◆青葉のキセキ−次代を歩む人たちへ− 第2部 傷を抱えて 清貴 光の方へ(下)

演出家として、演者に演技のアドバイスをする安泉清貴=5日、那覇市内

 「お前はばかか、死ね」

 相手をにらみつけ、怒り狂い、激しい口調で罵倒する男。

 当時21歳、安泉(やすもと)清貴(27)の初舞台。殺人鬼の役だった。中学時代に受けたいじめ、自分を押し殺してきた過去。これまで抱えてきた怒りや不満をせりふに乗せ、一気に爆発させた。

 舞台から降りると、人前で感情をぶちまけたことに自己嫌悪と後悔があった。だが、予想に反し、観客から温かい拍手をもらう。「舞台では感情を出していいんだ。自分を取り繕う必要がない」。今までの自分とは真逆の世界でつかんだ手応え。安泉は突き進んだ。

 大学を卒業し、バイトを掛け持ちして生計を立てながら、けいこに励む日々。年間約10本の舞台を精力的にこなす。テレビCMやドラマにも出演し、活動の幅も広がった。

 2017年、貧困や不登校児童支援のチャリティー音楽劇「Creep」の演出家として声が掛かった。孤独な少年時代を過ごした安泉は、支援の趣旨に賛同。いじめの経験を舞台で表現したいとも考えていた。

 いじめを受けた主人公が、父親と2人向き合うシーン。何も言わない息子に、父親は「嫌なら逃げてもいいんだよ。したいことをすればいいんだ」と語り掛ける。

 この場面は、安泉が母に初めていじめを打ち明けた過去を反映させた。いじめを謝る少年に、主人公が「それでチャラのつもりか」と思いをぶつけるせりふも、自身の体験そのものだ。

 安泉は、演者にいじめられた子の気持ちを説いた。自身の体験を場面やせりふで表現することは、時に身を削るような作業だった。「中学時代がフラッシュバックし、きつい時もあった」

 それでもやり遂げたのは、経験者でしか表現できない重みや真実味があると考えたからだ。

 「子どもたちは学校や家など、狭い世界で生きている。つらい環境に置かれた子は目の前しか見えない。そんな子たちに、自分自身を一度、客観的に見てほしい。大人にも子どもたちの気持ちを知ってほしい」

 人々に思いを届けたくて選んだ表現の道。表現することで自分自身も救われたと感じている。ひとつ伝えることで、次のステージに進むことができる。

 安泉は今月末、認知症の祖母と同居した経験を演出した劇の公開を控える。

 「若い世代に『あいつにできるなら、自分にもできる』と思われたい」。それが一番の願いだ。=敬称略(社会部・湧田ちひろ) 第2部おわり

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