般労働者と裁量労働制の両方の時間がわかる事業場が700程度ある。これらのケースを使って、おなじ事業場内の裁量労働制が適用されている人とそうでない人の間での労働時間のちがいを分析した。
図2: 各事業場での一般労働者と裁量労働制の労働時間の散布図
(a) 「最長の者」について企画業務型裁量労働制×一般労働者
(b) 「最長の者」について専門業務型裁量労働制×一般労働者
(c) 「平均的な者」について企画業務型裁量労働制×一般労働者
(d) 「平均的な者」について専門業務型裁量労働制×一般労働者
図2の各グラフには、45度線が引いてある。この線より上に位置する点は、裁量労働制のほうが労働時間が長いことを、逆にこの線より下に位置する点は、裁量労働制のほうが労働時間が短いことを示している。なお、おなじ座標に複数のケースが該当する場合も打点はひとつしかないので、該当ケース数を厳密に読み取ることはできないので留意されたい。
いずれのグラフでも45度線よりも上に多くの点が位置しており、裁量労働制の適用を受ける労働者のほうが労働時間が長い 傾向にあることが読み取れる。特に「最長の者」の2枚のグラフ (図2 (a)(b)) においては、かなり上方にまで点が打たれていることがわかる。
同様のことをクロス表でも確認しておこう。表2は、同一事業場での一般労働者と裁量労働制の労働時間の組み合わせをみたものである。いずれの表も、表側が一般労働者、表頭が裁量労働制である。
表2: 各事業場での一般労働者と裁量労働制の労働時間のクロス表
(a) 「最長の者」一般労働者 × 企画業務型裁量労働
最長の者 | 8時間以下 | 9時間以下 | 10時間以下 | 10時間超 | 計 |
---|---|---|---|---|---|
8時間以下 | 0.4% | 0.0% | 0.3% | 0.7% | 1.4% |
9時間以下 | 2.3% | 1.7% | 2.5% | 9.3% | 15.9% |
10時間以下 | 3.8% | 1.6% | 4.4% | 25.9% | 35.7% |
10時間超 | 3.5% | 0.7% | 3.4% | 39.4% | 47.0% |
計 | 10.1% | 4.0% | 10.6% | 75.4% | 100.0% |
N = 706。セル内の%は全体 (N=100%) に対する比率。
(b) 「最長の者」一般労働者 × 専門業務型裁量労働
最長の者 | 8時間以下 | 9時間以下 | 10時間以下 | 10時間超 | 計 |
---|---|---|---|---|---|
8時間以下 | 1.0% | 0.3% | 0.5% | 4.9% | 6.7% |
9時間以下 | 2.4% | 1.1% | 1.5% | 9.0% | 14.1% |
10時間以下 | 2.8% | 0.5% | 2.9% | 23.8% | 30.0% |
10時間超 | 3.8% | 1.1% | 3.0% | 41.2% | 49.2% |
計 | 10.0% | 3.0% | 8.0% | 79.0% | 100.0% |
N = 789。セル内の%は全体 (N=100%) に対する比率。
(c) 「平均的な者」一般労働者 × 企画業務型裁量労働
平均的な者 | 8時間以下 | 9時間以下 | 10時間以下 | 10時間超 | 計 |
---|---|---|---|---|---|
8時間以下 | 2.7% | 2.0% | 1.9% | 1.3% | 7.9% |
9時間以下 | 12.6% | 15.2% | 16.2% | 19.2% | 63.1% |
10時間以下 | 3.3% | 6.0% | 6.4% | 10.7% | 26.5% |
10時間超 | 0.1% | 0.4% | 0.7% | 1.3% | 2.6% |
計 | 18.7% | 23.6% | 25.2% | 32.5% | 100.0% |
N = 699。セル内の%は全体 (N=100%) に対する比率。
(d) 「平均的な者」一般労働者 × 専門業務型裁量労働
平均的な者 | 8時間以下 | 9時間以下 | 10時間以下 | 10時間超 | 計 |
---|---|---|---|---|---|
8時間以下 | 5.5% | 2.6% | 2.7% | 3.5% | 14.2% |
9時間以下 | 12.8% | 13.1% | 10.9% | 15.1% | 51.9% |
10時間以下 | 4.1% | 5.1% | 7.3% | 12.1% | 28.6% |
10時間超 | 1.2% | 0.5% | 1.5% | 2.1% | 5.3% |
計 | 23.6% | 21.3% | 22.4% | 32.7% | 100.0 % |
N = 780。セル内の%は全体 (N=100%) に対する比率。
基本的な状況は図2とおなじであって、裁量労働制のほうが時間が長い事業場 (表の右上) が多いことがわかる。「最長の者」(表2 (a)(b)) の場合、1日10時間を超えて働いているケースは、一般労働者では半分未満なのに対して、裁量労働制では4分の3を超える。「平均的な者」(表2 (c)(d)) ではそれほどひどくはないが、それでも裁量労働制の場合に1日10時間を超えて働くケースが3割以上ある。一般労働者の場合には1割未満なので、やはり長時間労働のケースが裁量労働制の場合に多いことがわかる。
一方で、「平均的な者」の場合には、一般労働者のほうが長時間労働である事業場もないわけではない。表2(c)(d) では、一般労働者が1日あたり8時間超9時間以下の労働なのに対して裁量労働制の場合には8時間以下、というケースが1割程度を占めている。
結論
以上のように、労働時間等総合実態調査データからみるかぎり、つぎのことがいえる:
- 裁量労働制を導入する職場では一般労働者の労働時間が長い傾向がある
- 同一事業場内で比較すると、裁量労働制の適用される者のほうが、一般労働者よりも労働時間が長い傾向がある
- 裁量労働制のもとでは1日に10時間を超える長時間労働をする者のいる事業場が半数を超えている
もしこのデータに基づいて政策的な決定をなさなければならないのだとしたら、「裁量労働制は長時間労働を促進する可能性が高い」と判断せざるをえない。しかし現実には、国会等でこのデータの信頼性をめぐって議論がたたかわされている最中であるので、この分析結果をどこまで信用してよいかの判断は保留しておきたい。
付録
この記事で触れた分析は、http://tsigeto.info/mhlwdata/ で公開しているデータ (2018-02-21) による。
分析のためのコード (SPSSシンタックス) はつぎのとおり。
/* ********************************************* * 1月の法定外労働 → 1日の実労働時間を推定 (分) ********************************************** */ compute g_long = 8*60 + G_MON_LONG / 21. recode g_long (480=468). compute g_mode = 8*60 + G_MON_MODE / 21. recode g_mode (480=468). compute diff_long_ss = SS_LONG - g_long. compute diff_long_ks = KS_LONG - g_long. compute diff_mode_ss = SS_MODE - g_mode. compute diff_mode_ks = KS_MODE - g_mode. T-TEST PAIRS=SS_LONG KS_LONG SS_MODE KS_MODE WITH g_long g_long g_mode g_mode (PAIRED) /CRITERIA=CI(.9500) /MISSING=ANALYSIS. NPAR TESTS /SIGN=SS_LONG KS_LONG SS_MODE KS_MODE WITH g_long g_long g_mode g_mode (PAIRED) /MISSING ANALYSIS. /* ********************************************* * 実労働時間カテゴリわけ * 8: 8時間以下 * 9: 8時間超 9時間以下 * 10: 9時間超10時間以下 * 11:10時間超 ********************************************** */ recode g_long ( Lowest thru 480 = 8 )( 481 thru 540 = 9 )( 541 thru 600 = 10 ) ( 601 thru Highest = 11) into g_long_4. recode g_mode ( Lowest thru 480 = 8 )( 481 thru 540 = 9 )( 541 thru 600 = 10 ) ( 601 thru Highest = 11) into g_mode_4. recode SS_LONG ( Lowest thru 480 = 8 )( 481 thru 540 = 9 )( 541 thru 600 = 10 ) ( 601 thru Highest = 11) into ss_long_4. recode SS_MODE ( Lowest thru 480 = 8 )( 481 thru 540 = 9 )( 541 thru 600 = 10 ) ( 601 thru Highest = 11) into ss_mode_4. recode KS_LONG ( Lowest thru 480 = 8 )( 481 thru 540 = 9 )( 541 thru 600 = 10 ) ( 601 thru Highest = 11) into ks_long_4. recode KS_MODE ( Lowest thru 480 = 8 )( 481 thru 540 = 9 )( 541 thru 600 = 10 ) ( 601 thru Highest = 11) into ks_mode_4. frequencies g_long_4 g_mode_4 ss_long_4 ss_mode_4 ks_long_4 ks_mode_4. CROSSTABS /TABLES=g_long_4 BY ss_long_4 ks_long_4 /FORMAT=AVALUE TABLES /STATISTICS=CHISQ PHI /CELLS=COUNT TOTAL /COUNT ROUND CELL. CROSSTABS /TABLES=g_mode_4 BY ss_mode_4 ks_mode_4 /FORMAT=AVALUE TABLES /STATISTICS=CHISQ PHI /CELLS=COUNT TOTAL /COUNT ROUND CELL. /* ********************************************* * 裁量労働制の変数が有効かどうか * KS: 企画業務型裁量労働制が有効なら1, 欠損値なら0 * SS: 専門業務型裁量労働制が有効なら1, 欠損値なら0 ********************************************** */ recode KS_LONG ( missing = 0 )(else = 1) into KS. recode SS_LONG ( missing = 0 )(else = 1) into SS. frequencies KS SS. crosstabs KS by SS. /* ********************************************* * 法定時間外労働があるか * OVERTIME: 「最長の者」の1ヶ月労働時間が正なら1, ゼロならゼロ ********************************************** */ recode G_MON_LONG ( 0=0 ) ( missing=sysmis )(1 thru Highest = 1) into OVERTIME. frequencies OVERTIME. crosstabs /TABLES=KS SS by OVERTIME. /FORMAT=AVALUE TABLES /STATISTICS=CHISQ PHI /CELLS=COUNT ROW /COUNT ROUND CELL. /* ********************************************* * 法定時間外労働がある場合の労働時間の分析 ********************************************** */ select if ( OVERTIME = 1 ). MEANS TABLES=g_long g_mode BY KS SS /CELLS MEAN COUNT STDDEV /STATISTICS ANOVA. CROSSTABS /TABLES=KS SS BY g_long_4 g_mode_4 /FORMAT=AVALUE TABLES /STATISTICS=CHISQ PHI /CELLS=COUNT ROW /COUNT ROUND CELL.
履歴
- 2018-02-24
- 作成
- 2018-02-24
- 訂正:"「分」に60をかけて「時間」を足す" → "「時間」に60をかけて「分」を足す"
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