派遣を学ぶ

派遣社員ももらえる!!「休業手当」「休業補償」という制度

派遣の仕事は多くが時給制の勤務。万が一を考え、少々不安になることはありませんか? たとえば、仕事中に大きなケガをしてしまった場合、急に仕事ができなくなってしまいます。働かなければ当然給料は出ないため、収入はゼロに。また、会社都合で「仕事がないからしばらく休んでくれ」と言われたり、突然「正社員を増やしたから、派遣は今週までで」と雇用を打ち切られてしまうような場合、一体どうなるのでしょうか。

そこで知っておきたいのが、「労働基準法」の知識。実は派遣社員でも「休業手当」をもらえますし、労災などで休業したなら「休業補償」が出る場合があるのです。
今回は、社会保険労務士の毛塚真紀さんに、「会社側の都合や仕事中の事故で休業することになった場合、必ず確認しておきたいこと」をうかがいました。

「仕事がないから休んで」は休業手当の対象に

「派遣労働者として働いていたときに、派遣先から『仕事がないからしばらく休んでくれ』と連絡がきた。時給で働いているから、仕事をしないと収入がゼロ!?どうしよう!」

たとえば、こんなことを突然会社側から宣告された場合、派遣社員は一体どうすればいいでしょうか。泣き寝入りして収まる話ではありませんよね。
実は、就労予定日に会社の都合で休業することになった場合「会社は平均賃金の60%以上の支払い義務」があるのです。参考に労働基準法第26条を見てみると、

(休業手当)
第二十六条 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。(条文の原文通り)

とあります。「使用者の責」とは「会社の都合で」という意味です。会社の都合で労働者を休ませる場合、一方的に賃金を支払わないと労働者の生活に支障が出てしまいます。これを防ぐための生活保障の定めです。派遣労働者の場合、労働者の生活を守るのは派遣元企業となりますので、休業手当の支払い義務は派遣元企業に発生します。

■「仕事がないから休んで」と言われたときにすべきこと

①派遣先企業から「仕事がないから休んで」と言われた場合は、すぐに派遣元の責任者に連絡をして、休業の理由について確認を求めます。
②労働契約書で派遣先企業の都合による休業の場合、派遣元企業は派遣労働者に対して、どのような保障をすることが定められているか確認します。
③派遣元企業に対して、休業手当の金額を確認します。または別の派遣先の紹介を求めることも可能です。

ちなみに、この法律に違反をして休業手当を支払わなかった場合は、30万円以下の罰金に処せられます。今後も派遣で働きたい人は覚えておくといいですね。

「今週いっぱいで打ち切りね」と言われた場合は?

「『正社員を雇ったから、派遣は今週いっぱいで打ち切りね』と言われてしまった。来週から仕事がない!?」

これも会社側の都合で、派遣社員からすると寝耳に水。どうしたらいいか、途方に暮れてしまいますよね。ここで知っておきたいのは「派遣先企業と派遣元企業の『派遣契約』が解除された場合でも、派遣労働者と派遣元企業との『雇用契約』は続いている」ということ。「派遣契約」とは派遣元企業と派遣先企業との企業同士の契約。「雇用契約」とは派遣労働者と派遣元企業との契約になり、それらを一括りで考えることはできません。

「派遣契約」と「雇用契約」はあくまでも別のものです。派遣契約が解除されたからといって、一方的に派遣労働者を解雇することはできません。派遣元企業は、派遣労働者の雇用期間満了までは雇用し続ける必要があります。

■「今週いっぱいで打ち切りね」と言われたときにすべきこと

①派遣先企業、派遣元企業、双方の協力を得て関連会社への紹介を受けたり、別の派遣先の仕事の紹介を求めます。
②新たな派遣先企業をすぐに紹介されず、自宅待機期間が生じる場合は、会社都合での休業という扱いになるため、派遣元企業には休業手当の支払い義務が生じます。派遣元企業に対して、休業手当の金額を確認します。

派遣先企業の都合で仕事を打ち切られそうな場合は、すぐに派遣元企業に連絡しましょう。

仕事中に階段から落ちて足を骨折!労災保険の休業補償とは?

「仕事中につまずいて階段から落ちて、足の骨を折ってしまった。運ばれた病院で目が覚めたら『しばらく入院して』と言われて呆然……」

仕事中にケガをしてしまうことは珍しくありません。しかし、入院しなければならないほどの大ケガをしてしまった場合はどうすればよいのでしょうか。
ここで知っておきたいのは「仕事が原因でケガや病気になった場合は、労災保険の対象になる」ということ。

労災保険とは正式な名称を「労働者災害補償保険」といい、仕事中(業務上)や通勤途中に起こった事故で病気やケガをした場合などについて給付が行われる制度をいいます。ちなみに、この場合は健康保険が使えません。

労災保険には「休業補償給付」があり、これは業務または通勤が原因となったケガや病気のため、仕事ができなくて賃金の支払いを受けられないときの収入補償です。平均賃金の80%の支給があります。ただし、労災保険の休業補償給付は4日目から支給されます。ケガや病気をして休業した最初の3日間は派遣元企業に休業手当(こちらは平均賃金の60%以上)の支払い義務があります。

■仕事中にケガや病気をしたときにすべきこと

①すぐに派遣元の責任者に連絡し、労災保険の手続きを依頼します。
②労災保険の手続きに関しては、治療費や処方薬に関わる書類(通称:様式5号)や、休業補償に関わる書類(通称:様式8号)の他、転院した場合などの書類がありますので、状況が変わったらすぐに連絡を行います。

また、労働基準法第19条を見てみると、

(解雇制限)
第十九条 使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。(条文の原文通り)

とあります。仕事が原因でケガや病気になった場合は、休業している間と、その後30日間は法律によって解雇ができない期間になっています。これも覚えておきましょう。

■「労災保険」を使うとき注意すること

気をつけなければいけないのは、小さな事故の場合、医療費全額を事業主(※1)が負担することで労災保険を使わせないというケース。これは通称「労災隠し」といって、犯罪になります。私用中のケガを装って健康保険の保険証を使わせることも、よくある労災隠しの手法です。労災保険の給付は、健康保険よりはるかに手厚くなっていて、後遺障害が残った場合には1~14級までの補償もあります。そして障害補償年金や遺族補償年金は、条件を満たす限り一生涯もらえるものです。もし、労災隠しの疑いがある場合は、労働基準監督署に相談してみましょう。
※1 派遣社員の場合は「派遣元企業」と「派遣先企業」の両方

まとめ

時給制で働いていると、急に働くことができなくなった場合に収入が不安定になりがち。しかし、法に基づく「休業手当」や「休業補償」を知っていれば、いざというとき、必ず自分を守ってくれます。そして就業中に困ったことがあった場合は、すぐに派遣元企業に報告・連絡・相談をするようにしていきましょう。

※この記事は2017年12月時点での情報です。


記事執筆:毛塚真紀
社会保険労務士。
通算23年間以上実務に携わり、雇用保険、社会保険の取得喪失の手続きなど日次処理から助成金の申請、労災や年金の書類作成、安全衛生に関するアドバイス、年金事務所やハローワークに提出する年次処理の書類作成、各種相談など、経験を積んできました。
「愚痴の中から問題を見つけ、愚痴の中に解決の糸口がある」小さな相談から万が一のトラブルを未然に防ぐお手伝いをしています。長年の経験の中で出会った事例と法令に基づき、様々なご提案をしています。

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