BITDAYS編集部がいま気になって仕方ない人にインタビューするこの企画。
今回お話を伺ったのはお笑いコンビ・キングコングの西野亮廣さんです。
西野さんと言えば、絵本作家としての活動もとても有名。西野さんが著した「えんとつ町のプペル」という絵本は1万部売れればヒット作品と言われる絵本業界で33万部以上を売り上げる大ヒット作品となっています。また、最近では「はれのひ」被害にあわれた新成人の方たちに、改めて成人式をプレゼントしたことでも話題となりました。
今回は西野さん発案のサービス『レターポット』についてお話を聞かせていただきました。
レターポットについて西野亮廣さんにインタビュー
ーーまずレターポットを作ったキッカケについて教えてください。
「いらないものをいらないと言える世界を作りたい」きっかけはそう思ったことでした。
僕みたいな仕事をしているとお客さんから差し入れをいただく機会が多いんですが、量が多すぎてスタッフさんにおすそわけしても食べきれないことがあります。そうするとその食べきれない差し入れって捨てられちゃうんです。僕は食べ物を粗末にするのがいやなので、1年目のときから一般の方の差し入れはお断りしていました。すると「差し入れは気持ちなんだから受け取れよ」と贈った側の正義でもって叩かれてしまう。そもそも贈り物は人に喜んでもらうためにするものじゃないですか?その贈り物でお互いが不幸になっている場面があるんですよね。
このことは差し入れだけじゃなくいろいろなところで起こっていて、たとえば被災地に送られる千羽鶴の問題もそう。被災地の人がいらないと言うと「お前たちのことを思って折ったのにいらないとは何事だ」って。
ーー確かによく問題になっていますね。
こういったすれ違いがなぜ起こるのか考えると、物が不足していた時代のルールと、物が溢れている時代のルールがぶつかっていることに行き着きました。物が不足していた時代は贈り物が相手の幸せに直結していたんですが、今の時代は物で溢れているので僕たちはなるべく持ち物をコンパクトにしたい。好きなときに好きな分だけ物を手にとりたいのだけれど、物を贈られてしまうと手がふさがってしまいます。そうすると手にとりたいものを手にとれないことが発生してしまう。贈り物をしたい人と物がいらない人がいて、そこで起こる事故をどうすればいいのかなと考えました。
僕は単純にお金を贈ることができれば1番話が早いと思いました。たしかにお金を贈られれば便利ですが、一方で費やした時間が少ないから寂しいという気持ちもあります。考えた時間や探した時間、買いに行った時間がプレゼントの価値なんですよね。この問題をクリアするためには、相手に贈るお金に時間を乗せ、そのことが可視化できるようにする必要があります。そうすると「あいつこんなに時間かけてくれたんだな」と受け取る側は受け取りやすくなる。どうすればお金に時間を乗せることができるのか考えたときに出てきたのが文字でした。
文字って書いたり言葉を考えたりするので、時間をかけていることがわかりやすいじゃないですか?1文字と100文字ならかかる時間は大きく違う。時間がかかっていることがわかれば相手は受け取りやすくなりますよね。そのようにしてレターポットは生まれました。
ーーレターポットには「レターください」とSNSで発信すると、知らないユーザーからレターがもらえるという流れがありますよね。こういった現象はなぜ起こると思いますか?
これまでは自分が稼いだお金を自分の贅沢のために使っていたと思います。けれど実はそれがコスパが悪いということにみんなが気づいてきていて、利己的ではなく利他的に使うようになったのではないでしょうか。人に与えたら与えたことをまわりの人が見ていて、与えた分以上のものが戻ってくる。今ってSNSですべて可視化されていますよね。与えた方がコスパがいいということがわかってきているんだと思います。
2月4日に新成人を改めて祝う会をやりました。その中心メンバーに田村さんという女性がいて、彼女は3週間ほど身を粉にして新成人のために働いていたんです。するとそのことはSNSで可視化されます。彼女がつぶやくのか、あるいは彼女がつぶやかなかったとしても誰かがつぶやく。それをまた別の誰かが拡散して「めちゃくちゃ頑張ってんじゃん、人のために」となります。
その彼女が先日クラウドファンディングをしました。「頑張ったから高いシャンパンが飲みたい」って。すると1日で30万ほど集まったんです。無名の方ですよ?こういうやり方がコスパがいいことを多くの人がわかってきた感じがしています。
ーー現在レターポットはたくさんの人に利用されています。このままレターの流通量が増えていった場合、レターの希少価値を保つことはできるのでしょうか?
はい、保てますね。
それを説明するにあたってまずお金をお金たらしめている要素について理解する必要があります。主に3つあると思っていて、それが「価値の保存」と「価値の尺度」と「交換の手段」。この3つさえあればどんなものでも通貨にできると思ったので、言葉を通貨にしようと考えました。
けれど言葉というこれほど便利なものがなぜこれまで通貨になってないのだろうと考えたとき、お金をお金たらしめている要素は実はもう1個だけあることに気づきました。それが「流通量」です。
1万円札をたくさん刷ってしまうと、僕らの財布に入っている1万円札には何の価値もなくなってしまいます。発行しすぎるとお金はお金として機能しなくなるんです。2008年のジンバブエが有名ですよね。みんなが札束を持ち歩いていた。あのときのジンバブエではジンバブエドルがその辺に落ちていたり、ゴミ箱に捨てられていたり、お金がお金として機能していなかった。お金を刷りすぎてしまったからもうジンバブエドルは通貨として機能していなかったんです。
ーーハイパーインフレによる貨幣経済の崩壊ですね。
そう考えたときに言葉というのは自由に発行することができます。たとえば僕がこの後に自由に5000文字発行することもできますし、収録でたくさん話すとなれば10万文字発行することもできます。言葉が生まれて僕たちは自由に言葉を発行し続けてきたから、言葉の世界はジンバブエのようにハイパーインフレを起こしていたのではないかというのが僕の仮説です。だから言葉にはもう価値がなくなってしまった。言葉の流通量をコントロールすれば言葉にも価値が出ると思いました。
レターポットでは今1レター(1文字)を5円で買うことができます。実は運営ではみなさんが持っている平均レターのデータを取っていて、増えすぎた場合にはレターの発行をストップします。レターポットでは便せんを選ぶ際に切手代としてもレターが消費されるので、切手代としてレターが減って流通量がいい感じになるまでは発行がストップされます。こうやって価値を担保していきます。
ーー4か月でレターが消滅するのも流通量のコントロールのためですか?
そうですね。あとはゲゼルマネー※にしたいという僕の考えもありました。魚よりも肉よりもお金を持っている人のほうが強くなるのはお金が腐らないからなんです。だからみんながお金を貯め込んでしまう。タンス預金はおもしろくないなと思ってお金を腐らせることにしました。腐ることにしたらみんなが使いますよね。
※ドイツの経済学者シルビオ・ゲゼルによって提唱された通貨に関する考え方。通貨の価値を時間経過によって減価させることで預金を減らし、市場への流通量アップを目指す。
ーーレターの発行をストップすることで運営サイドのマネタイズは難しくなりませんか?
それが関係ないんです。
発行を止めたことによって運営の収益が落ちることはありません。なぜなら僕ら運営はレターの売上で会社を回しているわけではないんです。レターの売上はプールしてあって、切手代や使用期限でレターが消滅することによってようやく売上になる。レターの売上で会社を回すというデザインにしてしまうと、売上をあげるためにどんどん発行するという風になってしまい、レターの価値がどんどん下がってしまうんです。
ーー最近公開レターポットという機能がリリースされましたが、どういった目的で機能を追加したのでしょうか?
公開レターポットには2つ意味があります。
まず1つは公開のポットにみなさんがレターを贈ってくださると、このレターは消滅するんですよ。公開レターポットに贈っていただいた分が運営の利益になります。この利益でスタッフさんのお給料や先日の成人式の支援のお金を払っています。
そしてもうひとつは、みなさんが考えるきっかけになる。今度は東日本大震災のことでやる予定にしているのですが、震災のことは時間が経つとみんな口にしなくなりますよね。マメにやることで考えるきっかけになっていくのではないでしょうか。
ーーレターポットのようなサービスを活用したい企業も多いだろうな、と感じましたがいかがでしょうか?
企業での活用ニーズもありますね。レターポットは最終的に尺度としての機能が強くなると感じています。たとえば最近だとオンデーズさんの例があって、オンデーズさんは国内外に180ほどの店舗があるんですね。オンデーズさんには社内マイルのような制度があって、社員さんが良いことをしたら給料以外に社長からポイントが贈られるんです。
けれど一般的な社内マイルには弱点があって、社員さんは社長向けの顔と接客のときの顔が違う場合があるわけじゃないですか。社長にはいい顔をしているかもしれないけれど、お客さんには態度が悪いかもしれない。
オンデーズさんではお客さんが「この人の接客すごいよかったな」と感じれば、オンデーズの公式ポットにレターを贈ることができるようになっています。すると公式ポットを見た社長が、その社員さんにポイントをあげることができる。お客さんがちゃんとオンデーズの社員さんを評価できるんですね。海外だったらいい接客をしてくれる人にチップを渡すんですが、日本ってチップがNGのところが多くて渡せないんです。そこでレターポット経由で評価してあげることで、最終的にはなにかしらの恩恵が返ってくるという仕組みにしています。
ーーレターポットを使っていると、贈られてくる言葉がすべてポジティブで優しい言葉であることに驚きます。これはなぜだと思いますか?
そうなんですよね。僕のとこに贈られてくるレターもポジティブな言葉しかないんです。もう何万通も届いているんですが、誹謗中傷は1件もないんですよ。キングコング西野に誹謗中傷が1件もないって異常事態だと思うんです(笑)
なぜ誹謗中傷がないのか考えてみたところ、持ちレター数があるからだと気づきました。話せる言葉が残り10文字になったとき、僕たちは人をくさすことに言葉を使うか、それとも感謝のために言葉を使うかと言われたら、みんな感謝のために言葉を使います。つまり文字が有限であるという意識があれば、僕たちは汚い言葉を使わない。寿命が近い人は汚い言葉を使わないですよね。
文字が有限であるという意識を持つと僕たちは美しい言葉しか使わないというのが、レターポットでの1番の発見です。元来言葉は美しくて無限であると勘違いしてしまったから汚い言葉を使いがちですが、基本的に寿命がある限りは言葉も有限なので、考えるきっかけになれば面白いですよね。そういう意味では通貨とか贈り物の役割もあるんでしょうけど、アート作品のようなものでもあるのかもしれません。みんながもう一度考えるきっかけになる。「これどうなんだろう」「通貨ってどうなんだろう」「言葉ってどうなんだろう」と。考えるきっかけになっていることに関しては、アート作品のようですよね。
ーーこれからレターポットがさらに普及することで世界がポジティブで優しいものになっていくと予想されますか?
小さな一部のコミュニティだけだと考えます。さまざまな経済圏がありますから、たとえばとにかくお金稼ぎをしたい人もいますし、お金でお金を作りたい人もいます。数ある経済圏のうちのひとつくらいじゃないでしょうか。
ーー数ある経済圏のひとつとしてレターポットの作る世界があるということですね。
そういう世界を作ることができれば面白いですね。しかし僕の1番の狙いは、現実世界とファンタジーの境界線を曖昧にしてしまうことです。
「えんとつ町のプペル」の映画が来年公開予定なんですが、実はもともと映画の脚本が先にあって、その5分の1ほどを絵本にしているんです。「えんとつ町のプペル」はなんの物語かというと、通貨の話なんですよ。話の中で使われている通貨の名前がレターなんです。現実世界でみんなが使っている通貨が、ファンタジーの映画の中に出てきたら面白いなって。今の僕の興味はそこですね。
レターポットで広がる新しい経済の可能性
西野亮廣さんにお話を伺って、レターポットの世界がとても暖かいことに気づくと同時に、新しい経済の仕組みとしても大きな可能性を持っていることを感じました。人のために動くことがベースにある社会。実際のものとなったらとても住みやすい世の中になる気がします。BITDAYS編集部ではこれからもレターポットに注目していきます。
西野亮廣さん、貴重なお話をありがとうございました。
レターポットの登録はこちらから
(https://letterpot.otogimachi.jp/sign_in)
レターポットの使い方はBITDAYSで紹介しています
(キングコング西野亮廣さん発案サービス、想いを贈るレターポットの使い方)
取材:三矢晃平/文:BITDAYS編集部/撮影:堅田ひとみ