2018年2月24日
◆働き方論議の仕切り直しを◆
働き方改革関連法案の柱である裁量労働制拡大を巡り、厚生労働省は安倍晋三首相が「裁量労働制で働く人の労働時間は一般労働者より短いとのデータもある」との答弁の根拠にした「2013年度労働時間等総合実態調査」の詳細を衆院予算委員会理事会で開示した。データに疑義があると野党に追及され、首相は答弁を撤回。それで済む話ではない。働き方改革論議の仕切り直しが求められる。
根幹揺らぐ関連法案
厚労省幹部は野党に「一般労働者と裁量制を異なる手法で調査した数字を集計し、比較したのは不適切」と謝罪した。調査では、一般労働者に「1カ月で最も長く働いた日の残業時間」を尋ねる一方で、裁量労働制で働く人には単純に1日の労働時間を聞き、一般の方が長時間との回答が集まりやすくなっていた。
本来は簡単に比較できないデータなのに法案を通すために意図的に説明に用いたという疑念も拭えない。政府が今国会の最重要法案としている関連法案の根幹が大きく揺らいでいる。本当に長時間労働が是正されるか、懸念を抱く人たちに対する背信行為である。
働き方改革法案には罰則付きの残業時間の上限規制とともに、年収の高い一部の専門職を労働時間規制の対象から外す高度プロフェッショナル制度の導入や、実際に働いた時間ではなく、あらかじめ決められた時間に基づき賃金を支払う裁量労働制の対象業種拡大などが盛り込まれている。
野党は規制の強化と緩和の抱き合わせに強く反発。裁量労働制拡大について長時間労働を助長し、過労死を増やしかねないと批判した。これに対して首相が裁量労働データを持ち出し、反論した。
経緯や手法説明必要
15年7月の衆院厚労委でも当時の塩崎恭久厚労相が同じデータを取り上げ、労働時間について「むしろ、一般労働者の方が平均でいくと長い」と答弁。政府は裁量制で働く人は1日当たり9時間16分、一般は9時間37分と説明してきた。野党から疑問が投げ掛けられ、厚労省が調査内容を精査した結果、裁量制と一般とで異なる質問をしていたほか、残業時間が「1日45時間」といった誤記とみられるケースが少なくとも3件あることなどが明らかになった。
厚労省は「集計時に違う条件を比較している認識はなかった」「意図的な数字を作って出したということではない」などと弁明と謝罪に追われている。あやふやなデータにより法案成立に向けた環境を整えようとしたのは否定できない。不誠実というほかない。
政府は「法案の実現に向け全力で取り組む」と強調するが、まずは調査の経緯や手法について詳しく調べ、説明する必要がある。中小企業に限って残業規制の適用を1年延期する方針を打ち出すなど経済界の意向を反映させる一方で、働く人たちを置き去りにするようでは改革とはいえまい。