前例がなく話題になる、という点ではウェブサイトのサロン(Salon)における最近のプロジェクトは高得点をあげていると言える。アドブロックを使っているサイト訪問者に対して、サロンは2月12日から前例のないメッセージを表示しはじめた。彼らのサイトを広告表示を許すサイトのリストに加えるか、ユーザのコンピューターの使われていない処理能力を活用して仮想通貨マイニング(採掘)をさせるか、どちらかさせて欲しいというものだ。
仮想通貨マイニングに同意をしたユーザのコンピューターもしくはスマートフォンでは、JavaScriptを使ってプロセッサーを利用するソフトウェア「コインハイブ(Coinhive)」がローンチされる。そのソフトウェアが複雑な計算を行い、モネロ(Monero)と呼ばれる仮想通貨を採掘するのだ。
サロンのオーディエンスのうち4分の1程度がアドブロックを使っている。そのため今回のプロジェクトを通して仮想通貨マイニングに参加するユーザ-数は限られていると考えられる。それでも長期的には仮想通貨マイニングも重要な収益源のひとつになり得るとサロンは語った。
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「ジョークではない」
サロン・メディア・グループの最高経営責任者であるジョーダン・ホフナー氏は「これは笑いを狙ったジョークではない。この種類のマネタイズ戦略を行う最初のメディア会社になる意図だ」と語った。
アドブロックを解除するか、使っていないコンピュータの処理能力をサロンに使わせてアドブロックを継続するか、という選択肢が表示されている。
マイニングを開始するまでにユーザーは二度、承認を尋ねられる。
ホフナー氏によると、開発チームはこのアイデアを社内で数カ月間構想していたという。そしてコインハイブの存在を知ったのだ。ホフナー氏は元Googleのエグゼクティブでもある。彼はブロックチェーンと仮想通貨を2年間学び、どうやってそれをデジタルメディアに適応できるかを考えていたという。ほかにも多くの人がこの命題に頭を働かせてきた。
デジタルパブリッシング業界ではサロンはパイオニア的存在であった。しかし、小規模な会社へと縮小してしまった。2017年の4月から12月の9カ月間での収益は390万ドル(約4億円)程度となっている。
「何もしないよりは良い」
サロンによる、オーディエンスを使った仮想通貨マイニングに対する反応はさまざまだ。仮想通貨について長く観測してきた人たちは興味を持って見つめている。ブロックチェーンクライアントであるモナックス(Monax)のファウンダーであり、アダム・スミス研究所のフェローであるプレストン・バーン氏は「これをもしほかの出版企業も行うようになれば、マイニング産業を大きく揺るがすことになるだろう。単純に良いコンテンツを制作することで大規模なマイニング行為を行うことができる、ということを意味しているからだ」と語った。
一方で冷めた目で見ている者も多い。コインハイブ自体は最近になって悪いニュースで注目を集めた。ユーザーの同意を求めないブラウザのプラグインやポルノサイト、そしてデジタル広告などにスクリプトを埋め込み悪用される、という事件が起きた。ユーザーがこういったネガティブな印象とサロンを関連付ける可能性もある。そうならないことをサロンは祈る必要がある。
ホフナー氏は、今回のアクションによって仮想通貨マイニングを追求するベストの方法は何か、情報をもっと集めることができると考えている。「いまのところは『何もしないよりは良い』戦略となっている。しかし、将来的には望ましい目標を達成するだろう。プロダクトを作るためには、もっと情報が必要なだけだ」と、彼は語った。
Max Willens(原文 / 訳:塚本 紺)