新シリーズも好評な魔法少女モノの名作

……それでは講義を始める。
前回はSFアドベンチャーゲーム「ポリスノーツ」を題材として、ゲームのコピープロテクトがゲームの謎解きと溶け合う、いわば「現実とゲームが溶け合う」認証を紹介した。
昔のPCゲームのコピープロテクト事情にも詳しくなれたと思う。いかがだっただろうか。
実は、ツイッターで「#コピープロテクトの思い出」とハッシュタグをつけて、いろいろな思い出をつぶやいてもらう連動企画を行っていた。こちらでまとめているので、興味のある諸君はご覧いただきたい。

>#コピープロテクトの思い出 – Togetter

>「架空世界 認証セキュリティセミナー」記事一覧

さて、今回は多くの読者からリクエストをいただいた、魔法少女と認証をこじつける……いや、解明する試みを行っていきたいと思う。
題材となるのは、現在新作がNHK BSプレミアムで好評放送中の「カードキャプターさくら」だ。

「ぜったい大丈夫だよ!」

まずは基本データから紹介しよう。
原作は女性漫画家集団「CLAMP」によるマンガで、1996年より雑誌「なかよし」に連載され好評を博した。
1998年4月にはNHK BS2(当時)にてアニメ化。個人的な感想だが、「美少女戦士セーラームーン」から始まる魔法少女&バトルヒロイン作品に、「誰も傷つくことのない」優しい世界観がミックスされたことにより、CLAMPの作風も合わせて男女分け隔てのないブームとなったように感じている。
幾度か起こった魔法少女モノのブームの中でも、鍵となる作品の一つであることは間違いないだろう。※1

※1:諸説あるが、魔法少女ブーム第1期の端緒は横山光輝の「魔法使いサリー」、第2期の端緒は「魔法のプリンセス ミンキーモモ」、第3期がここで語られている「美少女戦士セーラームーン」から「カードキャプターさくら」への一連の流れ、そして第4期の端緒はMagica Quartetによる「魔法少女まどか☆マギカ」であろう。筆者の独断ではあるが。

あらすじを紹介しよう。
小学4年生の少女「木之本桜」が自宅の書庫で不思議な本を発見したところから物語は始まる。
とあるきっかけで本に収まっていた不思議なカードを街中に吹き飛ばしてしまう。それは「クロウカード」といい、かつての魔術師「クロウ・リード」が作り上げた魔法のカードだというのだ。「クロウカード」を回収するため、封印の獣「ケルベロス」とともに、回収を開始する……。

Eテレ(NHK教育テレビ)で何度か再放送されているのを見た方も多いと思う。子供の世代から大きなお友達まで、幅広く大ヒットした作品だ。
そして2018年1月より新エピソード「クリアカード編」が放送されている。
可能な限りかつてのスタッフとキャストを集めており、18年のブランク(!)を感じさせない仕上がりとなっている。
なお、今回の講義では「クリアカード編」のネタバレは極力避けるようにするため、楽しみに視聴している諸君も安心してほしい。

「闇の力を秘めし鍵よ、真の姿を我の前に示せ」

さて、認証について話をしていこう。
魔法少女といえば「魔法の呪文」である。もちろんカードキャプターさくらにも魔法の呪文はいくつも登場する。
まずはクロウカードを封印するアイテム「封印の杖」を元の姿に戻す呪文だ。普段はクロウカードをしまうアルバムを閉じるための鍵の姿をしており、魔法の呪文を唱えなければ元の杖の姿に戻ることはない。
その呪文は「闇の力を秘めし鍵よ、真の姿を我の前に示せ 契約のもと、さくらが命じる 封印解除(レリーズ)!」である。ちなみに第2部「さくらカード編」では「星の力を秘めし鍵よ」、第3部「クリアカード編」では「夢の力を秘めし鍵よ」と変化する。
本講義を受けてきた諸君は、これを呪文の記憶による知識認証と声紋による生体認証の二要素認証と考えるだろうか?
しかし私の見解は少し異なっている。なにせ魔法の力であるのだから、魔法の力による未知の認証(生体認証の一種?)と思った方が、があるのではないだろうか?

カードを封印する時の呪文についても見ていこう。
クロウカード編では「汝のあるべき姿に戻れ、クロウカード!」、さくらカード編では「クロウの作りしカードよ、古き姿を捨て生まれ変われ 新たな主、さくらの名のもとに」、そしてクリアカード編では「主無きものよ、夢の杖のもと、我の力になれ 固着(セキュア)!」である。
実際のところ、この呪文のフレーズに意味があるのかと言われれば「それっぽいから」というのと、さくらが自分自身の体内から魔力を引き出すための掛け声で、儀式や作法の一部である、と筆者は考える。
スポーツ用語(?)では「ルーティン」と呼ばれているもので、フレーズ自体が道具である封印の杖や、魔法の対象であるカードに作用するのではなく、魔力を送り込むさくらの方に作用するフレーズなのではないだろうか。
そして、儀式や作法には、自分が本気になるための「それっぽさ」が必要なのだ。

余談:CCさくらのフォロワーはどうなのか?

では、カードキャプターさくらのフォロワーとなる作品はどうなっているのか? 私としては「魔法少女リリカルなのは」について触れさせていただきたい。
詳細、あらすじなどについては今回省略するが、本作品で特筆すべきは魔法というものを「システム」として考え、科学的にも説明がつくように設定が行われている点である。
そのため、魔法の呪文一つにしても「声紋認証」と「知識認証」による本人認証が行われていると見ることも十分可能であるし、その他のテクノロジーもコンピュータ科学と親和性の高いように設定されている。
これはカードキャプターさくらとの差別化として当然行われるべきものだったのかもしれない。こちらもシリーズは続いており、2018年には最新の劇場作品「魔法少女リリカルなのはDetonation」が公開予定である。気になる諸君はこちらについてもチェックしておいたほうが良いだろう。

なお、カードキャプターさくらと、近年の魔法少女ブームを起こした作品「魔法少女まどか☆マギカ」の間には、フォロワーではない重要なシリーズが登場している。それは……そう、「ふたりはプリキュア」である。
初期は肉弾戦で戦う、まるで少年ものアニメのような魔法少女ものとして話題となり、その後、いくつもの続編が連綿と制作され、現在まで続いている。
実は筆者はプリキュアについてはあまり詳しくないので、詳しい諸君には、ぜひ「プリキュアにおける認証」について研究してみて、どのあたりがこじつけられ……いや、関わっているのかを教えてほしい。

次回はあのスパイ映画を徹底解剖

今回はちょっと苦しい認証とのこじつけになってしまったが、やはり魔法少女ものは夢があることが一番だ。いかがだっただろうか。
魔法少女といえば他にもたくさんの作品があるので(中には夢も希望もない作品も……)、それらについて思いを馳せてみるのも良いだろう。

さて、次回だが、あの大ヒットスパイ映画を徹底解剖していきたいと思う。以前に題材として扱った「ミッション:インポッシブルでも、たくさんの認証が登場しており、やはりスパイ映画と認証は切り離せない存在だ。
また認証だけでなく、近年身近になったさまざまなテクノロジーと組み合わせて登場していることも注目に値する作品だ。
どれだけのネタが登場するか、今から期待して待っていてほしい。
では、本日の講義はここまで!

【著者プロフィール】

朽木 海(フリーライター、編集者)
主にITとゲームのあれこれを請け負うライター。前職は某ゲーム会社でいろんなゲームを作ったり、公式Twitter担当をしたりしていました。現在勉強中のテーマはブロックチェーンとマストドン。ここのところ忙しいのは良いことなのですが、積みゲーがどんどん増えます。どうしたものか……。

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