中華料理屋で昼時にラーメンを食べていた。
これまで汁物にも麺料理にも、とくにラーメンには縁遠かったのだが最近そういう選択肢があるということをおぼえたのだ。
「酒をおぼえる」とか「たばこをおぼえる」とかいうが、ほんとうにものごとはおぼえだ。おぼえなければ世にあるものも自分とは無関係なままである。
なにしろラーメンをおぼえたので昼にたべていた。
小さな中華料理屋で2人がけのテーブルが4卓とあとはぎゅうぎゅうのカウンターで6席。
カウンターは私のような一人客が座るのだが、この日となりに座ったのは同い年くらいの中年女性(私は39歳女です)だった。
たしかその日の日替わり定食が麻婆豆腐定食で、隣の方はそれを頼んだ。
なんてことないラーメンをたんたんと食べる私のとなりで同じようにたんたんと食べているように思っていた隣の女性だが、あるときはっと手を挙げて「コーラください!」といった。
コーラ!
思いついたような様子であった。あ、これはコーラだ! と。なにか慌てるように注文していた。
運ばれた瓶のコーラをグラスに注ぎ、それはうまそうに飲むとなりの女性。
麻婆豆腐定食にはっとしてコーラだ。まるで知らない文化だった。
それで思い出したのだが、以前名古屋で有名店にひつまぶしを食べに行ったとき一人客の女性がひつまぶしにあわせてコーラを頼んでいたことがあった。
そのときはひつまぶしが来る前にその女性はコーラをあおった。非常に儀式的でありながら自由さや高い趣味性も思わせ感じ入った。
思えば私はコーラを知らないのだ。
コーラは毒だという教育のもと育った。コーラは教育への反抗の象徴である。
反抗という意味でダイエットコーラやコーラゼロにはいま手を出すが、純正のコーラにはまだ畏れがある。
ラーメンはおぼえたが、コーラにはまだまだおぼえがない。
だから、とくに食事にコーラを合わせる様子にまぶしい思いがある。
ひつまぶしの店でコーラを飲む女性をみたときの記事がこちら。
3600円のひつまぶしの前にコーラで喉を潤す。ちょっと大丈夫か祝祭性、高めすぎだろう。
さては……変態か?!
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