一片の悔いなし
衆議院京都2区選出議員である前原誠司氏の発言が、話題を呼んでいる。安倍政権に大勝を許した昨年の総選挙での希望の党への合流について、「全く後悔していません」(産経新聞、1月20日)と語った。
政治家の決断に対する評価は、短期間で決まるものではない。例えば、一時の敗北を甘受しても、筋を通すことによって後にはより多くのものを達成することはある。
では、選挙前後から現在までの前原氏の言動に、選挙での負けを打ち消すような、価値あるものはあるだろうか。
魂は売らない
いわく、「共産党に魂を売って惨敗するより、チャレンジしてよかった」。「合流には《非自民・非共産》の大きなかたまりを作る狙いがありました。民進党の《左旋回》はひどすぎた。日米安全保障条約の廃棄を掲げる共産党と政権選択選挙で協力することを、有権者にどう説明するんですか」。
前原氏にとって、共産党を含む野党との共闘路線をとることは、「共産党に魂を売る」ことなのだそうだ。
しかし、少なくとも昨年6月頃まで、前原氏は「魂を売る」路線を基本的に維持しており、全国の民進党関係者はその路線に従って選挙準備を進めていたのである。前原氏はそれを「どう説明する」のだろうか。
なお、共産党は現在、日米安保条約の即時廃棄を主張していない。
魂の主張
では、前原氏の「決して売れない魂」とは何なのであろうか。国民負担を増やしてでも福祉を充実させ社会不安を取り除くという路線を前原氏は強調しているが、福祉の充実という考え自体に他の野党は反対などしていなかったし、この政策は安倍政権によって現在模倣されつつある。
すると残る主張は、「非自民・非共産」の大勢力をつくるということ以外にはない。この「大きなかたまり」には何もする能力も意思もないことは、菅・野田民主党政権によってすでに十分証明された。
つまり、前原氏の魂の主張とは、「第二自民党をつくってお山の大将になり、何かの拍子に政権が転がり込まないかなぁ」ということだと推論される。
前原氏の実績
有権者は、前原氏のこれまでの実績を虚心に振り返ってみるべきであろう。最初に民主党党首を務めた際には「偽メール事件」を発生させ(2006年)、永田寿康元議員は自殺した。外務大臣時代には、尖閣諸島沖中国漁船衝突事件の発生に際し、「日本の国内法に基づき粛々と対応する」との発言により「棚上げ合意」を一方的に破棄することで緊張を高めた挙句、超法規的措置に逃げた(2010年)。そして、民進党党首として、今回の振る舞いがあった。
この非凡なる者
それでも前原氏の名前に「誠」も入っているのだから、主観的にはすべて誠意を尽くした振る舞いだったのに違いない。そうだとすれば、昨年の総選挙で、「ずっと一緒にやってきた枝野さんと別れるのはきわめて残念」と言いながら、立憲民主党が候補者を立てた全選挙区で徹底対決する一方、公明党に対しては妥協的に戦った希望の党の選挙戦術には、常人には理解できない誠意が込められているのであろう。
京都の有権者と京都財界を牽引してきた稲盛和夫氏らは、非凡な政治家を育て上げたものである。
※本稿は「京都新聞」2月14日夕刊に掲載されたものです。