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シリコンバレーのスタートアップを取材していて気付くのは、彼らがみな「失敗からの学び」を大事にしていることだ。とにかく多く失敗することで、より多く学ぼうとしている。一方、日本の大企業は、失敗から学ぶのを苦手とする傾向がある。なぜだろうか。
失敗からの学びは、「デザイン思考」や「リーンスタートアップ」といったシリコンバレー企業が決まって実践するイノベーションの方法論における基本動作でもある。こうした方法論では、アイデアを考えたらなるべく早くプロトタイプや製品に仕立て上げて、顧客に試してもらって改善点を見つけ出す。改善したらまた顧客に試してもらい、それを改善するというサイクルを何度も繰り返すことが推奨されている。
かつては「××社のソフトウエアはバージョン3まで信用できない」という批判があったように、完璧ではない製品を世に出すことは忌み嫌われてきた。しかし今日では「継続的デリバリー」という概念があるように、製品やサービスは初めから完璧を求めるのではなく、なるべく早くリリースし、そこから何度も改善していくことが良いとされている。
ソフトウエアがCD-ROMやフロッピーディスクなど物理メディアで流通していた時代は、ソフトウエアを更新するのが難しかった。だから「バージョン3からが本番」のようなやり方は嫌われていた。しかし今は、ソフトウエアはクラウド側で稼働し、いつでもすぐに更新できる時代だ。製品を何度も更新することがユーザーに痛みを与えなくなった。失敗からの学びが推奨されるようになった背景には、技術的な進化もあった。
誰も体験したことが無い、それでいて売れる製品を作るには?
シリコンバレーのスタートアップが失敗からの学びを尊重するのは、彼らが「誰も体験したことの無い、それでいて売れる製品やサービス」を生み出そうとしているからだ。そうした製品を開発する際には、ユーザーに「何がほしいですか」と聞いて回っても無駄だ。ユーザーも「体験したことが無いもの」が何だかは分からないからだ。
しかしユーザーがほしいものでなければ、売れる製品にはならない。だからこそ、アイデアはすぐにカタチにして、ユーザーに試してもらう必要がある。ユーザーもモノを試せば、それが役に立ちそうか、どんな不具合があるのか、それがほしいかどうかを答えられる。
デジタル変革を目指す大企業にとっても、事情は同じである。デジタル変革の正解は誰も教えてくれない。スタートアップと同じように早く失敗して学ぶことこそが、デジタル変革における唯一の道標(みちしるべ)となる。
アウトソーシングは「知識資本の喪失」
しかし歴史の古い大企業が失敗からの学びを苦手としているのは、日本だけでなくアメリカでも同じである。例えば米ゼネラル・エレクトリック(GE)は、1990年代から大企業が推進してきた「アウトソーシング」こそが、大企業における失敗からの学びを阻害してきたと分析している。
GEのCIO(最高情報責任者)であるジム・ファウラー(Jim Fowler)氏は、2016年11月に同社が開催したイベントで「アウトソーシングはナレッジキャピタル(知識の資本、蓄積)を失う行為だった」と振り返っている。GEはかつて情報システム開発の74%を外部にアウトソーシングしていた。それが、失敗からの学びで得られたはずの知識を失わせていたという指摘だ。