個人種目より速い!それが団体パシュート
パシュートは、オリンピックのスピードスケート競技の中で唯一のチーム戦。
3人が縦に並んで先頭を入れ替えながら、400メートルのトラックを6周し、最後の選手がゴールした時点でのタイムを競います。
縦に並んで滑ることで2番目以降の選手が受ける空気抵抗は弱くなります。後ろの選手が体力を温存させながら滑ることで、先頭に出たときに最高スピードで滑りきることができます。その結果、個人種目をしのぐタイムが出せるのです。
すべては屈辱の大敗から始まった
ソチオリンピック 準決勝でオランダに敗退
今では金メダル最有力候補と言われる女子団体パシュートですが、その陰には絶対王者オランダにおよそ半周、12秒の差をつけられての惨敗というソチオリンピックでの屈辱的な大敗がありました。
ここから所属チームで別々に練習していたトップ選手を集め、強化が図られることになったのです。
強化のカギはチーム力
日本代表として招集されたのは、高木美帆選手、その姉である高木菜那選手、170センチと大きな体格が武器の菊池彩花選手、そして最年少21歳の佐藤綾乃選手の4人。(試合に出場するのはこの中の3人)
日本人選手とオランダ人選手の比較
しかし、個人個人のタイムで、オランダチームのメンバーに勝るのはエースの高木美帆選手のみ。個の強化とともに、チームとしての強化が必要とされました。
強化のポイント①「一糸乱れぬ隊列」
チームで戦うために、日本チームが常に意識してきたこと、それが「隊列」です。
前後の選手の間隔が、数十センチという極限の近さで、足の動き、手の動きをピタリとそろえます。少しでもズレれば、足や手がぶつかり、転倒のリスクさえある、高度な技術です。
しかし、この隊列が乱れると、後ろの選手が一人で滑っているのと同じくらいの空気抵抗を受け、体力を消耗してしまうのです。
日本は、ソチからピョンチャンまでの4年間、1年に300日以上のトレーニングを同じメンバーで積み重ね、互いの滑りの特徴や癖を体に叩き込むことで、この「一糸乱れる隊列」を身につけました。
強化のポイント②「高速の先頭交代」
日本のチーム力強化のカギはもう一つあります。それが「高速の先頭交代」です。
ソチ王者オランダが約7秒なのに対し、日本はわずか約4秒で、選手を交代することができます。
通常は先頭の選手がスピードを落として最後尾に回る形で先頭を交代します。オランダと同じ先頭交代を行うポーランドのデータを見てみます。先頭の選手が一度スピードを落とし、最後尾につくときに再びトップスピードまで上げていることがわかります。こうしてスピードを調整することは体力の消耗につながります。
これに対し日本は、先頭の選手がスピードを落とさずに一度コースの外側に大きく膨らみ、そこから最後尾に戻る形で先頭を交代します。
こうすることで、先頭の選手はスピードの上げ下げをする必要がなく、無駄な体力の消費を抑えられるのです。
「一糸乱れぬ隊列」、「高速の先頭交代」。こうして日本は、世界と戦うためのふたつの武器を手に入れたのです。
世界記録を次々更新
新たな武器を携えた日本。その強さは、オリンピックの前に発揮されました。
今シーズンのワールドカップ第1戦、日本は強豪オランダを下し、過去8年間破られていなかった世界記録2分55秒79を0.02秒更新します。
金メダルへの戦略「エースを生かしきる」
オリンピック前、最後のワールドカップで日本チームはさらなる快挙を成し遂げます。3度目の世界記録更新は2分50秒87。またも、3秒もタイムを縮めたのです!
このとき日本がとったのは、エースである高木美帆選手を極限まで生かす戦略。体力がある高木選手が、全6周のうち3.5周を先頭で滑ることで、他の選手の体力の消耗を抑える作戦です。
こうして日本は、さらなるスピードを手に入れたのです。
飛躍を遂げた日本の女子団体パシュート。
「一糸乱れぬ隊列」、「高速の先頭交代」、そして「エースを生かす戦略」でライバル・オランダを破り、新王者となれるのでしょうか?