キャッシュレス化、世界で加速 「現金主義」日本はどうなる

» 2018年02月23日 06時00分 公開
[行武温ITmedia]

 今、世界で「キャッシュレス市場」が熱い。あらゆる業界のプレイヤーが参入し、キャッシュレス化を盛り上げている。

 1月には、オーストラリアの大手銀行BankWestが指輪型のウェアラブル決済デバイスを発表した。防水かつ電池不要ながら決済機能を備えており、海水浴場でも財布を気にせず飲み物や食べ物を購入できる他、支払い時にポケットから何かを取り出す必要もないという。

 ウェアラブルデバイス大手のFitbitも2017年、決済機能を備えたスマートウォッチ「ionic」を発表。Apple PayやAndroid Payを搭載したスマートウォッチ市場に勝負をしかけた。

BankWestが1月初旬に発表した「Halo Payment Ring」

 こうした動きは、海外で起きているキャッシュレス化の波の1つにすぎない。例えば、ヨーロッパでは以前から非接触型銀行カードの導入が進んでいる。ロンドンでは銀行カードをSuicaのように改札にタッチするだけで地下鉄に乗り込める。いわゆる「チャレンジャーバンク」(新規参入銀行)が発行するデビットカードにも非接触型決済機能が搭載されているのが「普通」だ。

 お隣中国では、屋台のような小さい店舗であっても、WeChat(LINEのようなチャットアプリ)やAlipay(Alibabaが提供するQRコード型の非接触決済サービス)での決済が浸透しているため、それがないと生活が不便になるという話を至るところで見かける。

 このように、海外のキャッシュレス化は「新しい動き」というよりは既に一般市民の生活に食い込むところまで来ている。一方、日本はどうだろうか。

現金が主流の日本――現金流通高はスウェーデンの10倍以上

 日本人は普段、どのくらいの頻度で「現金以外」の手段で買い物をしているだろうか。確かに日本でも、2016〜2017年にかけてApple PayやAndroid Payがローンチし、モバイル決済サービスは充実しつつある。それでも、他国と比較すると「現金」への依存度はまだまだ高いのが現状だ。

 17年に日本銀行が発表したレポートによれば、日本における現金流通残高の対名目GDP比率は、2015年の調査時点で19.4%。キャッシュレス化が進行しているスウェーデンの11倍にも達する。

現金流通残高だけでなく高額紙幣への依存度も高い日本(日本銀行のレポート「BIS 決済統計からみた日本のリテール・大口資金決済システムの特徴」より)

 この背景には、偽造紙幣の流通数や他国と比較した際に盗難などで現金を失うリスクの低さ、さらには額面以上の金額を使えないという制限による安心感があるようだ。

東京五輪、「キャッシュレス」な訪日観光客の懸念も

 「現金信仰」とさえいわれるこの状況だが、「国内で問題が起きていないのだから問題ない」と考える人もいるだろう。

 しかし、2020年に東京五輪を控え、今後インバウンド旅行者の増加を目指す日本にとって、キャッシュレス化は人ごとではなくなってきている。

 現金以外での決済に慣れている訪日観光客にしてみれば、旅行先で現金を持ち歩かなければならないという状況は当然好ましくない。旅行会社のネット上の掲示板をのぞいてみると、日本への旅行を計画している人に対して、「現金はちゃんと持っていけよ」とアドバイスする人たちをよく見かける。

 日本人観光客が海外に行くときには逆のことが起きる。スウェーデンでは小売店が現金の受け取りを拒否することが法律で認められており、冒頭の例を見ても今後このような国は増えていくことが予想される。

 すると、普段使い慣れていない決済手段を海外旅行先で使わなければならなくなり、現金重視の日本人は今まで以上にスリや詐欺のターゲットとされる可能性さえあるのだ。

「現金は安心」という幻想

 そもそも現金は持っているだけの額しか使えないので安全だと考えている人もいるようだが、電子的な決済手段も安全性を確保しつつある。

 例えばイギリスのチャレンジャーバンクRevolutであれば、アプリを介してスマートフォンとデビットカードを連携させることで、万が一カードが盗難にあった場合でも、位置情報をもとに自分から離れた場所でカードが使われるのを防ぐことができる。

 他にも、ATMから現金を引き出せないようにしたり、スキミングを防ぐためスワイプでの決済を停止したり、カード自体をワンタッチで止めたり(再度復活させたり)と、カードをコントロールできる自由度は高い。

 現状全てのカードにここまでの機能が備わっているわけではないが、この動きは今後さらに進んでいくだろう。

 持っている額しか盗めないがそれだけは得られる現金か、パスワードやセキュリティを突破しないと引き出すことが難しい電子決済デバイスか、窃盗犯はどちらを狙いたいと考えるだろうか。

Revolutではデビットカードの利用や現金の引き出しについてかなり細かに設定できる

セキュリティと利便性、一人一人が考える必要

 仮想通貨取引所coincheckで起きた盗難事件の直後ということもあり、お金とテクノロジーの組み合わせに敏感になる日本人は増えているかもしれない。

 また、キャッシュレス化が進むと金融機関や政府は消費者の消費行動を把握できるようになってしまうため、プライバシー上の懸念もある。

 しかし、セキュリティやプライバシーと利便性はトレードオフの関係にあるということは常に意識する必要がある。セキュリティを担保するという意味では、ブロックチェーン技術の発展にも期待したい。

 法規制が追い付かないほどのスピードでテクノロジーの発展が進む現代だからこそ、消費者一人一人がリスクとメリットをてんびんにかけ、最適解を見いだす力が求められている。

ライター

文:行武温

編集:岡徳之(Livit)

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