しいたげられたしいたけ

根拠の崩壊した裁量労働制(別名「定額働かせ放題法案」)に反対します

改正労働契約法に起因する「5年雇い止め」撤回に関して意外にも(?)地域労組が健闘しているらしい

ホッテントリや人気ブログを勝手にマクラに使わせてもらって自分の記事を書くことが多いが、なぜか フミコフミオ (id:Delete_All)さんのブログは、ずっと拝読しているにもかかわらず、これまで使ったことがなかった。言及、失礼します。

delete-all.hatenablog.com

改正労働契約法の18条は、5年を超えて有期雇用を繰り返している労働者は本人が申し入れれば無期雇用に転換できる、というルールを定めている。ただし条文には「無期労働契約」と書いてあるだけで、正社員に転換とはどこにも謳われていない。だが自分は正社員になれたと信じて疑わない同僚氏の話である。

実際の運用で、無期雇用と正社員が同じなのか違うのか、違うとしたらどのように違うのか、私にはわからない。おそらくこれから運用経験が積み重ねられるのだろう。それでも私個人の感想としては、どのような形であれ無期転換はよかったんじゃないかなと思う。いつものごとく、マクラはマクラとして、以下は自分の書きたいことを書く。

なお改正労働契約法に関しては、厚生労働省のこちらのサイトからダウンロードできる「労働契約法改正のあらまし」というパンフレットがわかりやすかったので、リンクを貼る。

www.mhlw.go.jp

厚労省のサイト “労働契約法の改正について〜有期労働契約の新しいルールができました〜” の「改正労働契約法のポイント」は、パンフレット「労働契約法改正のあらまし」P3にも同一の内容が載っている。なぜか画像データなので、文字起こししてみる。

改正労働契約法のポイント
3つのルール
I 無期労働契約への転換
 有期労働契約が繰り返し更新されて通算5年を超えたときは、労働者の申込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換できるルールです。
II 「雇止め法理」の法定化
 最高裁判例で確立した「雇止め法理」が、そのままの内容で法律に規定されました。
 一定の場合には、使用者による雇止めが認められないことになるルールです。
III 不合理な労働条件の禁止
 有期契約労働者と無期契約労働者との間で、期間の定めがあることによる不合理な労働条件の相違を設けることを禁止するルールです。
施行期日
II:平成24年8月10日(公布日)IとIII:平成25年4月1日

労働契約法の改正について〜有期労働契約の新しいルールができました〜 |厚生労働省 より

 

ようやく本題。この法改正の趣旨をよく理解していないことに基づくと思われる雇用トラブルが、ひっきりなしに起きている。いわゆる「2018年問題」というやつだ。つまり、非正規雇用者が、5年目の契約更新を目前に、雇い止めの憂き目を見るというケースが頻発しているのである。


はっきりと書いておきます。私は自身が非正規の被雇用者です。自称中立とか「どっちもどっち」とかの立場で記事を書いていません。明確に被雇用者側の立場です。その点をご承知おき下さい。


私は非正規雇用者向け地域労働組合に加入している。そこに、5年雇い止めに関する労働相談が頻発しているのだ。

地域労組に関しては、以前に何度か記事にしたことがある。これとか。

www.watto.nagoya

こういうことを書くと、相手(雇用者側)に手の内を明かすことになりかねないが、うちの場合、労組と名乗っていても組合員の数は決して多いとは言えない。実働数は、なおさらである。私もいつも都合がつくわけではないが、団体交渉や雇い止め裁判の傍聴には可能な限り出席するようにしている。そのたびに参加者の少なさに、内心がっかりしている。

ところが意外なことに、と言っては失礼かも知れないが、この「5年雇い止め」問題に関しては、地域労組が健闘しているようなのだ。

執行部の人の話によると、4つ以上の事業所で、すでに10人近い雇い止めを撤回させたとのことである。これは零細な地域ユニオンとしては、できすぎなくらいの成果だと私は思った。執行部の人も、そう自画自賛していた。

そもそも雇用者側が、改正労働契約法の趣旨を正しく理解していないケースが多いというのだ。

厚労省パンフレット「労働契約法のあらまし」P8より

II「雇止め法理」の法定化(第19条)

 有期労働契約は、使用者が更新を拒否したときは、契約期間の満了により雇用が終了します。これを「雇止め」といいます。雇止めについては、労働者保護の観点から、過去の最高裁判例により一定の場合にこれを無効とする判例上のルール(雇止め法理)が確立しています。

 今回の法改正は、雇止め法理の内容や適用範囲を変更することなく、労働契約法に条文化しました。

つまり「有期雇用契約を更新すると5年を超えるから雇い止め」というのは、判例的にも法律の条文的にもアウトだということだ。もし裁判で争ったら雇用者側に勝ち目はない。

ただし法律がそうなっていても、いざ自分の権利が侵害されそうになったとき、法律に基づいて自己救済ができなければ意味がない。だがそれが法律の専門家ならぬ大多数の一般人にとっては難事なのだ。

うちのユニオンの場合、雇い止めの労働相談があった場合は、状況の詳しい聞き取りののち、だいたい次のような手順を踏むようだ。

まず雇用者に対し、組合名義で団体交渉を申し入れる。

雇用者は、これを拒むことはできない。もし拒否したら団体交渉拒否という不当労働行為になり、中央労働委員会への申し立てというさらに大事になるからだ。

確認のために検索したらウィキペディアに項目があったので、簡易リンクを貼ってみよう ⇒ wikipedia:団体交渉拒否 それでもあえて拒否したら、どういうことになるんだろう? 私にはわからない。

団体交渉の場においては、上述の「雇止め法理」について、雇用側の説明を求めるのだが、だいたいこれで、雇用側は自分の誤解に気づいてか、折れてくる場合が多いとのこと。

雇用側が事態をよくわかっていなかったらしい事例として、執行委員の一人からこんな笑い話(?)を聞いたことがある。相手が同席させた弁護士が、マル暴とか民暴とか呼ばれるジャンルの専門だったとのこと。つかなんで執行委員はそんなことを知っているのだ?

とまれ、皮肉なことに、相手が弁護士を同席させた場合の方が、話が早いことがしばしばなのだそうだ。

「5年以上雇っちゃいけないのかと思ってました」と寝言を抜かした事業主もいたとのこと。んなわけあるかい!

その他、あまり詳しく書くと手の内を明かすことになりかねないが、多くの事業所では、就業規則がなかったり、就業規則があっても、それが労働組合または被雇用者の過半数の代表を相手に合意されたものでなかったりするケースが多いとのこと。これは労働基準法に照らして法的瑕疵があるということで、こちらの武器になることがあるそうだ。

だがこのような交渉は、もし私に個人的にやれと言われても、とても無理だ。もし類似のトラブルに直面されている方は、お住いの周辺の地域ユニオンを検索して、相談してみてください。

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問題は、それでも相手側が突っぱねてきた場合はどうなるかということで、これは裁判ということになりかねない。裁判は多大な時間とエネルギーを使うし、雇用者側に有利で被雇用者側に不利なトンデモ判決が出ることも多い。

これも詳しいことは書けないが、少なくとも名古屋ローカルでは名前を言えば誰もが知っている大きな事業所で、大規模な雇い止めが発生しているのだ。この団交の場には、珍しく私も参加していた。ここでは相手が、「5年を超えて契約を更新することは一切ありません」と、はっきりとやった。

「マーフィーの法則」の一種なのか、たまたま私が団交に参加したり裁判を傍聴したりすると、なぜか被雇用者側に不利な進行になることが多い。これとか ↓

www.watto.nagoya

もう一つ心配なことがある。うちみたいな零細なユニオンが雇い止め撤回に貢献できる非正規労働者の数は、やはりごく一握りのそのまた一握りと言わざるを得ない。かなり大きな割合の非正規労働者は、雇い止めを申し渡されると、唯々諾々とそれに応じているようだ。

前述の名古屋では知らない者がいない事業所の場合、想像だけどここ一箇所だけでも100人以上の非正規労働者が雇い止めになるんじゃないだろうか?

これは二重の意味でヤバいと思う!

雇い止め自体が嬉しいことではないが、それに加えて次のような問題がある。

仮に新たな雇用を得ることができたとしても、それは以前と同様、非正規雇用であるケースが多いだろう。

ところが改正労働契約法が成立してからの雇用契約書には、無期転換を避けるため、最初から「5年を超えて雇用が継続されない」と明記されているケースがほとんどだというのだ!

ソチオリンピックから平昌オリンピックまでがあっという間だったように、すぐに次の雇い止めと再雇用に直面しなければならない。

その意味で、改正労働契約法が成立して最初の5年の節目である今年は、無期転換への唯一のボーナスステージと表現できるかも知れない。5年以上前の雇用契約書には「5年を超えて」の文言がないからだ。フミコフミオ さんのエントリーへの拙ブコメに「一種ボーナスステージ」と書いたのは、そういう意味のつもりだった。

繰返しになりますが、5年雇い止め問題に直面している方は、お住いの地域のユニオンを調べて相談されることをお勧めします。

 

なお「2018年問題」というと、もう一つ、2015(H27)年施行の改正労働者派遣法というのがある。同一の派遣社員を同一の職場に派遣できる期間を3年に制限したものである。こちらに関する私の知識はほどんどない。どうか詳しい人を探して相談してくださいと申し上げるしかない。

今年の4月は、改正労働契約法の5年雇い止めと改正労働者派遣法の3年期限の節目が同時に来るということで、景気にはそうとうな悪影響が出るんじゃないかな?