昨年亡くなった気象エッセイストの倉嶋厚(くらしま・あつし)さんが世に広めた言葉に「光の春」がある。若いころ独学でロシア語を勉強した時に出合い、後にソ連を訪れた時に意味を知った「ベスナー・スベータ」の日本語訳だ▲寒さは厳しいが、日一日と輝きを増す日差しにいち早く春を感じる2月である。その日脚の伸びは氷に閉ざされた高緯度地方ほど著しいという。「氷点下20度の北国でも、軒のつららから最初の水滴が日に輝いてポツンと落ちます」▲シベリアのマガダン州ではベスナー・スベータは2月15日から始まるそうで、日にちまで決まっている。これを紹介した倉嶋さんのおかげで、光の春は日本でも気温上昇に先駆けて訪れる春を喜ぶ季題として重宝されるようになった▲ただ日本では伸びる日脚と歩調を合わせるように訪れるもう一つの「春」もある。光の春が目で喜ぶ春だとすれば、こちらは鼻を悩ませる春--花粉症の季節である。東京では1週間前の14日にスギ花粉の飛散開始が確認されている▲日本気象協会によれば今季のスギ・ヒノキの花粉飛散量は10年平均でみれば例年並みらしい。ただ少なかった昨季に比べると東北、関東甲信、北陸、東海、近畿、四国で飛散量が増えそうで、とくに東北で2倍を超える見通しという▲予報によればきょうから寒気が戻る地方が多いものの、来週には春めいた陽気がやって来る。小鳥の初鳴きなどが告げる「音の春」も近いが、先取りしたい春もあれば遅れてほしい春もある日本の2月だ。