北朝鮮の金与正氏は妊娠中? 韓国で強い関心
アンドレアス・イルマー記者、BBCニュース
北朝鮮の最高指導者、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の妹の金与正(キム・ヨジョン)氏が韓国政府関係者に対し、冬季平昌五輪を訪問した最中に自分の妊娠を伝えたという。韓国メディアが20日、匿名政府筋の話として報じた。
韓国政府は、与正氏の発言について報道内容の真偽を確認していないが、与正氏の妊娠をめぐる憶測が韓国で高まっている。北朝鮮の不透明な権力構造への高い関心と、金一族がいかに謎に包まれているかの表れだ。
ただのゴシップなのか
パシフィックフォーラムCSIS(戦略国際問題研究所)リサーチフェロー、アンドレイ・アブラハミアン氏はBBCに対し、「彼らは王室のような存在なので、この話がニュースになるのは必至だ」と語った。
「確かにゴシップだが、とても分かりにくい国の重要人物に関するゴシップだ」
妊娠が秘密に包まれ、憶測が飛び交っているこの状況は、金一族に関する他の情報(というよりむしろ、金一族について知られていないこと)の状況と同じだ。
ほとんどの場合、情報源とされるのは韓国の情報機関だ。しかし過去には、米国の元バスケットボール選手のデニス・ロッドマン氏が意外な情報源となることもあった。
正恩氏に招待され、北朝鮮を複数回訪問したロッドマン氏は2013年、正恩氏の妻のほか、夫妻の娘にも会ったと語った。
これは、誰も知らないことだった。
正恩氏にはほかに2人の子供がいるかもしれないと言われているが、これは単に正恩氏の妻が公の場に長い間姿を見せなかったことが根拠になっているだけだ。
ではなぜ、北朝鮮の最高指導者一族は、これほど秘密に包まれているのだろうか。
北朝鮮の宣伝機関は、同国指導者たちが極めて偉大な存在だという物語を作り上げている。ならば、その子供たちも同じように称えられ、同じように国民に誇らしく紹介されても良さそうなものだ。
最高指導者の神格化
しかし、指導者たちを神話的存在として見せているからこそ、妻子との日常生活は公にされないのかもしれない。
北朝鮮情報に特化したウェブサイト「NKニュース」のフョードル・テルティツキー氏は、「北朝鮮の仕組みは、絶対王政そのものだ」とBBCに述べ、それゆえに「金正恩一族は、一般人とかなりかけ離れた存在として扱われている」と説明する。
「北朝鮮の指導者たちは伝説的人物として語られる。指導者たちの情報は、我々だけではなく、北朝鮮国民にも伝えられていない」
北朝鮮のプロパガンダは、北朝鮮の3人の歴代指導者、故金日成(キム・イルソン)国家主席、故金正日(キム・ジョンイル)総書記、金正恩委員長を神格化する空気を作り出している。これは、一族の統治の正当性が確実に次世代に継承されるためだとみられている。
「他の国の王室は、赤ちゃんの誕生を発表するが、北朝鮮の場合はその必要がない。継承順位を決めるのは早すぎるからだ」とアブラハミアン氏は説明する。
例えば、金正恩氏は金正日氏の三男だ。「なので、幼児期はおろか少年期になっても、どの子供が『勝ち』か、まだ選ぶ意味がない」。
正恩氏の場合、公の場に初めて姿を現したのは2010年9月で、2011年12月に父親が亡くなるわずか1年強ほど前のことだった。正恩氏は後継者として周りに本命視されておらず、やっと後継者に指名されたのは正日氏が亡くなった後のことだった。
極めて特別な血統
北の権力構造において、血統は極めて重要だ。個人崇拝は、白頭血統として北のイデオロギー構造に組み込まれ、祭り上げられている。
しかし対象となるのは統治者の直接の家族のみで、神聖な指導者のオーラは、与正氏のような兄弟姉妹までには及ばない。
最高指導者の兄弟姉妹は、権力構造の重要な支えではあるかもしれないが、国民に見せる顔は、与えられた政治的役割を果たす通常の党員としてのものだ。
「金氏の妹は、金政権を神話化するプロパガンダの中で、特に特別な位置にいない」とアブラハミアン氏は説明する。
そのため、正恩氏の兄弟姉妹の子供が、国の指導者の立場をおじから継承するのは可能性としては非常に低い。
もしも本当に与正氏が妊娠中だとすると、第2子だと考えられている。しかし第1子の存在でさえ、憶測と伝聞に基づいている。
きりのないうわさ話に北朝鮮の専門家たちがうんざりしているのは、そのためだ。
「これがなぜここまで大ごとなのか、理解できない」と言うのは、コリア・リスク・グループの責任者で国民大学校教授のアンドレイ・ランコフ氏だ。
「人には、セックスして子供を作るという、楽しくて便利な習慣があるんだ」
(英語記事 North Korea's Kim Yo-jong baby rumours fascinate South)