ロシアとサウジアラビアの接近ぶりが目立っている。ロシアは中東ではもともとイランに近く、シリア紛争でもアサド政権の後ろ盾となっている。そんなロシアはサウジアラビアの「敵対国」となるはずなのに、関係が良くなっているのはなぜか。
ロシアのプーチン大統領は2月14日、サウジアラビアのサルマン国王と電話会談した。ロシア大統領府によれば、両首脳はシリアやペルシャ湾情勢など国際問題のほか、「貿易・経済、軍事技術分野を中心にした2国間の協力」について幅広く協議したという。
両首脳の電話会談にあわせたかのように、ロシアの主要メディアはこぞって「サウジアラビア国営石油会社のサウジアラムコがロシアの民間ガス大手ノバテクの液化天然ガス(LNG)プロジェクトに参画へ」と報じた。
結局、サウジアラムコとノバテクが調印したのはLNG生産分野を含めた協力に関する覚書で、具体的なプロジェクトへの出資合意には至らなかった。とはいえ、ロシアのノバク・エネルギー相はメディアに報じられたような交渉が進行中とし、5月にロシア第2の都市サンクトペテルブルクで開かれる国際経済フォーラムの際に調印する「可能性がある」と表明している。
サウジアラムコが出資を検討しているとされるLNGプロジェクトとは何か。ノバテクが北極圏のギダン半島とヤマル半島で計画する新規のLNG事業で「アークティックLNG2」と呼ばれる。年産1900万~2000万トンのLNG施設の建設を予定しており、2019年に着工して2023年からの稼働をめざしている。総事業費はおよそ200億ドルに上るという。
ノバテクはすでに同じ北極圏のヤマル半島で「ヤマルLNG」開発事業を展開中で、昨年12月にLNG生産を開始したばかりだ。当初の年間生産量は550万トンで、2019年には3倍の1650万トンに増やす予定となっている。ヤマルLNGはノバテクが50.1%の権益を握り、フランスのトタルと中国の中国石油天然気集団(CNPC)が各20%、中国の国家ファンド「シルクロード基金」が9.9%を出資している。
ノバテクは「アークティックLNG2」についても同様に自らの出資比率を50.1%にとどめ、外資に幅広く参画を促す意向だ。すでにヤマルLNGと同様、仏トタルや中国CNPCの参画が取り沙汰されている。サウジアラムコが実際に投資するようなら20%程度を出資するのではないかとみられている。
サウジアラビアは世界有数の産油国で、天然ガスの埋蔵量も世界6位と豊富だ。しかし、国内では天然ガス需要が急増しており、ロシアを含めた世界の天然ガス開発投資に強い関心を持っている。実際、サウジアラムコ会長を兼務するファリハ・エネルギー産業鉱物資源相は昨年12月、極寒のヤマル半島で開かれた「ヤマルLNG」の生産開始を記念する式典にも参加している。
ロシアも世界で需要急増が見込めるLNG生産の拡大に注力している。ただし、国内でのLNG生産は三井物産、三菱商事が参画する極東の「サハリン2」に続き、ようやく「ヤマルLNG」が稼働したばかりだ。エネルギー省幹部は「2035年までに世界のLNG生産で15~20%程度のシェアを目指したい」としており、外資の資金力にも頼りながら生産基地を増やしていく意向だ。その意味で、ロシアのLNGに強い関心を示すサウジアラビアは有力な交渉相手となる。
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