「ポール・マナフォートのAirbnbに泊まった そうと気づかず」

ジェシカ・ラッセンホップ記者、BBCニュース

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ドナルド・トランプ米大統領のポール・マナフォート元選対本部長は22日、2016年米大統領選にロシアが介入した疑惑を調べている特別検察官に脱税などの罪で追起訴された。マナフォート被告に対する一連の調べの中で、実はニューヨーク市内の所有マンションを民泊に提供していたという意外な事実が浮上している。

22日に追起訴されたマナフォート被告は昨年10月、大統領選とは直接関係のないウクライナに関する資金洗浄罪などで正式起訴された。その際の31ページに及ぶ訴状には、ニューヨーク市内の所有マンションを民泊サイト「Airbnb」(エアービーアンドビー)に掲載していたと書かれていた。

知らずして、大統領の元選対本部長のマンションに泊まったことがあるという家族に、BBCが話を聞いた。

「ソーホー地区にある、全フロア独占の素晴らしいロフト物件」――というAirbnbのうたい文句を読んだスザンヌさんは、賢い利用者として当然ながら、最初は疑心暗鬼だった。

「なかなか信じられなかった。本当にしては、できすぎの話だったので」

家族のプライバシーのため、スザンヌさんの名字は伏せる。家族でニューヨークに旅行しようと思い立ったのは、2014年12月のことだ。父親が長い入院生活から回復したばかりで、スザンヌさんは家族でゆっくりしたかった。そこで、子供3人を連れてニューヨークを駆け足で巡る旅行を夫のジェフさんと計画し始めた。

ニューヨーク市で5人家族が4泊すると、場合によってはかなり高くつく。そこでスザンヌさんは、Airbnbの掲載物件を細かくチェックし始めた。目に留まったソーホーの物件は詐欺かもしれないと不安だったが、試してみることにした。

family in Airbnb
Image caption ジェフさん、スザンヌさん、子供3人の一家は「ロックスター級のマンション」に圧倒された

マンハッタンのハワード通り29番地にスザンヌさん一行が到着した時、スザンヌさんは宿主ジェイムズさん(自称「ジミー」)に迎えられ、鍵付きエレベーターで4階への行き方を教えてもらった。エレベーターの扉が開くと、そこはもうマンションの中だ。

目に飛び込んできた部屋の様子に、スザンヌさんたちは呆然とした。

4階のロフト物件には寝室が2つ、バスルームが2つ。実際に火を入れられる暖炉と、プロ仕様の台所。窓からは、マンハッタンでも特におしゃれな地区を見渡せる。壁には、ロック歌手カート・コベインのポートレート。なにもかもピカピカの新品のように見えた(訳注・日本では「カート・コバーン」表記が通常ですが、原音に近く「コベイン」にしています)。

「『ロックスターのマンション』と呼び始めたと思います」とスザンヌさんは言う。「本当にサイトに載っていた通りでした。素晴らしく、完璧でした」。

ジミーとのやりとりも、どこかロックスターとの接触めいていた。ジミーはスザンヌさんとジェフさんに自分は俳優をしていて、1999年のコメディ映画「デトロイト・ロック・シティ」で主役だったと話した。ニューヨークとロサンゼルスを行き来し、不動産経営で生計を立てていると話した。

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振り返ってみれば、ジミーのような若者がどうしてあれほど巨大で豪華な物件に住めるのか、どうして自分は疑問に思わなかったのだろう……。スザンヌさんは首をかしげる。

「アパートメント4D」に誰も住んでいないのは、目にも明らかだった。シーツを取り出したばかりのビニール袋を、ジェフさんが発見している。そして、廊下のクローゼットに入っていたデザイナーズもののジャケット2着以外、部屋には服がなかった。

それから4日間、家族は市内を観光して回った。ミュージカル「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」を観て、ニューヨーク近代美術館をぶらぶら回り、ソーホーの最先端レストランで夕食をとった。豪華マンションをチェックアウトした家族はシカゴへ帰宅し、スザンヌさんはAirbnbに大絶賛の評価を書き込んだ。

Couch
Image caption 泊まった豪華マンションの応接間でくつろぐジェフさん
The hallway

「このマンションのおかげで、まるでニューヨークが地元みたいな気分になれた。ぜひまた泊まりたい」とスザンヌさんは書いた。

スザンヌさんは、また滞在したいと思い、実際に「ジミー」に連絡を取ってみたが、返事があった覚えがない。やがて、豪華マンションはAirbnbから消えてしまった。

それから3年がたち、BBCからの電話によって、スザンヌさんとジェフさんは、あの夢の滞在先が実はドナルド・トランプ氏の元選対本部長ポール・マナフォート被告のものだったかもしれないと、初めて知った。

マナフォート被告は昨年10月30日、連邦捜査局(FBI)に出頭した。資金洗浄や米政府に不利益をもたらす共謀など12件の罪で正式起訴されたが、全ての罪状を否認している。

スザンヌさんたちが泊まった豪華マンション、ハワード通り29番地の4階を占める物件は、訴状によると、マナフォート被告が2012年に、ペーパーカンパニーを経由して285万ドル(約3億3000万円)で購入したものだ。

起訴状によると「マンション購入に充てられた資金はすべて、キプロス島にあるマナフォート被告関連の資産管理会社から来た。マナフォート被告は、少なくとも2015年1月から2016年にかけてマンションを賃貸物件として使い収入を得ていた。ほかの場所と同様、Airbnbで週に何千ドルも請求した」という。

また起訴状では、マナフォート被告が娘と義理の息子に対し、ハワード通り29番地の物件はセカンドハウスだと銀行の査定で説明するように言い、その後マンションについて318万ドル(約3億6300万円)の住宅ローンを申し込み、受け取った疑いがあるとしている。

この「ソーホー地区にある全フロアを占める素晴らしいロフト物件」のリスティングは消えたものの、「ジェイムズ」、あるいはフルネームのジェイムズ・デベロ氏は、今もAirbnbで活動している。

電話取材に対し、デベロ氏はかつて映画「デトロイト・ロック・シティー」で主役を演じたと話した。(オンライン映画データベースIMDBにはデベロ氏のプロフィール欄があった。それによると、映画「アメリカン・パイ」や「キャビン・フィーバー」にも出演していたという)また過去に、ハワード通り29番地の物件のゲストキーをAirbnbの顧客に渡したことがあると認めた。

主な出演作である映画「デトロイト・ロック・シティー」でのジェイムズ・デベロ氏(左から3番目) Image copyright Getty Images
Image caption 主な出演作である映画「デトロイト・ロック・シティー」でのジェイムズ・デベロ氏(左から3番目)

一方で、Airbnbでの物件を登録したのはケビンという名の友人で、自分は名義を貸しただけで、客に鍵を渡したのはその友人からの頼みだったと主張している。

デベロ氏はマナフォート被告とは会ったことがない上に、友人のケビンとも3年間話していないのでもう連絡がつかないという。

明るみに出つつあるマナフォート被告にまつわるスキャンダル劇で、自分が端役として関わっていることについて「ちょっと面白い話だと思う」と話していた。

ハワード通り29番地の物件は、ここ数年で複数の不動産会社で紹介されている。複数の米国の放送局では、それがマナフォート被告の物件だと伝えている。不動産会社に掲載されているレイアウトや内装は、スザンヌさんとジェフさんが宿泊した際の写真と一致している。

ジェフさんは「間違いなく同じマンションです」と指摘する。

自宅軟禁されているマナフォート被告は昨年の10月30日、連邦裁判所で無罪を主張した。ハワード通りの物件にいるわけではなさそうだ。マナフォート被告の代理人によると、同被告は「裁判官と陪審員の前でこれらの主張について審理されるのを楽しみにしている」と話しているという。

スザンヌさんとジェフさんは、米国の重大なスキャンダルに自分たちがちょっとだけ関係していたと知る前も、あの夢のようなソーホー地区のマンションについて思い出していたという。

「ソーホー地区にいると、『うらやましい』と思いながらあの場所に立ちます。間違いなくパーティーでのいい話のネタになりますね」

AirbnbはBBCのコメント依頼に回答していない。

(英語記事 'We stayed in Paul Manafort's Airbnb'

取材協力:インサイド・エアビーアンドビーのマリー・コックス氏

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