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日本はいま、不可解な「円高サイクル」に突入したのかもしれない

デフレ脱却に立ち込める暗雲

「金利差モデル」の崩壊

2月に突如として始まった主要国株式市場の大幅調整だが、その震源地は米国の債券市場だといわれている。

もともと、米国長期金利(10年物国債利回り)は昨年9月頃から緩やかな上昇基調にあったが、それでも2.5%を下回る低水準で推移していた。これが、今年に入ってから次第に上昇ピッチを強め、3%台をうかがう展開をみせたことが投資家に嫌気され、株価の下落につながったとされている。

米国長期金利上昇の背景には、このまま米国景気の好調が続くと、やがてインフレ率が上昇し始め、それがFRBの加速度的な金融引き締めにつながることを投資家が懸念し始めたためだと推測される。

このような長期金利の上昇(債券価格の下落)と株価の下落の同時進行は、金融引き締めの初期に典型的にみられる現象である。思い起こせば、日本のバブルが崩壊し始めた1990年にも同様のことが起こったと記憶している。

米国市場の混乱の影響を日本の株式市場も受けざるを得なかった。元来、日米の株価はある程度連動しており、米国株価が急落する中、日本株が無傷ということは想定しづらい。そのため、ある程度の下落は仕方がないことである。

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だが、不思議なのは、この局面で為替レートが円高ドル安で推移していることだ。

一般論でいえば、ドル円レートは日米金利差で決まるといわれている。この一般論で考えると、米国金利の上昇はドル高要因のはずである。

さらにいえば、日本の債券市場は、日銀による「イールドカーブコントロール(YCC)政策」が効いていることもあり、安定的に推移している。そのため、日米金利差でみれば、円安ドル高が加速していてもおかしくない状況である。

従って、残念ながら、金利差モデルは「見るも無残に」崩壊しており、為替レートの動向を考える際に、これまでのように機械的に金利差を当てはめただけではどうしようもない。

最近の円高ドル安の原因を考えてみると、投資家が日米金融政策の差についての認識を変え始めているのかもしれない。

 

円高要因とドル安要因

そこで、日米の金融政策を「マネタリーベース」という「量的指標」でみてみる。

1月の日本のマネタリーベースは前年比+9.7%、季節調整済前月比年率換算で-4.1%と量的緩和のペースが目にみえて落ちてきた。その一方で、米国の1月のマネタリーベースは前年比+6.5%、季節調整済前月比年率換算で+0.5%と底堅く推移している。

この1月の日米のマネタリーベースの動きは、これまでの動きと比較するとわずかである。純粋に数字だけみれば、これが為替レートに影響を与えたようにはみえない。

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