IoTが築く医療・ヘルスケア分野の未来
IoTが築く医療・ヘルスケア分野の未来
提供:株式会社日立製作所
急速な少子高齢化社会への移行、さまざまな健康問題の増加、そして医療費の増大など、現在、私たちはヘルスケアに関わる重要な課題に直面し、健康寿命の延伸、医療格差縮小の実現による生活の質(QoL)向上に向けて大きな転換期を迎えている。
IoT(モノのインターネット)活用への試みがさまざまな領域で広がっているなか、臨床の現場では、すでに画像診断などの分野においてデジタル技術の適用が進みつつあり、イノベーションへの期待が高まっている。データを収集、蓄積、分析して利用する。その利用結果を再びデータとして取り込み、活用するサイクルが重要となる。このサイクルがシステムの価値を一層高めるからだ。医療分野でのIoT活用への挑戦にスポットを当てた。
医療現場でのAI(人工知能)、IoTの利用への取り組みが活発化している。とりわけ目につくのがCT(コンピューター断層撮影装置)やMRI(磁気共鳴画像装置)、内視鏡などの画像診断の分野だ。そもそも現在、話題となっているディープラーニング(深層学習)は、ビジュアライゼーションの研究に端を発する。医療分野でAIと親和性が高いのは画像診断。しかし、その利活用までには多くの課題が存在する。医用画像のAI診断を研究、その開発にも携わる中田典生氏(東京慈恵会医科大学准教授、医学博士)に、お話を伺った。
研究の内容を教えてください。
CTやMRIで撮影した医用画像をAIで診断するアルゴリズムを開発しています。患者さんのCTやMRI画像と、その診断結果のデータを大量にAIに与える。AIは画像の特徴と診断結果との関係を学習し、そこから浮かび上がる関係性を見い出す。このディープラーニングによってAIは、医用画像から、患者さんの疾患可能性を示すことができるようになります。ポイントは、人間の側がいかに適切な診断データをAIに与えるか。その質と量がアルゴリズムの優秀さ、AIの優秀さを左右します。
東京慈恵医科大学准教授、医学博士 中田 典生氏
実用化までに乗り越えなければならない壁はありますか。
人口当たりのCT、MRIの保有台数で日本は世界トップです。ですから画像データも膨大。しかし、それを扱う人材不足により、詳細な読影レポート化や、精緻な分析がなかなかできていません。これは患者さんにとって大きな不利益です。診断のAI化という発想もそこから出てきました。またAIのアルゴリズムの精度向上には質の高い解析データが必要不可欠ですが、そのデータをつくる専門家も不足しているのが現状です。これが最大の課題です。日本では解析データが病院内に留まっているケースが実に多い。日本には世界中がうらやむ、膨大な画像データがあります。活用しない手はありません。そのためにはデータのオープン化や関係者の連携が重要になります。
医療診断でのAI利用で、患者さんと医師の関係は変わるでしょうか。
AIはあくまで道具です。乗り物にたとえると今は産業革命時の蒸気機関車くらい。馬よりちょっと速いくらいですが、いずれは飛行機並になる。でも飛行機にもパイロットはいます。「左手に富士山が見えます」なんてあいさつをする。あれは飛行機という機械が自分のコントロール下にあるという機長のアピールです。それで乗客は安心する。医療も同じで、AI診断は医師の監視下で行う。医療は患者さんと医師とのつながりのなかで進むもの。AIやIoTはそれを正確で円滑なものとするテクノロジーだと考えています。
開発はどのように
行っているのでしょうか。
まずは私自身が医用画像を分析し、結果をAIが読める形式に整え、AIに学習させています。地道な作業です。国内外の研究者との連携も深めています。海外の学会に参加し、研究者を日本に招く。こうして仲間を増やし、データを集めるほど、AIの正確さも増します。一方で、AI自体の研究やシステムの構築をIT(情報技術)メーカー、医療機器メーカーと共同で行っています。そのなかでも熱心なのが日立です。アルゴリズムの良し悪しはデータの質と量で決まる。このAIの本質を日立はよく理解しているので、とても信頼しています。日立をはじめとする、さまざまなパートナーとの協創によって、一歩一歩着実に前進しています。
IoTが実現する将来の医療、画像診断とはどういうものでしょうか。
AIは誰かが独占して開発、利用するものではありません。多くの専門家が持つ知見やデータを共有し、よりよいものをつくっていく。それにはオープンな環境とIoTの活用が不可欠です。例えば、世界中の医用画像診断でIoTを介したAIを使い、分析結果をIoT経由でAIにフィードバックする。これをサイクル化すれば、AIは継続学習でより賢くなる。その先には大きなイノベーションが待っていると思います。画像診断、さらには医療機関をはじめとする社会全体にもAIやIoTが広がり、一人ひとりに最適なケアを届けられる。そんな誰もが健康で安心・安全に暮らせる社会が実現することを願っています。
プロフィル
東京慈恵会医科大学准教授、医学博士 中田 典生
なかたのりお・1963年生まれ。医学博士。日本医学放射線学会所属。88年、東京慈恵会医科大学医学部卒業。2004年、同学放射線医学講座講師、11年より准教授。同年、同学付属病院画像診断部診療医長に就任。その後、同学ICT戦略室長、超音波診断センター長、総合医科学研究センター超音波応用開発研究部部長などを歴任、現在に至る。学外では日本医療研究開発機構(AMED)医工連携事業、推進事業の技術審査委員、日本医用画像工学会常任理事、医薬品医療機器総合機構(PMDA)専門委員などとしても活躍。17年には厚生労働省「保健医療分野におけるAI活用推進懇談会」構成員を務めている。