昨年こういうゲームが流行りました。
『Getting Over It with Bennett Foddy』
所謂『ツボ』です。クソ難しい上に、少しのミスで全て台無しになる賽の河原ぶりが最初はマゾヒストに、やがてストリーマーやyoutuberが食いつき、彼らが苦しみ悔やむ表情を見て視聴者が楽しむという構図で、一躍ヒットしました。
このゲームの作者、Jazzuoは素晴らしい名言を残しました。
「特定の人に向けて、 誕生した、ゲーム。 特定の人を、傷つけるために。」
素晴らしい意気込みです。ゲームは本来人を楽しませるものという前提を覆し、人を傷つけるために作ったというのです。
最近こういうペナルティが平気であるゲームが増えてます。日本では『DARK SOULS』が有名ですね。
プレイヤーの努力や成果を一時的に奪う「ペナルティ」を用意することで、ゲームをクリアした時の達成感や、ゲームをプレイする緊張感を高めているのです。
けど、今はもうそんな「ペナルティ」は古いです。「ペナルティ」は所詮、最終的にプレイヤーにゲームを楽しんでもらうインセンティブ、アメとムチのムチに過ぎない。一時的なものです。
ところが、最早その「ペナルティ」そのものが、苦痛そのものが目的となったゲームが存在します。それが今回紹介するRPG、
『LISA the painful』です。
『LISA the painful』。「painful」とは苦痛を表します。タイトルから既に苦痛を推しているゲーム。一体何が苦痛なのか。
決して、遊んでいるプレイヤーのマウスから針が出てくるとか、そういう苦痛じゃありません。安心してください。当然ですが肉体的には何の苦痛もありませんので。
更に、操作性が酷いとか、バグが多いとか、難易度がやたら高いとか、そういうマゾさでもない。実際に遊ぶ上では快適そのもの。ちとバランスはおかしいですが、誰でもクリアできる難易度です。
じゃあ何が痛いのか、苦しいのか。それは「心」です。遊んでるとマジで、メンタルが、病む。
「苦痛売ります。たった10ドル。」
舞台はカンザス州オレイサという片田舎です。謎の現象「フラッシュ」により女性が全滅し、無政府状態のヒャッハー状態になってます。そこに住む、冴えない中年ハゲオヤジの主人公「Brad」は、ある日、赤ん坊Buddyを拾います。それも女の子です。
普段はドラッグに溺れ、酒に溺れ、辛い現実から目を背け続けているダメオヤジのBradですが。これで心機一転。「誰にも傷つけさせやしない」と女の子を生涯守ることを誓います。
ところが現実はそう上手くいくわけもなく。友人の裏切られ、現地の最大勢力の暴力集団によりBuddyは敢え無く拉致。BradはBuddyを取り戻すため、旅に出ることになるわけです。
・・・で、唐突ですが、あなたが銃も持たず、無政府状態の荒野に放り出されたらどうなるか想像したことがあるでしょうか。まぁ餓死すればマシですね。十中八九、ヤクザ集団に捕まり、奴隷としてこき使われ、最後は臓器を取り出されて殺されるでしょう。
はい、そういう世界です。このゲームRPGですが、基本的に世知辛い。「ここは◯◯村」とタダで教えてくれる奴はいません。情報、アイテム、何でも金で解決です。(厳密にはmagというエロ本が通貨代わり。)
いや、「教えてくれない」ならまだ優しいですね。「この先に宝があるよ」と嘘をつかれ、後ろから刺し殺されることもあります。
仲間は20人近くいますが、そいつらも金で雇ったり、仲間を人質にして脅迫したり、間接的に兄弟の仇になったり、ロクな手段で加入させてません。
ただし、ごくごく僅かに、良い奴はいます。確かにいます。でも安心してください。彼らも漏れなく苦痛を味わいます。良い奴ほど先に死に、良い奴程苦しんで死にます。(でも頑張れば守ることも可能)
このゲームには多種多様なイベントがあります。例えば体力を回復させるためにキャンプすれば仲間が拉致&処刑され、それを避けるために寒村に泊まればレイプされ(無論、男に)、あとどうあがいても勝てない強敵に襲われ、仲間を自分の手で殺させたり、自分の腕や目を斬り落とされたりします。当然、仲間はその度に泣き、叫びます。
でもでも!大丈夫です!ゲームは簡単です。バランスは多少イカれてますが、誰でもクリア出来る難易度。たまに出て来る強敵は所謂「パーマデススキル」(食らうと仲間は永久退場)を使いますが、代わりの仲間はいくらでも用意できますし。
それに苦しいだけじゃない。登場人物は皆笑ってます。ブラックジョークって奴です。少なくとも、最初はこの狂った世界は笑えます。男しかいない世界で、各々自由に過ごしてますから。
・・・え?そんなんマゾヒストじゃないと楽しめないって?
いえいえ!大丈夫です!別に痛い、苦しいのは主人公だけじゃないですから。
もちろん、敵も苦しめますよ。痛めつけますよ。無辜の市民を虐殺することも出来るし、今まで苦しめてきた敵も、なぶり殺しに出来ます。
それに、放置していても怨嗟にまみれてるのがオレイサです。この世界にはJoyというドラッグが流行していて、皆溺れているんですが、実はどんでもない副作用がある。
その副作用に堕ちた人間の末路は、これはもう最高で。あぁ、これは遊んでからのお楽しみですよ。まぁこの辺からは、既にブラックジョークと笑い飛ばせる余地はほとんどないですが。
それにいいじゃないですか。これは画面の中の出来事。プレイヤーであるあなたは椅子の上でドクペでも飲みながらゆったり遊んでいるだけ。苦しんでいるのは全部キャラクターであなたじゃない…でしょ?
だから大したことない大したことない大したない大したない大したない大したない大したない大したない痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない痛い痛い痛い痛い痛い
ところで、最初『Grand Theft Auto』を遊んだ時、恐らく大抵の人は嫌悪感に襲われると思います。人を殺す。仮にゲーム内でも気味悪いことこの上ないですよね。
ところがすぐ「大したことない」と慣れます。それはゲームの残酷さでなく、幼稚さにです。『GTA』は素晴らしいゲームだけど、決してその苦痛にリアリティはない。市民を銃で撃つとすぐ死にます。似たような恨み言や叫び声をあげて崩れ落ちる。それは単なるポリゴンの塊なんです。
『LISA』は違う。同じゲームなんだけど、いかに「人が苦痛にのたうち回るか」を丁寧に丹念に描いている。恐怖に震え、我を忘れ、痛みから逃れる人間を、主人公であれ敵であれちゃんと描いている。
だからリアリティがある。本物の「苦痛」がある。それがゲームのインタラクティブな体験と伴って、プレイヤーはホラー映画で味わえない真に迫った苦痛を味わうことが出来る。これがもうたまらない。
遊んでいて吐き気がする。すぐ辞めたくなる。Exitを押したくなる。けどすぐ戻ってきてしまう。目を瞑ってイベントの会話を飛ばしたくなるけど、気付いたら集中してテキストを読んでしまう。
さながら蒙古タンメン中本の北極ラーメンみたいに。辛くて仕方ないんだけど、何故か麺を口に運んでいる自分がいる。そういう中毒性がこのゲームにあるんです。
ゲーマー日日新聞は『LISA the painful』のプレイにつき精神疾患その他一切の責任を負いません。『LISA』は用法用量を守って正しくプレイしてください。